貞操逆転世界だと工業高校は女だらけになるのでフツメンの俺でも美少女ハーレムが出来てしまった

剃り残し@コミカライズ連載開始

第1話

 両親と桜の舞う道を3人で並んで歩く。周りを歩いている人は、緊張した面持ちの男子高校生とその両親。


 向かう先は皆同じで、東浜工業高等専門学校、通称東浜高専の入学式だ。


 理系の技術者を養成するための教育機関。その性質上、女子がほとんどいないのは周知の事実。周囲を歩いている同世代にほとんど女子がいないのもそれが理由だ。


理央りお、父さんは仕事があるから入学式の後にある入寮式や部屋の片付けは母さんが手伝うからね」


 母さんがそう話しかけてくる。


「あ、うん。2人ともありがと」


 父さんは大手メーカーで働いているため毎日忙しいらしい。今日もその合間を縫って入学式の出席はできたものの、午後にある学生寮に関わる手続きは母さんが手伝ってくれるらしい。


 東浜高専の校舎は自宅から通うには少し遠い場所にある。電車の乗り継ぎもそうだし、立地が小高い山の上にあり、そもそも駅から通学することも面倒な場所だ。


 それならばと、併設の学生寮に住み、朝はゆっくりと過ごせるような生活を送ることにした。


「ま、荷物もそんな――」


 ガンッ! と歩道にせり出していた看板に頭をぶつける。


 その瞬間、妙に気分が悪くなりその場にうずくまった。


 ◆


「理央! 理央!」


「大丈夫!? しっかりして!」


 父さんと母さんの声が聞こえる。


「う……」


 二人の支えを受けて立ち上がる。


「大丈夫かい?」


 父さんが尋ねてくる。


「あ、うん」


 周囲を見ると頭をぶつけた看板がなくなっていた。そもそも看板じゃない何かに頭をぶつけたのかもしれない。目の前にいる両親は普通だし、周囲も人が減ってはいるが特に気になるところはない。


「本当に大丈夫?」


 母さんが俺の頭を触る。


「うん。血も出てないし」


「あら。母さんが触っても嫌がらないのね。最近嫌がってたじゃない」


「……ん? そんなことあったっけ?」


 両親が笑いながら先に進む。自分の記憶にない事を言われ、妙な違和感に首を傾げつつも、入学式に遅れないよう早足で歩みを進めた。


 ◆


 東浜高専第2体育館。床面を傷つけないようブルーシートを敷き、その上にパイプ椅子が整然と並べられた様子はいかにも式典といった雰囲気だ。


 違和感を覚えたのは、体育館にやたらと女子が多いこと。


 イメージしていたのは、どの学科も男が9割の光景。


 だが、およそ半分が埋まっている席に座っている人はほとんどが女子。これから男子が続々と来て男女比が半々になる、なんて未来を考えるのはあまりに都合が良すぎるだろう。


 不思議に思いながら前から2列目の席に座ると、最前列の席に座っている女子が話しかけてきた。


 長い黒髪にパッチリとした猫目が可愛らしい人だと思った。


仏面ふつめ理央りお君?」


「あ……は、はい」


「私、江崎えさき百依もよ。一緒に生徒代表で挨拶するって聞いてる? 二人で前列に座ってた方がいいかなって思って」


「ううん。聞いてない……」


「わ、そうなんだ。とりあえずこっちおいで。台本、作ってるから」


 百依がニッコリと笑って俺を手招きしてくる。


「あ……う、うん……」


 椅子から立ち上がり最前列に移動する最中、周囲の女子達の声が聞こえてくる。


「えっ! あの人かっこよくない!?」


「いや、普通でしょ。もう高専病になってるんじゃない? 男子が皆かっこよく見えてるだけだって」


「えー……かっこいいと思うけどな」


 明らかに自分の方を見ながら繰り広げられるそんな会話が耳に入る。


 明らかに何かがおかしい男女比にやたらとオープンな女子。


 自分が異世界に紛れ込んだかのような錯覚に陥りながら江崎さんの隣に座る。


 椅子の間隔が狭いため、隣に座った拍子に手が当たってしまった。


「あっ……ごめん……」


 俺がそう言うと江崎さんが顔を赤くしてあさっての方向を向いた。


「おっふ……うっ、うす……あす……」


 美少女らしからぬ低い声で江崎さんが挙動不審な態度をとる。なんでこんな童貞の男子高校生みたいな反応をするんだ。


「あっ……えっと……こっ、これ……台本……」


 江崎さんが手をガタガタと震わせながら紙をカバンから取り出す。だが、すぐに手を滑らせて紙が床に落ちてしまった。


 椅子から降りて紙を拾いに行くと、同時に江崎さんも拾いに来ていて、二人の手がぶつかる。


「あっ……」


 また手が触れると江崎さんが硬直した。今度は見つめ合ったまま、江崎さんが俺のことをじっと見てくる。


 しばらくそうしていると、江崎さんは「ヘァアーッ!」と大きく息を吸ってバタバタと椅子に戻っていった。


「い、息が止まってただけだから!」


 椅子に座り脚をぎゅっと閉じた江崎さんが顔を真っ赤にしてそう言ってくる。


「息が止まってるのは大事だよ!?」


「もう大丈夫。いくらでも深呼吸できるね! あー! 体育館の空気美味しー!」


 その場で深呼吸をする江崎さんの挙動はかなり怪しい。


 よく考えたら、生徒代表の挨拶を任されるということは、成績優秀者のはずだ。それこそ受験の成績がトップだったとか。


 それでなくても高専には変人が集まると聞く。少しネジの外れた変人タイプの天才だとすれば納得のいく挙動だ。


「仏面君、練習しよ? 本番まで後10分だし」


 髪の毛を耳にかけながら江崎さんが声をかけてくる。


「あ……うん。よろしく」


 そもそも俺は生徒代表で挨拶をするなんて話を聞いていない。


 やっぱりなにかおかしいと思いながら、椅子に座りなおして台本の暗記を始めるのだった。

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