透明犬
及川稜夏
第1話
私は、他のどんな動物よりも犬が好きだ。人懐っこくて、従順で賢い。小さくて可愛らしいものから、大きくて強そうなものまで様々。それがたまらないのだ。
最も、私は今住んでいる家を引っ越さない限り飼うことができないのだが、あの愛らしい生き物の動画を見ながら寝落ちするのが日課になっているほどだ。
こんな私なので聞いて欲しい話も、犬に関連したものなのだが、少し不思議な話なので聞いていただきたい。
数日前、調べ物をしていた時に聞いた情報なのだが、最近、ごく稀に、透き通った犬が歩いていくのを見かけることがあるらしい。
私はまだ見かけたことがないが、聞くところによれば情報は様々で、全身が透き通っていて、目撃されたものの多くは薄く色がついている。宝石かガラス細工のようで幻想的。突然現れては突然消えてしまう不思議な生き物なのだそうだ。
調べた範囲では何でもとても珍しく、街では神獣のような扱いを受けているようだ。特集は毎日、商品も盛況。
透き通った犬は見かけると、いいことが起きる前触れだと言われているだとか、後をつけると、宝石を見つけることができるだとか噂が溢れている。
ここまで不思議な生き物だとそろそろ、神社にでも祀られるかもしれない。
抱くととても毛が柔らかく、心地の良い暖かさをしている、なんていうのが、私はいちばん興味をそそられる噂であったりする。今の仕事に一区切り着いたら、探しに行ってみてもいいかもしれない。
近頃よく見かける、宝石犬というキャラクターも、透き通る犬を模したもののようだ。私は街から離れた場所に住んでいるが、人からもらった宝石犬の描かれたカレンダーやらシールやらが、今、この文章を書いている部屋の隅に置かれている。試しにいくつか飾ってみてもいいかもしれない。
宝石犬も、透き通った犬の噂の恩恵をかなり受けているようだ。
透き通る犬の話を聞いていると、段々、親近感が湧いてくる。
今、私の勤めている会社では、光を当てると立体映像を再生できるフィルムを開発しているのだ。
ただ写すだけでなくて、だいぶ進んできて、触り心地や暖かさも感じられる。
犬の立体映像を再生できるフィルムもあって、実際に街に出現させて、いくつかの数値を測ったり、周囲の反応を見たりしている。
もうすぐ、売り出すことができるかもしれないものだ。
だが、ひとつだけ欠点がある。どうしてもその犬の立体映像が半透明になってしまうのだ。立体画像の投影を遠隔で操作しながら、何だか、透き通る犬に似ているななどと、考えてしまうのだ。
透明犬 及川稜夏 @ryk-kkym
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