第2話
「無礼者め!」
「お嬢様を知っての狼藉かァ!?」
罵詈雑言と共に刻を蹴る男子生徒たち。
彼らが怒りを露わにするのも当然の事だ。
恥ずかしそうに扇で顔の半分を隠す四葩八仙花。
彼女にとって股先に刺激を受ける事など初めての経験だったのだろう。
全身が鳥肌をたたせるような得も言えぬ快感を受けて顔を紅潮とさせていた。
「このお方は四葩八仙花様、数多くの倒した英雄のご息女なのだぞ!本来は貴様がしでかしたことは万死に値する!」
そう言って男子生徒が自らの片腕を剣へと変えた。
〈
本来は戦女神の力が無ければ、肉体の変化は二割程、鍛練をしても、五割も武装形態にする事が出来なかった。
なのでこの男子生徒の片腕は掌が刃と化していて、親指の部分だけが変化していない中途半端さを見せている。
今後、刻が無礼を働かせないように、徹底的に痛め付ける気なのだろう。
周囲の男子生徒もその意図を組んで、刻を取り押さえた。
彼の眼球近くに、男子生徒の切っ先が近付けられた時。
「お待ちなさい」
と。
彼らの凶行を止める声がする。
無論、それは彼女、四葩八仙花によるものだった。
「確かにこのお方は、可憐なる私に無礼を働きましたわ、しかし、それを許すのはこの私、この程度の些事で罰則など、全然優美じゃありませんことよ」
そう言って、扇をぱたり、と閉じる四葩八仙花は結論付けて言う。
「ゆえに今回の事は不問と致しますわ、みなさまがた、早々にこの御仁を御離しなさって」
その様に言われた以上、手を離さない理由は無かった。
むしろ、彼らは四葩八仙花の言葉を受けて感銘としていた。
「なんて慈悲深いお言葉だ!」
「このような屑鉄風情にも情けを掛けて下さるなど…!」
「四葩八仙花さまは最高だ!」
なんとか、この場を納める事が出来た様子だった。
四葩八仙花はホッと一息吐いている。
(あのような気持ちいい事をされて…その気分が削がれるような事はしたくありませんでしてよ)
彼女は未だに自慰どころか性知識を学んでいなかった。
刻から受けた行為が、どれ程恥ずかしいものか、まるで分からなかったのだ。
ゆっくりと立ち上がる刻。
廊下に押し付けられたので、土埃が体に付着していた。
「礼は言いませんぜ、お嬢様」
と、そうぶっきらぼうに言う刻。
周囲の人間が反感を覚えるが、四葩八仙花は何も言わない。
「そ、そんな事よりも、さっきのあれは…」
股先に受けた刺激がなんであるのか、彼女は刻に聞こうとした。
しかし、彼は腕時計を確認して急いだ。
「くそ、もうこんな時間か…それではご機嫌宜しく、お嬢様!」
そう言って、刻はその場から離れる。
唐突な刻の去りに、彼女は唖然としていた。
「な、なんなんですの、あの御仁は!」
憤りを見せる彼女。
周囲の男子生徒は宥めながら彼女の質問に答える。
「あいつは、鉄屑の刻ですよ」
「俺達のような武器に成る事も出来ない、歯車にしかなれないんです」
「今日は確か、オークションがあるみたいで、そこでパートナーを見つけようとしてるんじゃ?」
「あんな屑鉄にパートナーなんて出来るわけねぇだろ」
刻の事を嘲笑する男子生徒たち。
それを聞きながら、彼女は何か考え事をしていた。
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