第二話 秩序

第二話 秩序

「こんなの、あんまりじゃないか……?」


……ひとまず、何も書かれていない手帳のようなものを見つけたので忘れる前に色々まとめておくことにした。


これ以上記憶を失ってしまったら、自分という存在を見失ってしまうかもしれないと怖くなったからだ。

僕が心配性すぎるのかもしれないが。


手帳に色々書き纏めていると、赤髪の女性がこちらの方へ歩いてきて声をかけた。


「ようこそ、名も知れぬ純人間。この世界はワルディアース。Wの字を冠する、秩序の世界だ。」


「……ワルディアース?秩序の世界?え、えっと……」


聞き慣れない言葉のオンパレードに狼狽えていると、更に追い討ちをかけられる。


「お前はどこから来た人間だ?フリーディアか?ウタリアか?それとも……いや、これ以上聞くのはよそう。」

「私にとってはどこから来た人間でも関係ない訳だが……秩序を乱すような行動をしたら、即ヘルスト行きにしてやる。秩序は守られなければならないからな。」


「ま、待ってください!僕、何も知らないんです!僕は、えっと……日本の東京って所から来たんです。でも、ここに来るまでの記憶が曖昧で……」


今までの事を、全て正直に話した。

カイの事だけは不思議と言ってはいけない気がしたので、彼についての話だけはしなかったが……他に覚えている事はほぼ全て、女性に伝えた。


「にわかには信じ難いな。そのような事を言ってワルディアースに侵入しようとしたゼノの野郎共がどれだけいた事か。お前もヘルストに──」


「レイ、そこで何をやっているんだい?」

「……パティ。」


女性の話を遮るように、頭上からどこか幼げな声の男子が声をかけてきた。どうやら赤髪の女性はこの世界でレイと呼ばれているらしい。

見た目は僕と同じくらいの年齢に見える、黒髪で美形の……何と表せばいいのだろうか。僕の知る限りの言葉で表すのなら、まるで堕天使のような見た目の青年が翼を広げて空からゆっくりと降りてきた。彼はパティと呼ばれているようだ。見た目の割にどうも可愛らしい名前だな、という心の声は声に出さずに心の中で咀嚼して飲み込んだ。

何故か、彼の姿を見たことでここが僕が生きた世界とは全く違う、現実の世界ということをようやく受け入れられた……気がする。


「おや?そっちの純血の人間さんは誰かな。」


純人間や純血という言葉をよく聞くなと思っていたが、パティのように人間ならざるものも存在するからその呼び方をされていると、今になってようやく気づいた。


「……人間さん?おーい。」


パティのその言葉ではっと我に返り、自己紹介(?)をすることにした。


「あっ……はい!ちゃんと、聞こえてます。僕……亮っていいます。東雲 亮。」

「パティ、こいつ……じゃなくて亮が、日本?って所の東京から来たって言っていたが真実か?」


「あはは、僕に聞かれても困るなぁ。」


そう言うと、いきなりこちらに近づいていて目を合わせようとしてくる。

綺麗な瞳でこちらを見てくるので、少し……ドキッとしてしまった。


「でも、嘘をついてるようには見えないよ?その瞳も、とっても綺麗だし。……ああいや、口説きたい訳じゃないんだけど……少なくとも、彼の瞳の奥底から闇の気配は感じないよ。」


パティがそう言って離れていくと、僕はほっと胸を撫で下ろす。やましいことがないのに近くに警察がいるとビクビクしてしまうのと同じなのだろうか、詳しくはよく分からないが……とにかく、怖かった。

緊張のあまり入ってしまった手の力をゆっくりと抜いていく。

それに気づいたのか、パティがレイに声をかけた。


「ほら、レイが怖いこと言うから亮君怖がってたじゃん。ちゃんと謝りなよ?」

「お前はどこから聞いてたんだよ……」


「とにかく、その……悪かった。最近、ゼノの野郎共が頻繁に潜り込んで来るから神経質になりすぎていた……。」

「い、いえ。大丈夫です、なんとか誤解も解けましたし。」


信用して貰えたのかは分からないが、先程よりは警戒されていないはず。

勇気を振り絞って、さっきから知りたいと思っていたことを聞いてみることにした。


「この世界について、色々教えていただけないでしょうか?」


第二話 終

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