第97話
「三軒先の弁当屋やってる南さんご夫妻がな、年末に店をたたんで郷里に戻ることになってな。そこを使ってレストラン小柴のデリカテッセンを千晴が出すことになりそうだ」
「えっ。千晴姉ちゃん、今まで商売になんて興味なかったんじゃないの。お店の厨房にすら入ったことないでしょ」
「千晴は大学で栄養士の免許をとってる。多分、今まで千香たちに遠慮してたんだろう。南さんちの店鋪が空くって話しをしたら、やりたいと言ったのは千晴だ」
「だけど、輝政さんは」
「否、輝政くんの為なんだ。ヤツの会社が業績不振でな、輝政くん管理職だろ。部下のリストラを迫られてるけど、優しいヤツだから人を切ることができない。それで千晴がそんな会社を辞めて夫婦で商売しようって、彼を説得したんだ」
意外だった。
千晴が輝政さんの為にそんなことを考えたってことが。
「保健所への申請やら資格云々の問題もあるけど、智充くんが全面的にバックアップするって言ってくれたから、輝政くんも休日に厨房で指導を受けてる。ま、来年の春頃にはレストラン小柴のテイクアウト部門がオープンするって話しだ」
未だ驚きを隠せない私の横で、母は呑気にお茶をすすっている。
きっと随分前からそんな話しが出ていたんだろう。
「なによりね。千晴と輝政さんの顔、活き活きしてるのよ。あんなにふたりで何かに夢中になって必死に頑張ってるの、初めてよ」
のほほんと嬉し気に告げる母もまた、千晴夫婦のことに何か思うところがあったんだろうと感じた。
私が彼らのもとを結婚して離れて2年弱だけれど、夫婦の環境も変わって行く。
未だに同窓会の翌朝、あの和菓子を千晴は配っているのだろうか。
これからは、そんなことがなくなって行くんだと思いたい。
できれば、千晴には輝政さんとずっと幸せていて欲しい。
母が言うように、ふたりの仲が好転していると信じたい。
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