第33話 量子コンピューター

まずは、市販のグラフィック用のGPUを何枚か使って、AIの計算処理を早くさせておいて、パソコンの計算処理の方もCPUを並列処理させて処理能力を向上させてみる。


もちろん計算処理を並列で行わせるためのライブラリも自作する。

リーダーは優子だが、皆で実に楽しく遊んでいる。


もちろん複数のパソコンを並列処理させるためのOSも必要なので、当然開発しておく。

これで、現在市販されている高速パソコンより、遥かに早い計算速度を実現できる。


まあ最高のおもちゃを作っているのだよ。

3人で、速く計算できるコンピューターを考える。

楽しい、車を速く走らせるためのチューニングとかと同じ感覚だろうな。


これ以上速くするのは無理だとなった時、じゃあどうするかを考え始める。

この頭脳はいくら使っても疲れないのがいい、知的な遊びは無限に楽しい。

だったら、量子コンピューターを作っちゃおうかとなり、論文集めとその読み込みを始める。


俺たち3人は、熱中を通り越して、深く、深くのめり込んでいく。

面白いゲームに夢中になっているのと同じ状況だ。


学術論文を読めば、意図していることが直ぐに理解できるし、優子がいるからシミュレーションプログラムも直ぐにできる。

理論の検証が直ぐにできるなんて、そりゃ最高に面白いのだよ。


研究所の上のフロアーが自宅というのも便利でいい。

寝るギリギリまでいろいろ研究ができるからね。

母さんから、いい加減にしなさい……と怒られるまで遊んでいられるからね。


そんな感じでやっているので……

シミュレーション上で量子コンピューターの処理を再現するところまで、さっさと完成してしまう。


この後は、シミュレーション上で行う処理をデバイスに置き換えていけばいい。

いいデバイス探しができれば、量子コンピューターが作れるということだ。


量子コンピューターの開発は、俺たちが開発しなくても、世界の優秀な人材が研究しているし、その中の誰かが作り上げるだろう。

つまり、俺たちの行動が、世界の歴史に大きく影響を及ぼすものではないはずだ。


ところで世界の歴史に大きく影響を及ぼす技術開発とは何だろうか?

原爆とか水爆、細菌兵器といった兵器開発は、それに該当するだろうな。

俺たちがそういう開発に関わるようなことは絶対ない。


量子コンピューターの開発に興味が移ってしまったが、市販のGPUを何枚か使って計算処理を並列処理させる試作パソコンを、マニアとか研究者向けに売ってみようということになる。


遊びでやっているから、興味を持つ方向性もフラフラする。

しかし遊びでやっているからこそ、開発スピードが猛烈に早い。


販売のことなど何にも分からないけど、妙に興味が湧くのだ、自分たちが作ったものを販売してみたいなと思い始める。

商品を売れば、販売責任を問われるから、安易に思いつきでやらないほうが良いのだが、3人は楽しくて仕方ない。


計算処理を並列で行わせるためのライブラリも、おまけに付けようかとか、サンプルソフトはどうするかで盛り上がっている。

あれ、保君、声が出ているのだけど。


あーでもない、こうでもないと、3日ぐらい楽しんでみたものの、具体的にどう販売するかとなると、どうすれば良いのかさっぱり分からない。


ここはやはり、鈴森会長に教えてもらおうということになる。

財界のご意見番なのに、学校の先生みたいなことを頼んで良いのかとも一瞬思ったが、結局連絡してしまった、しかし意外に直ぐに見たいという返事が戻ってくる。


……2008年8月中旬……


鈴森会長とパソコン製造部門の取締役、技術本部の担当者が数名見学に来る。

「匠君、何か面白いものを作ったらしいな」


「AIの学習処理を高速でやってくれる、GPU搭載の並列処理パソコンを作ってみました。試しに自分たちで、マニアの人に売ってみようかと3人で考えてみたのですが、具体的にどうすればいいのか、いくら考えても分からないのです。まずはどのようなものなのか説明します」


俺は、GPUを何枚か使って計算処理を並列処理させる過程を説明し、その次に複数のパソコンで並列処理させるデモを見せる。


これなら、いくつかのAIシステムを同時に動かすことができる。

複数のAIシステムを並列処理できれば、人の脳のように統合化処理ができるようになるはずなのだ。


デモが終わった後は、技術資料をまとめたペーパーを配布して、詳しい説明を行う。

技術本部の担当者から様々な質問を受ける。

デモで見せられたものを、研究機関向けに販売することを想定しての質問だ。

なんか楽しい、売れたらうれしいな!


こんな物を子供3人で開発したというのか……と、パソコン製造部門の取締役と技術本部の担当者たちが驚いている。


ディスカッションが終わり、並列処理パソコンをK社で製品化して、研究機関向けに販売をした場合、ビジネスとして成り立つかどうかを、まず検討してみるという話になる。

大きな会社で事業化するなら100億以上のビジネスに成長する可能性がないならやる意味がないからだ。


市場を調査し、ビジネスとして成立しそうであれば、製品の売上高に対するロイヤリティーを、未来技術研究所に払ってくれるらしい。


話も終わり、これで解散かというタイミングで、並列処理パソコンとは別に、量子コンピューターの開発も検討していて、その処理を検証するためのシミュレーションも終わっていることを説明すると、鈴森会長が強烈に食いついてくる。


あれ! どうしたのかな?


会長から何度も、何度も説明を求められる。

K社の主力研究者を集めて、ぜひとも量子コンピューターの開発を進めて行きたいという話になっていく。


先程話していた並列処理パソコンの影が、急激に薄くなっているのだが……

並列処理パソコンと量子コンピューターでは、比較にならないよ……という雰囲気が伝わってくる。

会長は、どうしても量子コンピューターを開発してみたかったらしい。

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