第5話


「は?!」


魔装凶器マーダークライ〉。

人が武器と成る方向性は二種類ある。

武器化の制御をする事が出来る代わりに出力が低下する〈武装人器アーセナリード〉。

武器化の制御が出来ず、出力が最大になる代わりに理性が消え失せ、手当たり次第を破壊し尽くし殺戮の限りを尽くす〈魔装凶器マーダークライ〉。


今、刻の前に悶えるのは、先程覚醒を果たした〈魔装凶器マーダークライ〉だった。

この世界の人間は皆、その肉体の内部に武器化現象を備えている。

それが覚醒するのは今日かも知れないし死ぬ寸前かも知れない。

一度覚醒をしてしまえば、その肉体が元に戻る事は無い不可逆なものだった。


「くッ」


相手を見据える。

魔装凶器と化した元人間。

肥大化した腕から生える無数の釘。

恐らく、この人間が発現させた武器は、〈釘バット〉なのだろう。


「うがぁ!!」


叫ぶと共に、魔装凶器が大きく腕を振り上げる。

ぶんぶんと振り回すと、男子生徒たちは蜘蛛の子を散らす様に離れる。


「戦女神様は居ないのか!?」

「誰か緊急要請をしろ!!」


商店街の店員らしき男性が、男子生徒に声を掛けた。


「な、なあ、あんたら武装人器だろ?!何とかしてくれよォ!」


そう言うが、彼らには無理な話である。


「戦女神が居ないと力が出せないんだ!!」

「早く、早く戦女神を呼んでくれぇ!!」


そう言って誰も魔装凶器を止めようとしなかった。


そして、魔装凶器は腕の武器を構える。

人間の時よりも二倍に膨れ上がった魔装凶器。

近くに居た子供連れの主婦に向けて攻撃をしようとする。

どうやら主婦はその場から逃げ遅れたらしい。


「いやああ!!」


叫ぶ主婦、せめて子供でも守ろうと抱き締める。

烈しい音と共に、衝撃が地面を伝わる。

しかし、主婦たちに怪我は無かった。


「ぐ、ふッ!」


真正面から魔装凶器の攻撃を受け切った刻。

頭部を強く殴打されたが、頭部が破壊された様子は見られない。


「奥さん、早く、離れて」


釘バットが当たる寸前、刻は頭部から歯車を出した。

釘の頭部が彼の頭に減り込む事無く、歯車に当たった為に、辛うじて衝撃が頭に伝播する程度で済む。


「あ、貴方も早く逃げなさい!!武器になっても、叶わないでしょ!!」


主婦はそう言いながら子供を連れて離れる。

確かに、彼女の言う事は正しい。


「そうだ!!ってお前!!屑鉄ッ!!」

「お、俺達は誘導、非難だ、あいつが捨て駒に…いや、時間稼ぎをしている間にッ!!」

「あいつ馬鹿だろ、戦女神が来るのを待つのが正解じゃんか」

「まあ、屑鉄だし良いんじゃね?」

「そ、そうだよ…むしろ、身の程を弁えろって感じだろ」

「屑鉄の癖に、な」


彼らの声が聞こえてくる。

確かに、彼らの方が正しいと思える。

此処は、戦女神が戻って来るのを待つのが正解だ。

だが、それを待った所で、一体、魔装凶器がどれ程の被害を齎すか。

人を傷つけるかも知れない、大切な何かを壊すのかも知れない。

その様な性格の良い、正義の味方が自己献身に奔りそうな事など、


あるのは単純な考えだ。


(不満を抱くのも、良い子ちゃんぶるのも、もう止めたぜ、キレてんだよ、こっちは)



誰も彼もが無理だ無謀だと告げる。

刻には価値が無い、意味が無い、どうしようも無いと、蔑み笑い、嘲り指を差す。

気に食わない事ばかりだ、最早、我慢をする必要はない。


「魔装凶器だってんなら、倒しても良いよな?なんせ俺は、武装人器だもんなぁ!!」


拳を強く握り締める。

拳骨部分から二枚の歯車を突飛させた。

歯車の一枚目を回転させ、二枚目を逆方向に回転させる。

そうする事で、肉を抉る破砕機と同じ役割を持つ武器へと変えた。

それを自らの頭を殴った釘バットの様な腕に向けて叩き付ける。

めり、めりッ、と嫌な音を立てながら肉を食い込ませて破砕していった。

腕との神経が繋がっているのか、魔装凶器は赤い目を細めて後退した。


「うがァ!!」


刻を睨み付ける魔装凶器に対して、刻は歯車を引っ込めて歯を剥き出して笑った。


「キレたか?お互い様だぜ、キレてんだよこっちも!お揃いだなァおい!!」


刻は手招きをする。

自分一人で、この強敵を倒す気概だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る