どうやら貧乏高校生になってしまった俺
北見崇史
第1話
突然、両親が死んでしまった。
交通事故だった。
コンビニの駐車場にトラックが突っ込んできて、たまたま甘いものを買っていた両親にぶち当たった。即死だった。
だからあれほど甘いものは控えろと、息子が忠告していたのに。
俺はまだ高校二年生なんだけど、一人ぼっちになってしまった。一人っ子なので兄弟姉妹はいないし、じいちゃん、ばあちゃんもいない。親戚なんてものは見たこともなかった。
父も母も天涯孤独同士だったんだ。
葬式は、父が経営する会社の人たちがやってくれた。俺はむしょうに悲しく、泣きまくった。両親、とくに母の姿が、あらゆるところからわき上がってきた。悲しくて悲しくて、身体をエビのように曲げながら泣いた。時々ちょっと吐きながら、とにかく泣き喚いた。
葬儀が終わった。
両親の遺骨をもって、一人悲しみの真っただ中にいると、周りに誰もいなくなっていた。
あ、あれえ。
俺これからどうなるの。
ど、どうするの。
なにをやっていいのか、誰を頼っていいかもわからないので、とりあえず家に帰ることにした。動転して、部屋に財布やケイタイを置いてきたために金がない。しょうがないから歩いた。
家まで二十キロぐらいあって。マジ疲れた。強歩遠足よりも疲労した。
ええっと、家の前に、なんだか黒くて怖そうな車が止まっている。すごいヤバそうなおっちゃんたちがたむろしているし。
ま、まあ、ここは俺の家だし、堂々と入ればいいんだ。チキンだと思われるとイヤだからな。偉そうに胸を張っていこうって、小学校の校長先生が言ってたしな。とりあえず、門を通るよ。
「なんやワレえ、ガキがチョロチョロしてんじぇねえぞ、ゴラア」
怖いおじさんが、ビックサタンな顔して怒鳴っているよ。俺の股にぶら下がっている二つの玉が、ヒュンヒュンした。
「あ、あのう、ここ俺んちなんですけども」
他に行くところがない。どうしてもここに入るしかないんだ。
「なんやとコラア。この家は差し押さえじゃ、ボケえ」
え、差し押さえって、なんなの。そんなわけないじゃん。だって、ここが俺の家だし。
「そうか、あんちゃんがあいつの息子かいな。そうかそうか」
なんだか優しい語り口な人がきたよ。でも見かけは、もの凄く怖いんだけど。ハンパなく腐った魚の目なんだけど、しゃべりかたはソフティーだ。
「だけどなあ、残念だなあ。あんちゃんの父さんの会社はな、借金が死ぬほどあるっちゅう話だ。この家もな、保険金も賠償金も、ぜ~んぶ足しても、ぜ~んぜん足らないんだ」
初耳だ。うちの会社は順調すぎて、社員の屁まで金の匂いがすると、父はいつも言っていた。あれ、ウソだったのか。
「で、でもパソコンとか、ギターとか、スマホとか、自分のものが部屋にあるんですよ」
とくにパソコンの中身をみられちゃマズい。それに夜中にあやしげな自販機で買った、いかがわしい製品もベットの下にある。あれバレたら、死ぬほど恥ずかしいぞ。女子に、ヘンタイだのタイヘンだの言われるに決まっている。
「クソガキャア。耳そろえて、借金返してからモノいえやー。オドレの肝臓腎臓売って、全部返せや、いまここで腹かっさばいて男みせろや」
ひえ~、そんなのは無理です、はい。それはグロいです、痛いです。男じゃなくてもいいです。
「まあ、あんちゃんよう、そういうわけだから、この家に入るわけにはいかんなあ」
そんなあ。
だって、明日から学校行かなきゃなんないし、教科書とか制服とかもあるんですよ。
「もうな、あんちゃんの行先、見つけといたからな。ほら、この住所に行けばな、面倒みてくれる優しい天使みたいな人がおるんやでえ。なんでもすんげえ遠い親戚っていうこっちゃ」
メモ帳の切れ端を渡された。行ったことのない住所が、殴ったんじゃないかと思えるくらい乱暴に書かれていた。
「学校の転校の手続きな、しとっといたで。なあに、礼はいらんっって。そのかわりな」
い、息ができない。もの凄い力で首を掴まれた。もう、これは野獣だ、やじゆうですよ。
「二度とここにくるな。またその間抜けツラ見せたら、チェーンソーでバラバラにして、ドラム缶で海に沈めるからな」
は、はい、わかりました。
ビエ~ン。
なんだか知らないけど、家に帰れなかった。どうすりゃいいんだよ、もう。
父と母の遺骨を抱えたまま、とにかく歩いて逃げたよ。
あの付近をうろついていると、ドラム缶に入れられて、両親のもとへ宅配されてしまうからさ。
ずっと歩きっぱなしで、腹がへった。財布どころか、スマホを置いてきたのは大失敗だ。動揺してたんだ。びっくりしちゃってさ。
とりあえずコンビニの前まで来たけど、どうしよう。金もスマホもないから、なんにも買えない。おでん、食いたいなあ。
「うっわ」
あ、焦った。
突然、バックして駐車場に入ってきた車にぶつけられてしまった。
いや、当たってはいないんだけど、空気の圧力は感じたよ、圧力は。ギリギリセーフだった。
「き、きみ、大丈夫。骨は折れてない?」
運転手のおばさんが、血相変えて降りてきたよ。びっくりして、やっちまったな、って表情で俺を見ているぞ。当ててしまったと思ってるんだな。
これは、チャーンス。
「うぎゃあ、痛い、痛い。骨が折れますた。恥骨が複雑骨折して、ICU希望します」
「え、うそ。そんなに。どうしましょう、救急車を」
おばさん、スマホで救急車を呼ぼうとしてるけど、ちょっとためらってる。相当テンパってるな。
「でも、この住所に連れて行ってくれれば、すぐに治ります」
「え、ホントに」
さっき、怖いオッサンから手渡された紙きれを見せた。
書いてある住所、遠すぎて、歩いてはいけないよ。ちょうどいいから、このおばさんに乗せてもらおう。
「ええーっと、それじゃあ、ここに行けば治るの」
「治ります。親戚が外科医なんです。ドクター孤独です。連れて行ってくれたら、僕は治るし、おばさんは無罪です」
「わかった、連れて行くわ」
おばさん、ラッキーって顔してるな。でも、そうはイカのキン〇マなんだよ。
「そのまえに、お弁当食べたいです」
「え、あ、まあ、いいわ」
「じゃあ、特上牛ロース焼き弁当で」
「えーっ、給料前なのに」
ちっ、しょうがねえと舌打ちしながら買いに行ったよ。
よーし、とりあえず弁当ゲットだぜ。
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