異空間魔界村のバケモノたち

@aaapun

第1話 ノーナシゾンビの脳は二つあった

京太郎、今日子、恭美、凶の字が刻まれた三人の伊賀上忍御三家の末裔がタイムスリップした地は魔界の村だった。


三人は黒装束に身を包み、背中に忍刀しのびがたなを背負っている。


「あら?」と今日子が言った。


「魂が肉体化している。魂そのものが肉体になっているわ。つまり、もう憑依しなくても、私たちの姿が相手にも見えるし、話もできるというわけね」


「便利になったといえますが、この肉体が殺されると、魂も死ぬのでネバーモア、もう二度とないになってしまいますね」


恭美が応じた。


「文字通り、死ねば終わりってことよね。それにしても、なぜ、忍者衣装なのかしら。これって、目立ちすぎない」と言っていると案の定、二人の少年と少女が不思議そうな顔で京太郎たちを見ていた。


「ここらへんでは見かけない衣装を着られていますね」


(ふん? そういう君たちもその格好は何だ)


京太郎は言った。


「君たちだって人のことは言えないよ。宝玉と羽飾りのついた奇妙な杖を持ち、長いマントをまとっているのは普通じゃないでしょう」


「僕たちは魔導士ですからね、これは魔導士の正装ですよ」


「魔導士って? えっ? 魔法使いってこと?」


「そうです、僕たちは正式なライセンスを持つ魔導士です。僕の名はちょん、隣に立っている子は僕の妹できゅんです」。


「随分と若そうね。幾つなの?」


「僕は15歳、妹は13歳です」


(中学一年生と三年生なのね。若っかー!)


ちゃんは、まだ、あどけなさが残るが、お兄ちゃんらしくきりっとしたとこがかわいい、おかっぱ頭の少年だ。きゅんは目がくりくりした、いかにもお転婆そうな栗色の縮れ毛をした少女だ。


「ところで、私たちはタイプスリップしてきたので、この村がどんな村なのか分からないの。教えてくれない?」


きゅんが面白そうと思っている顔で尋ねた。


「タイプスリップ? それで、ここらへんでは見かけない服を着ているというわけなのね。変なの~。靴履いてないし、藁で作った草履みたいの履いているし」


「これはね、わらじっていうのよ、耐久性はないけど軽くていいのよ」。

 

「何も知らないようなので教えておくけど、ここは魔界の村ですよ」


「魔界ってどういうこと?」


「ここにはね、ハーケンとバーゲンという二人の魔物の頭領がいて、その下に5匹のバケモノがいます。彼らは毎月、一人の人間を餌として食べているので、毎月、最低でも7人は食べられているわけです」


 「ひどい話ね。では、村の人たちは餌として飼われているということ?」


「そうなりますね。そのために僕たちは魔物とバケモノを倒そうとしてここにやって来たわけです」


「その杖で?」


「いえ、これはただのツールです。戦う力は私たちの魔法です。ところで、あなたたちは戦闘衣装のようなものを着ているからには、ソルジャーですか?」


 「そうよ。私たちは戦士よ」


「そして、武器が背中に背負っている刀というわけですか? そのような武器ではバケモノ一匹倒せないかもしれないですよ」


恭美が(なによ、このチビたちが偉そうに)と苦笑いを浮かべながら言った。


 「そうでもないかもしれないわよ。百聞は一見にしかずというわ。とりあえず、バケモノと戦ってみせましょうか?」


するときゅんが遠くを指さした。


「あそこに最もステータスの低いバケモノがいるわよ。名をノーナシゾンビっていうの」


京太郎たちはその言葉に興味を持ち、互いに視線を交わし合った。


「どんなバケモノなのか、見てみようじゃない」と京太郎が言うと、三人は一斉に歩き出した。


魔界の村の不気味な空気が、彼らの心を掻き立てる。


果たして、彼らは無事にこの村を救うことができるのだろうか。


目を凝らして見てみると確かに変な奴がいる。


首の上に三日月が乗っているような変な生き物だ。


(脳無しですって? ゾンビって言った? 確かに、あの先が尖がった頭では、脳みそはあっても少ししか入らないわね。それにしても想像を絶する異形よね)


バケモノがふらふらしながらこちらに近寄って来た。


見ると、顔の面積が小さいからか、眼も点みたいで、鼻はほぼない。口もおちょぼ口だけど、その小さな口の端から鎖が垂れ下がっており、その先に鎌がついている。


(口から鎖鎌が垂れている? バカじゃないの?)


