第25話

「さて、やるか…。」


「ええ、大丈夫よ。私達なら。」


 レイドタイプ出現の十分前、我々は出現予測点である山の側面に走る道路の上に立つ。恐らくこの先の山の中から発生するのだろうが、不意打ちを予想して開けた道路に陣取った。


『気張れよ。だが迷うな。』


『この気配、我々の国でも感じた事は無い。恐らく未知の敵だ。』


 リキもイズも緊張している様子だ。


[システムチェック、…問題ありません。]


 ガンプには念のため複数回状況のチェックをお願いしている。ある意味、機械の仲間がいるというのは緊張や感情で間違う事が無い為に今の状況では頼もしい。そして。


「むきゅ!」


[がんばりましょう、キュー助。]


 未来からの戦闘要員そのまま採用、命名キュー助となった。ソフィアが昼間に時代劇を見るのにハマっていて、そこから助を取ったのだ。


 俺はこの命名に結構抵抗したのだが、その上で本人が気に入ってしまったもんだから引けなくなってしまった。なんで女の子に助…。


 だがそこらへんは海外のセンスというか、お互い言語を知識として得てはいるが、言語に対するセンスは未実装なのだ。それでもツーラーよりは流石にマシなのでナイテイルにもその呼称にさせた。


「キューちゃん、あまり無理せずにすぐ撤退しろよ、ナイも危険なら強制転送を起動してくれ。」


「むきゅきゅ!」


[了解しました、コマンダー。]


 一応キュー助で使う未来のポイントが少なかったので残ったポイントで強制転送という機能を購入した。これは回復ポッドに問答無用の空間転送を行うという物。しかし実装はキュー助のみだ。人間には安全性が保障されてないので使用不可なんだって。その上一発20ポイント消費、金より高いので使用しない事に越したことはない。


 怯えてナイテイルに隠れている様な彼女だったが、どうも人が怖いだけで我々に慣れた今は戦闘に影響は無く、むしろのびのびと動ける様になった事で身体能力や判断力が向上しているらしい。その上で彼女の能力を確認した所、かなり有用である事が解ったのだ。


 彼女は攪乱型で、神力によるチャフの目くらましや幻覚で敵を攪乱させる能力であり、我々にはできない技能を持っていたのだ。


 しかし攻撃能力は最低限であり、ガンプの初期装備以下の火力しかないので単体運用は厳しく、連携して戦う必要がある。


 なおキュー助はしゃべれないが、彼女の言葉をナイテイルが翻訳してくれている。一応キュー助はこちらの言葉は理解しているらしい。


「むきゅ…。」


 初陣で落ち着かないキュー助を見ると、怖がってはいない様だが首元をしきりに擦っている。


 というのもここには首輪がついており、この首輪が身体能力のリミッターになっている。首輪があると本当に見た目通りの女児程度の身体能力なのだが、これを外すと拳一発で俺が吹き飛ぶ身体能力になる。


 ただ日常でその出力は危険だからと言う事で、戦闘以外では首輪でリミッターをかけ、その上で首輪を付ける事が正しいという洗脳に近い教育を受けているという。なので外した今、気になっているのだろう。


『来たぞ。』


 そんな思いにふけっているとリキの声が。十分経った様だ。そして目の前の林の中から体高3メートルほどの、一匹の大きな白く輝く狼が出てきた。

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