「エッセイをかきましょう2024」たけのこ賞 発表

犀川 よう様主催

エッセイを書きましょう2024

たけのこ賞 選評


Last Guardian / 鈴ノ木 鈴ノ子様

https://kakuyomu.jp/works/16818093085893640354


 夏の日にドライブで訪れたダム湖で、湖底に沈んだ集落と、さいごの守り人に出会う――。


 たけのこ賞には『エッセイから、さらに物語が伸びそうな作品』を選ばせていただこうと決めておりました。

 言い換えれば、このエッセイを読んだら創作スイッチが入って、妄想が止まらなくなっちゃったよ! と、なったのが、

鈴ノ木 鈴ノ子様の『Last Guardian』です。


 鈴ノ木様の文章は、ダム湖の景色をざっと把握させる遠景の描写力と、神殿内を見学させてもらっている時の細やかで心動かされる細密な書き込みが、どちらも非常に巧みだと感じました。

 作者が見せたいと思っているものが、きちんと読者に伝わってきます。


 「どこまでもいけるよ!」な道と「覚悟できてる?」の道など、ユーモアに溢れる表現も多く、とっつきやすい語り口も魅力だと思います。


 そして何より、エッセイの題材として「ダム湖の底に沈んだ集落と、それを見守る神社」を選んだというのが素晴らしいと思いました。

 神社を大切に守り続ける氏子さんの努力の傍らで、減っていく参拝者。

 仕方がないことだと頭では理解できるのに、やるせない気持ちが押し寄せてきます。


 鈴ノ木様のエッセイは第一印象で素敵な作品だなと感じましたが、その後もずっと強く心にひっかかっていて、仕事中にも、ふと考えこんだりするほどでした。

 うちは特別ダムにゆかりがあるわけでもないのに不思議だなと思っていたのです。


 作者も『自身はまったく関わりのない哀愁に浸る訳です』と表現していますが、私の心にも何ともいえない寂しさがまとわりついたままでした。


 ある日、ショッピングモールの椅子にボンヤリと座っている老齢の女性を見かけた時、その理由にようやく思い当たりました。

 私はこのエッセイに、ひとり暮らしが難しくなって、町に呼び寄せた祖母の姿を重ねていたのです。


 座っている姿を見たことが無いほど働き者だった祖母は、引っ越し後、日がなテレビの前で背中を丸めて座っているようになりました。

 祖母が安全に暮らすためには仕方がないことだったけど、その姿を見るとどうにもやるせなかった。

 その気持ちを無意識にダム湖に沈んだ集落と重ねていたのです。

 

 住んでいた場所を離れなければならない理由は、実に様々なものがあると思います。 

 我が家のように年をとった祖母がひとりでは暮らせなくなったり、地域自体が衰退して病院や商店が無くなってしまい、そこに住み続けられなくなることだってあるでしょう。

 地震や大雨などの災害で、引っ越しを余儀なくされた方もいらっしゃいますよね。


 どんな理由であっても、元のすみかは人手に渡るか、取り壊されるか、ずいぶんとあっけなく消えてしまうのが常です。

 でもこの集落には、故郷の存在を守り続けてくれた氏子さんがいて、自分の代まではと頑張ってくれている。

 それが思いがけず、懐かしい祖父母の家を失った私の心を慰めてくれました。


 ダム湖に沈んだ集落という、一見特殊な場所は、たくさんの読者が「失くしたふる里」を投影しやすい舞台なのかもしれないな、と思ったのです。


 すると一気に妄想が加速しました。

 もしも作者の運転する車の前に、ヒッチハイクの旅人が現れたら。その人は誰で、何のために沈んだ集落に向かうのか。氏子のおじさんはその人物を見た時にどんな反応を返すのか……。


 エッセイの実体験に、架空のナニカを足すと、バックボーン強めな創作物語が生まれます。

 まだ何もはっきりとしたお知らせができなくて恐縮なのですが、たけのこ賞は「短編賞受賞の先」の立場から選びました。


 このエッセイからは、きっと物語が伸びる。

 そんな予感がニョキニョキ止まらないので、『Last Guardian』にたけのこ賞を授与いたします!


 鈴ノ木様、素敵なエッセイを拝読させていただきありがとうございました。

 今後のご活躍にも期待しております。



◆◆◆おしらせ◆◆◆

企画に参加していただいた皆様のエッセイに、ひとことずつ感想を書きながら拝読していました。

全ての賞発表が終わる11月10日20時に、本作の次話として公開いたします。

「忘れなかったら読みに来てあげてもよくってよ」という方は、どうぞよろしくお願いいたします!

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