将来のこと
雪乃ちゃんお手製の美味しいザッハトルテをいただきながら、私たちは勉強後の休憩時間を過ごしていた。
「理子ちゃん。私、将来は料理やお菓子に関連した仕事をしたいと考えてるんです」
つい今しがた、ザッハトルテのエピソードを饒舌に語っていた雪乃ちゃんが、真面目な表情に改めて語った。
「もともと料理を作るのは好きでした。家族の食事を作るようになって、美味しいと言われています。今は作ったお菓子を美味しいと言ってもらえました。家族や友達の身贔屓はあるかもしれませんが、私の得意なことで皆さんに喜んでいただけるのでしたら、それを仕事にできればと思います」
「そうなんだ……。じゃあ、はっきり言うね。身贔屓じゃないよ。雪乃ちゃんの作ったこのザッハトルテ、本当に美味しい。自分の好きなことを将来の仕事に出来るのは素敵なことだと思うよ」
これが私の正直な思いであり、それ以上言うことはなかった。
「ありがとうございます。今はまだはっきりと決めたわけではありませんが、将来の目標として考えたいと思います。いつかは自分のお店もやってみたいですね。でも、まず高校を卒業しないと次が始まらないので、今は学校の勉強を頑張ります」
そっか……雪乃ちゃんは高校を卒業したその先を考え始めていたんだ。
「わかった。私もできる限りのことで力になるからね」
「はい。よろしくお願いします」
ケーキの話から思いがけず広がった雪乃ちゃんの将来の話を聞いて、私は自分の将来をまだイメージしていないことに気づかされた。
とりあえず、大学には進学したいと考えていた。
でも、大学で何を学びたいのか。その先はどうするのか、まだ考えていなかった。
高校生になったばかりだからまだいいかと楽観していた。
でも、高校に入る前からその先を見据えている人は珍しくないし、目の前にいる子も学習能力に問題を持ちながらも、自分のできることから将来を見出だして考えている。
私は甘かった。
雪乃ちゃんには学校で学ぶ目的と目標とか偉そうに語って、今日も先生役を気取ってアドバイスをしたくせに、私自身は自分のことを何も考えていない。
高校生活がボーナスステージだなんて浮かれた自分を恥じた。
ダメじゃん、私……。
そう思いながら口に放り込んだクリーム無しのザッハトルテは甘いはずなのに苦かった。
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