それでも、バケモノ相手だから一応は用心しなければならない。


「手首を合体させてチャージしておきましょうか」


手首に浮きだした京太郎の三日月、今日子の眼、恭美の六芒星を重ね合わせた。


エネルギーが湧いてくる。やはり、光が混じっている。

タイムスリップしても、この点は変わらない。


しかし、ノーナシゾンビは魔導士二人と忍者三人には全く関心を示さず、よろめくように、ひたすらぶらぶらしながら歩いている。


「僕たちに興味がないようですね」


ちゃんが言った。

「誰かを食べた後なのかもしれないです」


 「興味がないのなら、興味を持たしてやりましょうか」と京太郎はノーナシゾンビに向かって歩き出した。


ちゃんが心配そうに言った。


「刀で斬っても死なないですよ。ゾンビですから。斬られてもすぐに再生してきてキリがないですから」


(分かってますよ、そんなこと)京太郎が刀を抜いた。


刀身が金粉を飛び散らかしたかのように光っている。


恭美も刀を抜いた。

こちらの刀身も黄金色に輝いている。


ノーナシゾンビは(へん、刀ごときで)と高をくくっているのか、悠々と二人の動きを見ている。


(こいつらが斬り疲れたところを見計らって、脳みそを勝ち割ってすすってやろうか)とさえ考えていた。


京太郎がゾンビの右手にまわり、恭美が左に回った。


京太郎がゾンビの右手を斬り落とした。

同時に、恭美も左手を斬り落とした。


しかし、斬られた両手はかなりの速さで復活した。

斬っても斬っても生えてくる。


そのうち、二人は気づいた。


(このままではらちが明かない。ゾンビの脳を破壊してやろう)と頭を見ると三日月型の小さなとんがりしかない。


(こんなところに脳味噌が詰まっているのだろうか)と思っていると、鎖鎌が飛んできて京太郎の刀の鍔にからまって刀が奪われ、遠くに飛ばされた。


ゾンビが「うひゃ。オレを舐めては怪我をするぜ。いつまでオレの体で遊んでるんだ」と叫ぶと急に三日月型の顔がまん丸のフルムーンになり、口が大きく避けた。


「てめえら、うるせえ銀バエみたいなやつら、頭蓋骨をかみ砕いて脳みそをすすってやる」


「はっ? 何を偉そうに」と叫んで、恭美が右手の人差し指と中指から霊力を放射した。シャー! と言う音共に放たれた霊力は大口を開けたゾンビの喉の後ろをぶち抜いた。


大きな口に穴が開き、後の風景がみえる。

しかし、それも瞬息で塞がれてゆく。


(やはり脳を破壊して動きを止めるしかないか)京太郎は飛ばされた刀を拾うと走ってきて横なぐりに三日月の先端を斬り飛ばした。


しかし、事態は一向に好転しない。


ゾンビの動きが止まらないのだ。


再び、鎖鎌を振り回して京太郎にせまってくる。


その鎖を恭美の霊力が撃ち砕く。


霊力は金属には反応しないものだが、鎖が吹き飛んだということは、それがゾンビの体の一部であることを示している。


そのとき、今日子の第三の眼がゾンビを霊視して見つけた。


「ゾンビの脳は太ももにあるわ。右と左に一つずつ、二つに分かれて格納されているわよ。なんちゅう奴だ。ノーナシかと思えば、二つも持っていたとは」


「分かったわ、後はおまかせダイニングルームよ、きっちり料理してやるわ。トカゲの尻尾みたいに再生させるしか能のないゾンビ野郎、お前は再生頼りのユーチューバーか」


京太郎が右手首を立てて、手のひらからズーン! と霊力を照射し、恭美は右人差し指と中指からシャー! と照射して、右と左の太ももを射抜いた。


「おわっ」と叫んでゼンマイが切れた人形のように、ゾンビの動きが止まった。


それを見てちゃんときゅんが微笑みながら近づいてきて言った。


「ようやく動きが止まりましたね。では、解体してイチゴを取り出しましょうか」


そう言って、ちゃんが腰の短剣を抜いた。

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