第12話

その翌週のことだった。



小さなサロンで行なわれた管弦楽を昴さんと聴き入った後、スペインの家庭料理を振る舞うお店でパエリアを食べている時だった。



「千捺さんにとって結婚相手に求める一番の条件って、なんですか」



とても真剣な様子で静かに問われた。



「暴力をふるわない人」



お酒が強いと言っても、シラフで人を殴る人もいる。



そんな人は問題外だ。



どんなに愛し合っていても浮気をする人もいる。



千晴の元彼がそうだったように。



恋愛さえしていなければ、相手を束縛することも裏切られることもない。



だから、私は自分に危害を加える人だけは嫌なんだ。



「交際相手に手を出されたこと、あるんですか」



「いいえ。付き合ったこと事態、私にはないです」



友達以上の雰囲気になった人はいたけれど、所詮そこ止まり。



それ以上踏み込むのも、踏む込ませることも私は許さなかった。



私には恋してると言う不確かでふわふわとしたものだけで満足だった。



姉みたいに、一途な恋情で自分自身を追い詰めたくないから。




「僕は貴女に手をあげたり暴力をふるったりしないと誓います。千捺さん、結婚を見据えて正式にお付き合いしませんか」



前回のお見合い相手の時みたいに、この人ならと言う直感はなかった。



けれど、すでに私は昴さんを信用しているし、なにより安心できる人だと感じ始めている。




だから私は、「はい」と頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る