『2』を飼う

及川稜夏

第1話

 本から抜け出して立体としててできた2を飼ってみる、という経験は、なかなか面白いものだ。間違いでも何でもなく、上にカーブ、下に直線の数字の2そのものを、である。


 この数字は、艶やかで黒々としていて、手のひらサイズで生き物のように動く。言葉を話すことはないが跳ねたり尖ったり崩れたりして感情を表すし、何よりかなり感情豊かであることが特徴だ。

 元気よく跳ね回り、見かけるものを片端からペアにしたがるのも、特徴かもしれない。

 特に、家の中で、ペアになっているものが片方しか見つからない時にすぐさま見つけてきてくれるというのはものすごく便利だ。片方だけ無くしてしまった靴下も、どこかに転がしてしまったペンのキャップも、あっという間に元通り。


 もう一つ楽な点をあげるとするならば、数字の1を二つ書いたものを1日に2回与えれば良いので餌代がかからないということだろうか。

 いつも、サインペンで適当な紙にチョンチョンと縦線を二つ書いて、飼っている2の近くに置くと、たちまち上のカーブを口のように使って食べてしまう。すると、紙から、「1」とペンで書いた形跡だけが綺麗に消えてしまうという、原理は不明だが、とても興味深い現象がおこる。

 そして、良さはそれだけではない。何と言っても、2がぴこぴこと跳ねる様子はとても愛らしい。横棒を使って小さく跳ねながら移動する動きは、生まれたての動物を連想させる、とても目の離せない動きなのである。


 しかし、飼うのが楽なばかりではない。2は、なぜか月光と水辺がなにより大好きなようなのだ。大きさや、色、夜の外の見えずらさも相まって、一度逃してしまうと探し出すのがとても困難になってしまう。

 2自体も、うっかり出てきて帰れなくなってしまうと、段々と家の表札やお店の値札などの1を食べるようになってしまう。値段がわかりづらくなってしまったり、必要な数字が消えてしまったりと、問題を引き起こしてしまう。


 また、他の動物を飼うときにも言えることかもしれないが、旅行にも注意が必要だ。飼い主が2に餌を置かずに数日間出かけてしまうと、帰ってきた時に、逃げてしまっているか、家の中のありとあらゆるものから1が食べ尽くされて消えてしまっている可能性がある。どちらも一度起きてしまうと、その後の対応がとても大変になってしまうものである。

 それらに気を付けて飼うのであれば、数字の2を飼うということはとても面白くなるだろう。

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