Sid.3 聖霊士に頼りきりだった

 神が万人に与えるものに技能と呼ばれる能力がある。この世界の住人は必ずひとつ技能を授かるそうだ。


「欠陥品って奴か?」

「だよね。技能を持たないなんて」

「だから荷物持ちの無能なんだろ」

「言えてる」


 ラビリント攻略の際の戦闘終了時に、こんな話が出た。

 荷物持ちが無能なわけじゃないと思う。俺がレアケースなだけであって。この世界の生まれじゃないから、技能を授からなかったと考えればな。

 ひとりとして例外はない、と言われるのだが、転移した人に技能が無いのも当然だろう。それを責められても俺にはどうにもできない。

 ラノベやコミックなら異世界に行く際に、何某かの能力を付与されて活躍できるのに。もしくは何某かの力が覚醒するとか。

 すでに異世界生活も四年目なのに何もない。


「今日は十五階層の階層主を相手にするからな」

「やっとだね」


 十階層の階層主相手に聖霊士の力を使ったからな。

 多くの探索者は十階層程度で奇跡の力なんかに頼らない。このパーティーは、その点で聖霊士に頼り過ぎている。個々人の力自体は大して無いんだよ。

 でも、聖霊士が居ることで分不相応な攻略ができている。危険だ。

 やめたい。


 階段を使い下層階へ向かい、途中に出現するモンスターを倒し、調子付くメンバーだが十五階層に到達すると。


「イグナーツ! 予備武装のチェックをしとけよ」

「言う前に察して渡せ」

「もたつくと仲間に危険が及ぶんだからな」


 要するに戦闘状況を的確に見極め、武器が破損しそうなタイミングで、予備を渡せってことだ。

 そんなの百も承知だ。失敗して誰かが怪我を負えば、その分戦力が減る。六人居ても常時戦闘をするのは四人だからな。ひとり欠けるだけでも大幅な戦力ダウンだ。

 それに俺の命も懸かってるからな。


 階層主との戦闘の前に軽く打ち合わせをすると、いや、打ち合わせと言うより俺に対して念を押しただけだが。


「行くぞ!」

「おう!」


 ご対面だ。

 十五階層の最深部へ歩みを進めると、その先に鎮座する主が居るわけで。

 やはり見た目は巨大で身長は四メートルを超えてる。正面から盾で受けようものなら、その力に負けて吹っ飛ぶだろうな。

 受け流し、パリィだっけか? そんな技があるのかどうか知らないが。


「俺が初撃を受け止める。その間に刻めるだけ刻んでくれ」

膂力りょりょく向上の魔法使うね。制限時間は三十秒だから」

「上級魔法使うタイミングで距離を取ってよ。巻き込んじゃうからね」


 盾が真っ先に攻撃を受けるって、脳筋だな。流せよ。生き残る確率が上がるだろ。

 ラノベやゲーム世界じゃ当たり前のことなのに。正面からまともに受け止めるなんて、頭が悪いにも程がある。

 加療士の補助魔法で腕力や背筋力の向上か。悪くは無いと思うけど。

 魔導士は初っ端から高威力の魔法を放つようだ。戦闘を長引かせたくないのだろうな。


「よっしゃ、やるぞ」


 走り出すタンク。タンクの後ろに隠れるように剣士と戦士も駆け出す。

 魔法を発動するタイミングを見計らう魔導士。加療士は補助魔法を発動させ、三人の力をアップさせたようだ。

 階層主の正面に向かうと、丸太の如き腕を後方に引き一気に拳を前に突き出す。

 激しい激突音。

 同時に、やっぱりと言うか、頭が悪いと言うか。


「ぐおっ」

「がっ」

「ばっ」


 揃って吹き飛んでるし。盾の真後ろに居たから一緒に転がる羽目に。

 こいつら、バカなんだよ。人をコケにする癖に、自分たちの頭の悪さに気付けない。

 バカ程、人を見下したがるってのは、ある意味、人の真理かもしれない。

 すかさず加療士が状態を確認し、治療が必要な仲間の手当てをする。

 その間、魔導士による上級魔法が発動し、階層主が怯んで一歩下がったようだ。


「じょ、上級魔法でもたじろいだだけ?」

「とんでもないバケモンだ」

「くそ。強過ぎるだろ」

「もう一発、違う魔法を使ってみる」


 黒魔法ってのは見た目のインパクトの割に、大した効果を期待できないようだ。

 他の魔導士がどうなのかは知らないが、少なくとも、このパーティーの魔導士はヘボだな。

 魔法をどうやって覚えて使えるようにするのか、それは知らないが、たぶん訓練みたいなものはあると思う。でも地道な訓練はしなかったと思う。


「ヨードスヴァルト!」


 地面から鋭利な土の剣が発生し、階層主を突き刺す、かと思ったが所詮は土だ。足止め程度に役立ちはしたが刺さりもしない。人間であれば効果も期待できたかもしれない。でも相手は岩より固そうだし。

