偽装スキャンダル

再々試

第1話 私の偽の彼氏になりませんか?

地下ステージ「ベースメント」その楽屋ではライブを終えた地下アイドルグループ「IRIS」が帰りの準備をしていた。

コートに腕を通しながらグループの最年長

小池里花(こいけさとか)は今日のライブを思い出してため息をついた。

「IRIS」は最近徐々に人気が出てきている。

今日のライブも60人ほどの観客が来ており順調に人気を獲得している。

しかし里花にはファンが出来なかった。

紫色のペンライトを振るファンは今日も2、3人程だった。

元々「IRIS」は里花ともう1人のメンバーで構成されていた。

しかし中々人気がでず1年前に新規メンバーを2人投入した。

すると人気が出始めたためその2人をセンターに里花はバックダンサーの様になってしまった。それだけでも悲しかったが元来のファンもその2人のファンになってしまい、里花のファンは更に減ってしまった。

それが里花の悩みを増幅させていた。


家に着きテレビをつけると洗剤のCMが流れていた。


「花の香りを眠りと共に」


という言葉と共に1人の男性がシーツに寝転がっていた。

その男性には見覚えがあった。最近人気急増中の俳優

江成諒(えなりりょう)

だ。

ぱっちりとした丸い目の甘いマスクを持ったイケメンで、

最近はドラマの主演にも抜擢されたらしい。

里花とは正反対の成功した俳優だった。

里花はなんとなく劣等感を覚える。

時計を見るともう夜中の11時だ。

明日もライブがある。

布団に入り目を瞑ったが眠れない。

最近明日を迎えることに不安を覚えている。

里花はもう26歳と若くない。

なのにも関わらずまだ里花の武道館でライブをするという夢は達成する気配を見せていないため里花は焦りを覚えていた。

更に里花にはもう1つ焦りを加速させることがあった。

それは2人の時から組んでいた百合香の存在だった。

元は里花と百合香の2人で始まった「IRIS」だが今は4人。

しかも新規の2人の人気の方が圧倒的な為。

2人は肩身の狭い思いをしていた。

しかし最近百合香は作曲というジャンルに手を出し始めた。

それが少しの人気をはくし百合香のメンバーカラーの緑のペンライトは最近数を増やしていた。

ずっと隣にいたはずなのに気づけば百合香は里花に背中を見せていた。

このままでは駄目だと里花は自覚していた。


(しかしどうすればいいのだろう?

どうすればたくさんのペンライトを振ってもらえるのだろう。)


そんな終わりのないことを考えながら里花は眠りについた。


翌日

ライブの最中「IRIS」の人気柱 花凛がMCを始めた。

それが始まると里花はなんとなく今日来たファンに目を通した。

多くは花凛のメンバーカラーピンクのペンライトを持っており続いてもう1人のメンバー千穂のカラーである黄色を持っていた。

更にまばらだが緑もある。紫は片手で数えられるほどだった。

後ろの方に目を通したその時里花の目は1人の男に止まった。

帽子を目深に被りピンクのペンライトを持っていたが里花はその男にどこか見覚えがあった。その時不意に昨日のCMを思い出した。

なんとなくだが 江成諒に似ている気がする。

里花は自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じた。


(別人に決まっている。

しかしもし彼だったら?)


チェキの撮影会が終わった途端里花は外に飛び出した。

ついさっきさっきの男も外に出ていった。まだ遠くには行っていないはずだ。

その通りで彼は近くで信号を待っていた。

駆け寄り声を掛ける。


「あの、もしかして 江成諒さんですか?

 俳優の。」


上手く呂律が回らない。


「そうですけど、何か?」


諒は笑顔で里花に応えた。

その瞬間に里花の舌は回っていた。


「あの、私の偽の彼氏になりませんか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る