第19話 秋葉原ビルの建設1

……2006年3月……


父さんの証券口座の残高が1億円に増える。

その口座では信用取引が使えるので、ゲーム会社のニ……を、信用取引で2億円分購入する。

この株を、年末近くまで持っていれば3倍にはなるはずだ。


もちろん俺の口座でも、6.4億円で同じ銘柄を全力買いしておく。

俺の方は、2007年末まで保有する予定だ。


俺の株式投資必勝理論を信じてもらっているのか、父さんはビルの設計に熱中している。

やっぱり、父さんは技術屋さんだなとつくづく思う。


元は建築設計の技術者だからね、自分のビルを楽しそうに設計している。

父さんは、こういうコツコツと積み上げる仕事が向いていると思う。


ビルの9、10Fを自宅にし、8Fは父さんの会社と、自分の研究所にする。

1Fから7Fまではテナント向け賃貸にして家賃収入が入るように、父さんにお願いしておいた。


俺の希望を聞きながら、ビルの設計を楽しそうにしている。

人気のテナントビルにするぞと、設計を張り切っている。


ところで父さんの設備工事会社だが……

業務変更と名称変更を行い、AKビル管理という名前で変更登記する。

ビル管理の仕事ならコツコツ仕事だし、父さん向きだと思う。


ところで、俺にはどんな仕事が向いているのかだけど?

やっぱりコツコツ派かな、研究コツコツだ、性格は遺伝しているみたいだ。

きっと、多くの社員を使うのは不得意だと思う。


ビルの設計が終われば、次は施工費用の積算だ、積算した予算を基に施工業者を選定することになる。

建設会社に全部お任せしますなんてしないよ。

2006年中はいろいろやりながら、父さんは忙しく過ごすことになるだろう。


2007年から、工事が始まれば進捗状況と、工事の品質をチェックだな。

手抜き工事なんかされたら、株で稼いだ儲けなんか簡単に吹き飛ぶからね。


施工内容と工程をチェックしながら、テナントの募集、ビルが完成すればビルの設備管理と、忙しい方がやりがいがあっていいと思う。


……2006年12月……


父さんの証券口座の投資資金は、4.8億円まで増えた。

俺はまだゲーム会社の株は売らないで持っているが、資産評価はざっと19億円になっている。


4.8億円はビル建設の工事費でほとんどなくなるし、銀行の借入金の返済もある。

両親にお金を4.8億円まで増やしたことを伝えても大丈夫かな。


匠が、そんなに簡単にお金を作れるなら、働かなくてもいいか……とか、きっと俺の両親は思わないと信じる。


俺の証券口座が5000万円に増えた話の後で、ビルの建設費を株式投資で作って見せると宣言した後も、父さんはビル設計に夢中になっていたし、母さんもパートで働いていた。

外食が増えたりもしていないし、着るものも立派になったりもしていない。


父さんは、ビルの建築費は銀行から借りようと思っているのかもしれないな。

いずれにしても、今のところ日々の生活は何も変わっていない。

両親は、お金でおかしくなる人でなくて良かった。


小学校に行きたくない話をした時のように、今度もダイニングテーブルに、両親と向き合って座っている。


両親をしっかり見つめて、父さんから証券口座に入金してもらった1000万円を、4.8億円に増やしたことを伝える。

その話を聞いて、両親は暫くの間、口が開いたままになる。


4.8億円という金額に、理解が追いついていないようだ。

匠が言っていた、株式投資必勝理論はホントだったのか……と、思っているのかもしれない。


しばらく時間が経過した後……

「匠はすごいな。どうやってそんな金額に増やしたのか、父さんも母さんも想像がつかない。金額に心臓がドキドキして考えがまとまらないが、匠が作ってくれたお金だ、大事にビル建設に使わせてもらうよ」


「ん〜まて、まて……株式投資でお金を増やした話は、外で話したりしたら絶対ダメだぞ。7歳の子供にそんな才能があることが世間に知られたら危険だ。本当に危険だぞ」

両親はお金のことより、俺のことを心配してくれているみたいだ。


普通1000万円がそんなに増えるとは思わないから、理解が追いつかなくて当たり前だと思う。

俺だって、前世の記憶がなければ怖くて、こんな相場なんか張れない。


「それと……株式投資はこの辺で止めておく方が良いみたいなんだよ。理由は、株式投資必勝理論の予想勝率が、かなり下がってきたからです。株式市場は常に変化していて、何かのファクターが変化してしまったのかもしれないです」


またまた適当なことを言っている。

両親は、匠がいうのならそうかも知れないと、信じてくれているようだ。

困ったら、いつでも株でお金が作れると思ってもらわない方が良いと思うからね。


「分かっている、分かっている。世の中とは、そういうものだよ。簡単にはお金が儲からないようになっているのだよ」と、両親がうれしそうに答えてくれる。


悲惨な未来と決別して、この人生は着実に良い方向に向かっている気がする。

前世の悲惨な人生に、揺り戻そうとするようなイベントなんかは、起こらないでほしいな。

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