 続けて爆炎魔法を放つも怯むだけで、ダメージを与えた感じではない。


「なんなの、あれ」

「硬すぎる」

「たかが十五階層の主であれかよ」


 結局、聖霊士の権能に頼ることになる面々だ。使えないにも程がある。

 無能ってのはお前らのことを指すんじゃないのか?


 眩いばかりの光に包まれ一瞬で消滅する階層主。

 一発だけとは言え唯一使えるのが聖霊士だな。このあと、同レベルの敵が出たら俺たちは死ぬ、間違いなく死ぬ。

 対抗手段が無いのだから。


「なんか、階層主相手に毎回すまん」

「いいの。これが私の仕事だから」


 気色悪い。

 なんだこれ。

 クリストフとクリスティーナのラブラブっぷり。名前も似てるが思考も同じようなものか。相性はきっといいのだろう。

 階層主から得られる希少な宝石は、さっさと加療士が手にして懐へ。


「イグナーツぅ! 魔石回収しとけ」


 使えない奴に指図されるとマジで腹立つ。お前、今回は何もできてないだろ。少しは己の無能を自覚しろよ。

 ほんと、今すぐでも荷物を放棄して逃げ出したい。こいつらのお守りなんて、どんな苦行だよ。

 聖霊士が動ける状態になるまで、暫しの休息を取るが。


「水!」

「食いもん出せ」

「早く!」


 水や食料を出して渡すと、俺の手から奪うように持って行く。

 そして、休息中は呑気に談笑となる。その輪の中に俺は絶対に入れない。仲間じゃないからな。あくまで荷物持ちってのは外様でしかない。

 他の探索者パーティーに居るスカラリウスも同じなのか。それとも、こいつらがバカ過ぎるだけなのか。

 他を知らないから、これが普通の境遇だと思っていたが。


 休憩が済むと出口に向かって進むことに。

 ただ、深く潜っていることで、帰りの戦闘もなかなかに激しかったりする。それでも倒してきたことで、対処はそこまで難しくは無いのだろう。

 階層主だけ倒せない。実力が足りてないんだよ。

 たぶん、このまま更に深く潜れば確実に死ぬな。


 やめたい。こいつらと心中なんて。


 疲労困憊状態になりながらも、出口に辿り着くと「祝杯を上げよう」なんて言ってるし。


「十五階層突破記念だ」

「今夜は飲むぞぉ」

「次は十六階層から十九階層だ」

「わくわくするね」


 勘弁してくれ。

 階層主を倒してるのは聖霊士であって、他は誰ひとりとして歯が立たないじゃないか。

 次も無事に帰還できるとは限らない。早々に聖霊士の権能を使ったら、その時点で詰みかねないだろ。その辺、誰か言い聞かせてやれよ。

 探索者ギルドってのは、そういったアドバイスすらしないのか?

 門前払いを食らったから、どんなシステムかもわからないし。


 町に着くと拠点とする宿で日当を支払われ解放される。

 今回は四千ルンドもらうことができた。こいつらでも唯一なのは、金は払うってことだ。フィクションだと金すらまともに払わない、なんてケースが往々にしてあったけどな。

 その点だけは良識があって何よりだ。安価だけどな。


「明日は一日休息を取る」

「少し町を見て回ろうかな」

「武器の手入れをしておこう」

「俺も盾の手入れだな」


 クリストフとクリスティーナはデートでもするのか?

 せいぜい乳繰り合ってくれ。俺には関係のない話だ。


「イグナーツ! お前は十六階層より下の情報を集めておけ」


 なんでだよ。


「攻略する際に情報はあった方がいい」


 先行する探索者やギルドで情報を仕入れろ、だそうだ。

 日当は出るのか?


「千ルンド」


 やれと。

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