無能と蔑まれた迷宮探索者パーティーの荷物持ちは銃を手にして這い上がる
鎔ゆう
Sid.1 荷物持ちは仲間ではない
最寄りの町から凡そ徒歩で三十五分。山の麓にある洞窟と言うか、この世界ではラビリントと呼び、名称がアヴスラグと付いた迷宮に来ている。アヴスラグの意味は拒絶だ。因みに、ひとりで来ているわけではない。
自身を含め七名。
「今日はどこまで潜る予定なの?」
「十四階層くらいが目標だな」
「行けるかな」
「問題無いだろ。昨日の時点で九階層まで潜ったからな」
先頭を歩くのはツヴァイヘンダーを持つ剣士。この探索者パーティーのリーダーでクリストフ、男、二十二歳。金髪碧眼のイケメンだ。性格は腐ってるけどな。
他にハルバードを持つ戦士で男、二十三歳。茶髪で無精髭で並みレベルの容姿。デュエリングシールドを持つタンクで男、二十二歳。こいつも茶髪で屈強な肉体を持ち厳つい面構え。
「おい、イグナーツ。攻略中に仲間の足を引っ張るなよ」
ラビリントの前で簡単な打ち合わせをするが、毎回、俺に何の恨みがあるのか知らないが、クリストフは必ず何かしら嫌味を言ってくる。
そうなると他のメンバーも調子に乗って「イグナーツぅ、ぜってえ邪魔するなよ」とか「足手纏いだから壁にめり込んでろ」や、女性メンバーからも嫌味を言われる始末だ。
「あんたの命より食料の方が大切だからね」
「そうそう。死んでも守り切りなさい」
やめたい。
こんな奴らと一緒に行動なんてしてられない。
俺のジョブだが荷物持ちだ。スカラリウスと呼ばれている。軽量運搬賦役を指す言葉で、パーティーメンバーの食料や飲料水、予備の武器防具にテントや毛布などなど。替えの衣類を持たされる時もある。
スカラリウスの地位は低い。普段は牛や馬を使えない、農家の農産物を運んだりしているからだ。
因みに本来の賦役とは、労役を課すことで納税とする人身課税。
ラビリントの前で打ち合わせらしきものが終わると、中へと入ることに。
ぽっかりと口を開けた穴が開いていて、夜間は頑丈であろう鉄製の扉で閉ざされている。
守衛らしき人が数人居て一応管理しているようだが。日中は守衛やら他の探索者も居るが夜間は無人になる。
入る際には入坑許可証を提示してからだ。それ無しにはラビリントには入れない。
「夕刻には扉を閉じるからな。それまでに戻って来い」
毎回同じことを言う守衛に見送られラビリント内へ進むが、入り口付近はただの洞窟とあまり変わりはない。
六人が隊列を組み、俺はしんがりとして荷物を背負い付いて行く。
女性メンバーは聖属性権能を使う聖霊士で金髪碧眼の美人顔、二十一歳。性格はリーダー同様腐ってるけどな。権能ってのは神の御業だ。神から力を行使する権利を与えられている。神ってのは悪趣味だ。見た目だけで権能を与えたのだろう。
もうひとりは黒魔法を使う魔導士で、赤茶けた髪色で幼い顔立ち。二十歳。性格は極めて悪く腐敗臭を漂わせている。黒魔法は悪魔の力だ。それを借りて行使する。
そして治療技能と補助魔法を使う、加療士なるジョブの女性だ。技能も神から与えられるものだが、聖霊士とは異なり誰でも何かしら受け取れるものだ。
こげ茶色の髪色だが白い肌を持つ美形。ではあるが性格破綻者でしかない。
やめたい。
ラビリント内を進むと地下へと進む階段がある。
このラビリントってのはモンスターの棲家であり、危険度は高いのだが希少なお宝が無数に眠る場所だ。
ゆえに探索者が日々潜って宝探しをするわけで。
階段を下りて洞窟のようなラビリント内を進む。
「来たぞ」
「俺が前に出る」
「いつもの陣形で」
モンスターが近寄ってくると、真っ先にタンクが前に出て、両サイドから剣士と戦士が攻撃する。これが、このパーティーの戦闘スタイルのひとつ。
タンクだからな。敵の突進を止めるのが仕事だろう。
盾の金属とモンスターの持つ硬質な外殻が激突すると、ラビリント内に衝撃音が響き渡った。
すかさず右方向から剣士がツヴァイヘンダーで突き刺し、左から戦士のハルバードが一気に振り下ろされ、モンスターが両断され息絶える。
