第104話
けれど彼女は、そんな私たちを予測していたのだろう。
彼女なりのチャーミングなプレゼントを残してくれたのだから。
『ベンチの場所は教えないとメリッサと約束したんだ。彼女は悪戯好きだから、ガーデン内を捜しまわってる君たちのことを、きっとクスクス笑いながら見てるんじゃないかな』
まんまとハミルトン夫人の思惑に引っ掛かった私たち家族は、休日になるとキューガーデンへ訪れ、広大な園内を捜しまわることになったのだ。
「倫。半年前もこの辺チェックしたよね。どうしてあの時、見つけられなかったんだろう」
「それはね。グランマは隠れんぼが上手だからだよ」
ベンチの横にレジャーシートを敷いて座ると、彼女が好きだったキュウリのサンドイッチを家族で頬張る。
私と昴さんがまだ新婚で、慣れない土地に不安を抱いていた時、誰よりも最初に温かく迎え入れてくれたのは、ハミルトン夫人だった。
昴さんが不在の時、倫や敦を妊娠中の時、いつも側に居て私を守ってくれた、私のロンドンの母。
いつかは訪れる別れの悲しさと淋しさ、そして返しきれないほどの彼女からの慈愛がいかに大きかったのかを、ハミルトン夫人はその身をもって私たち家族に教えてくれた。
「出勤前に玄関を開けるとさ、彼女のオハヨーゴザーマスって声を、未だに期待してしまうんだ」
「えっ、昴さんも?」
「なんだよ、千捺もか」
昴さんの肩に頭を乗せて瞼を閉じる。
サンドイッチの残りのひとつを取り合う倫と敦の可愛い口論を聴きながら、ハミルトン夫人の笑顔を想い出す。
妻として、母として。
私は貴女に一歩でも近付けたでしょうか。
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