ファイナル祠壊し

不労つぴ

祠壊し

君、その祠壊しちゃったんだ。


……おっと、怖がらせてしまったかな?

そんなに怯えないでくれ。

僕は、別に君に危害を加えるつもりはないんだ。


祠を壊したことを怒らないのかって?


まさか!むしろ僕は君に感謝しているんだよ。

君のような勇敢――いや、この場合は無謀というべきなのかな。


とにかく、僕はこの祠を破壊してくれる人をずっと……ね。


え? 僕は何者なのかなって?


……そうだな。

僕は君たちのところでいう神様――ってやつかな。


そんなに怯えないでくれよ。

さっきも言ったけど、僕は君に危害を与えるつもりはないんだ。


そもそも、僕は元々君と同じだったんだ。

成りたくて神になったんじゃない。


祠を壊したついでに、僕の話を聞いてくれないか?

どうも、今日は気分がよくてね。

どうしても誰かに聞いてもらいたいんだ。


聞いてくれるかい。

そうか、ありがとう。


どこから話そうかな。

さっき僕は君と同じだって言ったね。


僕も君くらいの歳に、同じように祠を壊してしまったんだ。

決して悪意があったわけじゃなかった。


昔、こんなことを言った人がいてね。


「神にとってそんなのことは関係ない。結果が全てなんだ。君は祠を壊した。それだけでもう十分なんだ」って。


全く持ってその通りだと思うよ。

祠を壊したっていう結果だけで十分だったんだ。


結果、僕は呪われた。

寿命もあと数日というような状況になってね。

今思えばあそこで死んでおくべきだと思うけど、当時の僕はそうじゃなかった。


でも誰だって死ぬのは怖いだろう。

僕も勿論怖かった。


それで、僕は死なないためにあることを思いついた。

目には目を、歯に歯を、化け物には――化け物をってね。


ちょうど僕の住んでいた地域には壊してはいけない祠やいわくつきの場所がたくさんあってね。それを片っ端から壊して回ったのさ。

当時の僕は本当に馬鹿だね。そんなことしたって呪いからは逃げられないっていうのに。


それでしばらくは良かったんだけど、ある問題が起きた。

僕以外の人間が次々と不幸な目にあっていったんだ。


父さんは仕事先から帰る途中に飲酒運転の車に轢かれて死んだ。


母さんは家にいるときに棚が倒れてきて下敷きになった。


妹――いや、妹の学校の生徒達は、学校に侵入してきた不審者に襲われてみんな大怪我を負った。


これらは単なる偶然じゃないかって?

君は数日でこんなに不幸がそう重なることはあると思うかい?


それに、これだけじゃなくてもっと多くの人が災禍に巻き込まれているんだ。

友達や学校の先生も含めてね。

今となってはみんな生きていたのか確かめる術はないけど。


流石に僕も気付いたよ。この不幸の中心にいるのは僕だってね。

だから、僕は街を離れた。


でも、異変がそこで止まるわけもなかった。

いつの間にか僕は、睡眠も食事も老化もしない体になっていたんだ。

勿論死のうと思っても死ねない体に――ね。


だから僕は各地を回って、ありとあらゆるいわくつきの場所や代物を探して回った。

完成させてはいけないパズルや、人を呪い殺すための箱とか色々試して回ったんだけど全部ダメ。

あっ、祠もたくさん破壊して回ったんだけど勿論ダメだったよ。


それが良くなかったのかな。

ある人に言われたんだけど、僕は呪いが複雑に絡み合って神に等しい存在になってしまったらしいんだ。

まぁ、自業自得だよね。


人は悠久の時を生きるのには向いていないし、1人では生きていけない。

少なくとも精神性が人間の僕にとって、不老不死の神に近づいたということは耐え難い苦痛だった。


それで僕は考えた。


いっそ自分を神として祠に封印したらどうかってね。

知り合いの協力もあって僕の封印自体は滞りなく進んだよ。


でも、影響を最小限にするために随分人里離れた山に祠を建ててしまった。

もっと人通りが多いところにするべきだったかもね。


そして君が来た。

随分と長く待った。でも、ようやくこれで僕の人生は終わる。


君には感謝してもしきれないよ。

ここまで話を聞いてくれてありがとう。


でも、そろそろ帰ったほうがいい。

もうすぐ僕に取り付いていた何百、何千の呪いが一斉に僕目掛けて集まってくる。


この場所は呪いの乱闘会場になるだろう。

君がこの近くに住んでいるのなら親御さんも連れて遠くに行ったほうがいい。


最後に話せてよかった。

君も気をつけて帰るんだよ。

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