「よっしゃ」
「楽勝」
戦闘が終了するとリーダーのクリストフから「イグナーツ! 魔石を拾っておけ」と怒鳴るように指示が飛ぶ。
モンスターには魔石と呼ばれる、心臓のような赤く光る石がある。多くは生物と同じく心臓の位置にあるのだが、切り開いて取り出す必要があるのだ。それは俺の仕事になっていて、手際よく取り出すことになるが、その度に怒鳴り散らすように指図される。
普通に仲間と会話する感覚で充分なのだが、何の恨みがあるのか気に入らないだけなのか。
魔石を取り出すとモンスターは霧散する。まるで存在そのものが無かったのように。不思議な現象ではあるが、それを追求して解き明かそうとする人は居ない。
「よし、先に進むぞ」
リーダーの指示で再び歩き始めるが、階層が浅いと慣れもあって警戒感は薄い。
雑談を交わしながら「おい、イグナーツ! 荷物持ちがお荷物になるなよ」なんて言い出す。
それを聞いていたメンバーに笑いが起こる。
「洒落が効いてるぅ」
「イグナーツって戦闘時に隠れてるから大丈夫でしょ」
「戦闘は一切参加しないもんな」
「したら瞬殺されるってぇの」
実にくだらない。
ぎゃはは、なんて下卑た笑いに包まれるが、ここはラビリント内だろうに。気を抜いてるとベテランでも大怪我するし、下手すれば命を失いかねない。
緊張感の無さは慣れから生まれる油断だろう。
こいつらと心中なんて絶対嫌だ。最悪の状況になったら、荷物を捨ててでも逃げるからな。
下層階へ向かうべく階段を下り、モンスターを相手に戦闘を熟し、順調に進むと階層主と呼ぶモンスターの居るエリアに出る。階層主は通常五階層毎に存在し冒険者の行く手を阻む。クリアすれば先へ進めボーナスとして、希少な宝石を入手できる。クリアできず撤退すれば先へは進めない。進むためには必ず倒す必要があるのだ。
理由は単純なようで、ボスを倒せないと先の階層で死ぬ。敵の能力が跳ね上がるからで、ボスを倒せないと言うことは、ラビリント攻略資格を得ていないのと同義。
まるでゲームのようで何かが意図して、こんな造りにしたのかと。神が居るってことだから、神がこんなアホな世界を作ったのか。
「止まれ! この先に階層主が居る」
フロアの最奥に陣取るモンスター。その姿形は各階層に居るモンスターとは、明らかに別格であり風格すら漂わせる。
身長だけで三メートル近い。鼻息だけで一般人なら吹き飛ぶだろう。
側頭部に一対の角。顔は犬のようだが犬ではないな。体は筋骨隆々で腕は丸太のようだ。脚も人の胴体を軽く超える太さ。あんな相手を人が扱う程度の剣で倒せるのか。
「まずは普段通り俺が前に出る」
「硬そうだから魔法攻撃の準備を」
「分かった。フランマキューラを使うから」
「あたしはファッラニエルで滑らせる」
タンクが前に出て魔導士が炎弾を使い、加療士の補助魔法で足を滑らせる。と言うのが今回の作戦のようだ。
姿勢が崩れたら剣士と戦士によるめった斬り。それで万が一倒せない場合は、聖霊士の出番になるのだろう。聖霊士の権能は効果絶大。神の力だからだ。代わりに消耗が激しいそうだが。ゆえに使いどころを考える必要がある。
「行くぞ」
タンクが走り階層主に突進。腕を振り上げ潰しに掛かる階層主。
タンクが到達する前に魔導士の炎弾が炸裂。補助魔法で態勢が幾らか崩れる。ここまでは順調。
続いて剣士と戦士が斬り掛かるが、戦士が近付くと強烈な払いが襲う。
「がふっ」
モロに食らったようで吹っ飛んで転がった。駆け付ける加療士が居て、即座に状態を把握し必要な処置を施す。
やはり一筋縄ではいかないようだ。
焦る剣士だが魔導士の魔法が炸裂し、階層主が怯んだ隙に斬り掛かりボディに傷を負わせたが浅いな。
「硬い!」
「黒魔法があんまり効いてないよ」
已む無く聖霊士の権能に頼るようだ。
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