第9話 霊力修行

「はあっ!」


 薄暗い廊下を這う怪異に手のひらを向け、霊力針を放つ。細長い体にいくつも針が刺さる。しばらく体を大きく振って暴れる怪異。そこに、とどめとばかりに大きく作った霊力針を放つ。それは狙ったところには届かないまでも、怪異に命中した。

 怪異の姿が塵のように掻き消える。


 霊力操作を藤原くんに教わってから二週間。私は藤原くんと共に放課後怪異退治にいそしんでいた。


「うん、だいぶ霊力の使い方が上手くなったね」


 最近は、はじめのように霊力を爆発させることも少なくなった。


 放課後の学校。はじめに藤原くんに怪異から助けてもらったことを思い出す場所。今日は学校で怪異退治することになっていた。ここ二週間でだいぶ度胸がついてきたのか、霊力針の命中率も上がってきた。河原での修行以降、廃病院や墓地といった王道のホラースポットや、ちょっとした路地裏などの人目に付きづらいところをメインに修行をつけてもらっていたので、見知ったところで自分で祓うのは初めてだ。でも、うまくいってよかった。

 藤原くんは練習の度に付き合ってくれている。何度か危ない場面もあったけど、助けてくれていて少し申し訳ない。けれど、日ごとにうまく操作できるようになる霊力に夢中になってしまった。


「これだったら、低級怪異に対してなら自衛もできるかもね」


 だからその言葉を聞いた時、当初の目的を忘れていたことに気づかされたのだ。元々、怪異が認識できる人間が襲われやすいから自衛のために教えてもらっていたのだ。この時間は期間限定で、私が一人で自衛できるようになれば不要のものだったのだ。


「あ、うん」


 なんて、思い上がり。この日々が、ずっと続くと思っていた。私はもっと強くなって、藤原くんの手を煩わせないで、むしろ一緒に助け合って怪異退治なんかして。そんな未来を描いていたことに気づいた。


 その日の帰り道、私は藤原くんに話しかけることができなかった。

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