第34話

昴さんが散歩の途中で見つけたと言うバールでカプチーノと甘いブリオッシュだけの朝食を済ませると、観光に出かけた。



オードリーがジェラードを頬張っていた広場の階段が飲食禁止と知り、私は映画の真似っこができないと酷く残念がり、再び彼を笑わせてしまう。




イタリアに来たなら革製品だよと昴さんに勧められて、一軒の手袋屋さんを覗いた。



質のよいシープ素材の手袋は、日本では見かけないような艶やかな色彩に溢れている。



「無難な色より、好きな色を探してごらん」



彼はそう言って、店員さんにいくつかの色を指定すると自分のグローブを選び始めた。



私はその横で、36色の色鉛筆よりも多彩に揃うカラーや素材の中から、愛らしいアプリコット、軽やかなミモザ色、高貴なサーモンピンクをチョイスして掌に通してみる。



「少し小さいかな」



ポツリと日本語で呟いたその言葉に反応して、店員さんが指の細さの鉄の棒を手袋に押し込み革を引き伸ばして、私のサイズに調整してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る