少女が佇む、寂れた神社。

及川稜夏

第1話

 鉛色の空のもと、ひとつ佇む神社。

 かつてはきっと、多くの人が参拝していたのだろうが今はもう寂れ、誰も寄りつかない。

 かろうじて形を保つ真っ赤な鳥居の下に、一人の少女が立っていた。

「これが『トリイ』かあ。実物は初めてみた」

 独り言を呟く。

 大量の荷物を持った彼女は、物珍しさからか鳥居をつついてみたり、眺めたり。

 どうやら、遠くから来た旅行者のようだ。

 怪我をしているのか彼女は、片腕に包帯を巻いている。真っ白の肌に萌黄色の瞳と胡桃色の髪を持つ彼女は、かつてならばこの場ではかなり浮く容姿であっただろう。

 少女は、何かを探すような素振りをし始めた。

 しかし、鳥居の先には一向に入る素振りを見せない。

 少女は、周りを見渡す。

 石、木片、砕け散ったガラス。

 周りには崩れた建物の瓦礫やら、用途不明な煤けた配管やらがそこかしこに積み重なっている。

 当然のように神社の社も今や地面の一部でしかなかった。

「『ジンジャ』、本物を見たかったけれど、こんなんじゃもう無理か」

 少女は諦めたように呟く。

 ふと、瓦礫の隙間にとあるものを見つけたようだ。

 少女はすぐさま引っ張りだす。

 どうしてあるのかは不明だが、壊れかけた薄型の機械の一部のようであった。

「このくらいなら、まだ使えそうだ」

 少女は徐ろに腕の包帯を外す。カラ、コロンと音を立てて明らかに生身のものではない腕から、いくつかの部品が転がり落ちる。

 包帯は怪我がどうのというより、壊れたそれを形だけ保つために付けられたもののようだった。

 少女は「ちょうどよかった」と呟く。あっという間に機械を分解して、応用できそうな部品で腕を補う。

「ここにも、もう誰もいなさそうだ」

 どこか陰りのある声。

「もう少し、この世界は広いんだから、きっと」

 少女は荷物を持ち直すと、壁を伝う配管をするすると上り、天井を切り抜いて次の階へと昇っていった。

 どこまでも続くかのような、塔城の都市。

 文明の滅んだ街で、少女はひとり旅を続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少女が佇む、寂れた神社。 及川稜夏 @ryk-kkym

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