私と君の怪異譚
先崎 咲
第一章 出会い
第1話 プロローグ
夕方の校舎。逢魔が時というのは本当にあったらしい。私は今、化け物に追われている。
帰り道、忘れ物に気づいたのは偶然だった。ふと、曲がり角のミラーに映る自分を見て何か足りないなーと思って、何が足りないんだろうと考えて、思い出したときには若干血の気が引いた。だってお母さん、お弁当を出さないと怒るから。忘れたなんて言ったら怒髪天を衝いてしまう。
そうして私は飛ぶように学校にUターンした。
先生の姿が見えないことをいいことに、廊下を全力疾走する。教室の扉を勢いよく開けて急停止。少しつんのめったが、転ばずに済んだ。よかった。
教室の中には誰も居なくて、息を整えながら自分の席に向かう。机のフックには私のお弁当袋。良かった、これで怒られない……。
安心して、お弁当袋をしっかり持ち、廊下に出ようと扉に手をかける。そして、扉の窓にヘビのような長い影がすうっと写った。──怖い!
思わずしゃがんで息をひそめる。影が全て通り過ぎると、静かに扉を開ける。廊下を覗いた先には、ヘビのようなうなぎのような、そんなよくわからないものが、ふらふらと人の頭くらいの高さに浮いていた。その怪物はすぅっと廊下の角を曲がり、見えなくなった。
とりあえず、見つからないようにしたい。とにかくそう思って、化け物と反対側の階段に向かって歩き出す。全力疾走したい気持ちを抑えて、見つからないように静かに。階段を一階分、二階分と降りてあと一階分と思った矢先に、さっきとはまた違う化け物に遭遇した。
そうして今、その化け物から全力疾走で逃げてる真っ最中。真っ暗な夜の影に恐ろしい手のような姿。泣きたくなる気持ちと恐怖で今の私の顔は見るも無惨になっているだろう。息はとっくにあがっていて、心臓はうるさいくらいに鳴っている。そして、眼の前には行き止まり。ああ、私はこれから死ぬのだろうか、校舎の壁を見てそんなことを思った。乾いた笑いが漏れる。そして、──後ろから地獄の釜の底からの叫び声のような音がした。
その音がする方に振り返ってみれば、刀を持った青年がいた。彼と私の間には、先程まで私を追っていた化け物が塵のように消えていく真っ最中。けれど私には、その青年の纏う海の底のような静けさに、──ひどく目を奪われていた。
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