第51話

着替えを済ませて、昴さんがリクエストした通りにエスプレッソを作って、ホットミルクを用意する。



テーブルには彼が湯飲み代わりに愛用しているバカラのカットグラスと土産で大量に買ったビスコッティをお皿に盛り付けて並べた。



寝室の扉の開閉音と共に、彼が欠伸をしながらやって来てるのを確認してから、エスプレッソとミルクをカットグラスに注ぐ。



ミルクたっぷりでややぬる目のカプチーノは、ローマで迎えた最初の朝に彼と行ったバールで飲んだ物の再現。



私も昴さんもその店のカプチーノが気に入って、ローマを旅立つまで何度も足を運び、気の良い店主のおじさんにエスプレッソの美味しい煎れ方とミルクの温度を伝授して貰ったのだ。



「おはようございます」



「ん。いい香りがベッドまで届いてた」



のんびりと喋る口調に、頬が緩む。



目覚めたばかりの昴さんは、とても幼くて可愛い。



昴さんは新聞を広げてスローペースでカプチーノを味わっている。



私もテーブルに着いて、ビスコッティをそれに浸して食べる。



テレビもつけず静かで穏やかな朝の風景。



20分ばかりそんな時間を過ごすと、通常運転に近い大人の昴さんへと覚醒して、テキパキと身支度を始めるのだ。



その日のコーデを決めるのは、私の役目になっているから、急いで彼のスーツやシャツをクローゼットから取り出して渡していく。



私よりもセンスが良い彼は「オレンジのタイの方が合うんじゃないか」と控えめに指摘してくれるから、とても勉強になる。



カシャリとスマホで彼のスーツ姿を撮影して、今後の参考にする。



そんな私が可愛いと、頭を撫でながら軽いキスを何度もくれる旦那さま。



始業時間より1時間以上早く出社する彼をマンションの下まで見送り、本格的な主婦生活がスタートしたのであった。

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