深層世界記録
蒼華
第一話 現世界の幻想
第一話 現世界の幻想
誕生日の前日の17時頃、住宅地の中心にて。
「なあ、亮!あの日の約束忘れてないよな!」
別れ際、背後から聞こえる友人の声。約束……なんの事だっけ。あいつの事だから、未だに昔の口約束を引きずってるんだろうな……
「……うん、忘れてないよ!」
「ならよかった!明日、河川敷に来いよー!あれ、掘り起こすからな!」
「██、あれってなんだったっけ?」
……なんか急に眠くなってきたな、早く帰って……寝…………
「……ほら、あれだよあれ……亮?ちょっと、どうしたんだ急に!?しっかりしろ、亮!!」
…………
「そっからの記憶が全然ない!!」
声はやまびこのように反響するが、帰ってくるものは自分の声だけ。他聞こえる音があるとするなら、風に煽られた木々が揺れる音のみ。
頭上にある木々の隙間から月の光が見えるが、自分が森のど真ん中にいるということ以外何も分からない。
まさか、今流行りの……いや、もうブームは過ぎたか?……それはどうでもいいけど、異世界転生とやらをしてしまったのでは!?
……なわけないでしょ、非現実的にも程がある。でもそうじゃなかったらもっと嫌なものが……
……とりあえず、覚えていることを整理しようとスマホを探したが、スマホが入っているバッグもないので頼りになるのは自分の記憶のみ。とりあえず、覚えていることを口に出して言ってみることにした。
「僕の名前は東雲 亮、年は……日を跨いでるならなら18歳。世間一般的には普通の男子高校生……だと思う。」
「……とりあえず、朝になるまで待つか。このままじゃ余計に迷子に……」
「人間。そこで何をしている。」
「うわっ!?」
突然、背後から声が聞こえた。咄嗟に立ち上がって声の聞こえた方を振り向いてみれば、細身……と言うには痩せすぎているように見える、すらっとした体型の男性が立っていた。あまりよく見えないが、背中からは羽のような物が生えている。こんな森の中でコスプレをしながら歩いているのか?
「……すまない、驚かせるつもりは無かった。」
色々思考を巡らせていると、相手の方から突然謝罪される。確かに音もなく近寄ってきて背後にいた事には驚いたが、こんな状況ではそんな細かいことは無視した方がいいのかもしれない。いやどう考えてもおかしいのだが。
「いえ、大丈夫ですよ。ところであなたは……」
「名前は無い。好きに呼べ。」
ネーミングセンスなんで物は持ち合わせていない。少々乱暴な口ぶりな相手だったので、チワワとでも名付けてやろうかと思ったが、初対面の人を犬扱いするのはあまりに失礼だったのでやめた。
「……そう言われると困りますね、何か仮の呼び名とかは……」
「適当でいい。決められないならカイとでも呼んでおけ。」
……カイ、その名前は聞き覚えがある気がするのにどこで聞いたものか思い出せない。そういえばあいつの名前も思い出せないな……
「……カイさん。ここってどこかご存知でしょうか?」
「はぁ?お前、ここがどこかも知らずに森のど真ん中に座ってたのか?……迷子にしてもあんまりじゃないか。
「お前、どこから来た人間だ?」
……どこから来たか。そもそもここがどこかを先に教えて欲しいのだが、こちらが応えなければ教えてくれないだろう。
信じて貰えないかもしれないが……今までの事を全て、正直に話すことにした。
「……えっと……分からないんです、どうやってここに来たのかも、何も……」
「そうだ、ここに来る前は確か東京に……」
「東京、だと?それって日本の……」
東京という言葉を出した途端にカイは突然声色を変え、何やら焦っているような様子を見せるようになった。
「そんなに驚くことでしょうか……?」
「……こっちだ、ついて来い。森から出るぞ。」
「あ、ちょっと……!」
無理やり手を掴まれ、連れていかれるというより引きずられながらも体感6分ほど一定の方向に歩き続け、なんとか森の外へ出た。
「なにこれ……」
そこに広がっていたのは、大量の浮島が存在する幻想的な世界。僕が知っている現実とはまるで違う、夢の中のような場所。
流石にこれが現実なんて、ありえない。そう思って自分の右の頬をつねってみるが……まあ、痛かった。夢から覚めるために、と強くつねったせいで右頬が少しヒリヒリする。
ふとカイの事を思い出し、後ろを振り向いてみて
「カイさん、ここって」
カイにこの世界について問おうとしたが、そこには誰もいなかった。
「……カイさん?」
呼びかけてみても、返事は無い。森の中へ戻ろうとしたが、また迷子になってはかなわない。……しかし。
1歩踏み外せば奈落の底へ真っ逆さま……僕はそんな危険な場所に、たった一人、道具もなしのままで放置されてしまったのであった。
「こんなの、あんまりじゃないか……?」
この時の僕は、これがきっかけで世界を渡り歩く壮絶な冒険が始まるなんて、予想することすらできなかった。
第一話 終
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