猪の化け物1
雲行きが怪しい。
目覚めた俺は最初に目に入った空に暗い雲があるのを認めた。
そういえば、俺は雨風を凌げる場所を有していない。
樹の深い所にいれば雨は凌げるだろうが、少し強い風が吹けばそれも叶わない。
俺はここを本格的な拠点として、簡易的な家を作ることに決める。
そうして立ち上がり、手早く起こした火で肉を少量焼いて食べた後、目的の物を探すため森へと入った。
別に本格的な家を作ろうとは思わない。
そんなもの今の俺では到底不可能だ。
細い樹と葉でできた家で十分だ。
俺は目的に丁度いいくらいの細い幹を持った樹を見つけた。
それにぶら下がるようにして樹をしならせ、さらに体重を掛けていく。
かなり弾性があるようで、地面に水平になってもまだ折れない。
俺は魔力を纏わせた足を樹に乗せ力を入れる。
ミシミシと音を立て始めた樹はようやく根本近くから折れた。
それを何度か繰り返し、数本の気をまとめて抱え拠点へと戻る。
拠点に戻った俺は持ち帰った樹にナイフを大きく振りかぶって叩き折り、小分けにした。
それを魔力を込めた腕で地面へと深く突き刺し、その上から大きな石で打ち付ければ家の柱が完成。
ナイフで柱と梁となる樹に溝を作り、嵌め合わせる。
素人がサイズも図らずにはめ込んだ梁は当然きっちりとは嵌らずガタガタだ。
俺はそれを補強するように蔦を巻いて硬くしていく。
そして屋根も同じように互い合わせで重ねていき、蔦で補強。
これだけでかなり時間が掛かったが、ようやく簡素な家の骨組みが完成した。
広さとしては人が二、三人寝っ転がれる程度のものだ。
そして屋根を優先ということでこれまた何かと便利な大きな葉を屋根に重ね合わせていく。
屋根が完成し、壁部分の寂しく空いた穴を埋めるように丁度いいサイズにナイフで端を切り落とした枝をはめ込んでいく。
ここから泥辺りで補強できれば完成だろうか?
強度を問われれば欠陥住宅も甚だしいものだろう。
しかし、俺はほぼ完成したその不出来な家を見て息を大きく吸い込んだ。
「すぅぅぅ、はぁぁぁあ……よし!」
胸に広がる満足感を堪能。
俺はドアもない吹き抜けの家の中へと入る。
全体を見渡し寝っ転がった。
壁は隙間だらけで天井は脆い葉。
風が吹けば隙間から入ってくるし、強ければ葉すら飛んでいくかもしれない。
まだ完成とは行かないが、残念ながら日も暮れてきた。
今日のところはここまでにして完成はまた近い日に施行しよう。
俺は食事の準備を始め、残った時間を魔力操作の練習に費やすことにした。
◆
雨の降る音で目が覚める。
葉の敷き方が悪かったのか、そもそも葉だけでは不十分だったのか、何か所か水漏れが発生しており、家の中の地面が湿っている。
それでも俺の体は濡れていないのだから家の建てた目的は十分に達成している。
雨の降る中、やることはない。
俺はのそりと体を起き上がらせる。
すると入口に何かがあることに気付く。
白い毛玉だ。
肌寒い雨の中であっても暖かそうなそれは小さく寝息をついていた。
「もしかしてウサギか?」
その言葉に白い毛玉は目が覚めたのか、首をもたげて起き上がる。
体を伸ばすその姿は野生とは思えない。
あれ?舐められてる?
ウサギの足元には俺が昨日食べて放置していた木の実の殻が置いてあった。
食べたのだろうか?
いや裏側を舐めたといった方が適切だろう。
そんなことを思っているとウサギはこちらを一瞥すると気に留める事もなく視線を雨空へと向けた。
うん、かなり舐められてそうだ。
思えば、こいつが樹に突き刺さって自滅したあれ以降、俺はこいつにいい様におちょくられている。
角を用いて本気で殺しにかかるわけでもなく、足蹴にされるばかり。
最初以降反撃らしい反撃ができた試しがなかった。
だが今の俺は魔力を手に入れて強くなっている。
やられてばかりの今までの俺ではないのだ。
俺は魔力を腕に回しつつ、ウサギの様子を伺う。
上体を倒して腕を伸ばせば手が届く距離だ。
俺は息を殺して狙いを定める。
「……ばからし」
俺は意にも返さないウサギの姿を見て、バカバカしい気持ちになった。
殺意を向けられているわけでもなしに、無警戒の小動物に躍起になっては大人としてどうか。
俺はそいつの近くにあるまだ割れていない木の実に手を伸ばす。
その動きにウサギが一瞬びくりと警戒してこちらを見た。
「取ってくったりしないって」
俺は手に取った殻をナイフで叩き割る。
「ほら」
俺は食べやすいように剥いた木の実をウサギの傍に置く。
しばらくこっちをじっと見ていたウサギも次第に意識が木の実に映り、匂いを嗅ぎ、舌で舐める。
その味を気に入ったウサギはもしゃもしゃと木の実を食べ始めあっという間になくなった。
中身のなくなった木の実を前足で叩いて催促してくる。
「人の食料を……」
仕方なしに俺はもう一つ手に取って与えるとまたすぐに食べつくしてしまう。
「どんだけ腹が減ってたんだよ」
俺は少し瘦せているように見えるウサギに気付いて今度は二つを砕いて渡す。
夢中になって食べるウサギの姿に腹の虫がなった俺は同じように木の実を食べることにした。
ここに来て初めての、誰かと一緒の食事に今までにない何かを感じた。
向こうでは感じなかったはずの物が埋まっていくような感覚に俺は首を傾げるも悪い感覚ではないそれをしっかりと感じながら食事を摂った。
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