志望動機
私、高橋理子が通信制課程の高校に進学したのは、中学校でのいじめが原因だった。
通っていた中学は私立の中高一貫制女子校。
しかも、入試の最難関女子校といわれる四葉女子だ。
でも、生徒たちは頭がいいから人間性も優れているかといえばそうでもなく、屑みたいな奴らもいる。
私は学力だけでなく自分でも自覚しているほど容姿が優れている。
幼い頃に子ども服のモデルをやったことがあるし、大きな街を歩けば芸能事務所にスカウトされる。中学入学早々に次年度の学校案内に顔出しで写真に載る生徒の一人にも選ばれたほど。
しかし、性格は外見とは正反対で陽キャではなく内向的で趣味もほとんどない陰キャだった。
同世代の流行や嗜好といった話題に疎いから、みんなと話が合わない。
みんな最初は私がアイドルであるかのように持て囃してくれる。でも、すぐに外見と内面のギャップが知れると、手のひらを返して期待外れとばかりに離れていく。そして私はひとりになる。
その繰り返しに疲れた私は、自分からみんなと距離を置いて、休み時間はひとりで過ごすようになった。
それでも、行事などでクラスメイトと合わせる必要がある時はきちんと合わせた。日々の学習や行事で班を作った時は、積極的に班長をやった。
それなのに……
その屑みたいな連中が勝手に私に劣等感を抱いて嫌がらせをするようになったのだ。
連中は三年生で初めて同じクラスになった女の子とその取り巻きだった。
彼女は併設の小学校からの内部進学者で、その当時からスクールカーストのトップにいるような子だったらしい。確かに同性の私から見ても可愛いと思うし、成績も常に上位。でも、第三者からの評価は容姿も成績も私のほうが上。それが気に入らなかったようだ。
私物を隠されたり、連絡事項を知らされなかったり。お弁当を棄てられたりしたこともあった。
そんな嫌がらせが毎日のように続けばストレスが溜まる。
私は嫌なことは嫌だとはっきり言える。でも、言ってもいじめグループはやめてくれない。言って止めてくれるような素直な人間性なら最初からいじめなどしないだろう。
結局、多勢に無勢で抗うことは出来ず、他のクラスメイトはみて見ぬ振り。心の支えになってくれる友達もおらず、夏の制服に衣替えをする頃に私の心は折れた。
私は不登校になり、心配した両親が学校に相談したものの、いじめの明確な証拠がないため有耶無耶になった。
このまま不登校を続ければ一貫制であっても高校へは進学できず、そもそもいじめが有耶無耶になったままだから進学するつもりもなかった。
当然、他の高校を受験することになるが、他校へ進学してもいじめに遭うのではないかと不安だった。理不尽な悪意を持つ屑はどこにでもいる。
不登校になったものの学習意欲までは失っていないから、自分と似たような境遇の人たちがどのように進路決定をしたのかをネットで調べた。
そこで知ったのが、通信制課程の高校だった。
通信制なら自宅学習が中心で、他の生徒との関わりも必要最低限で済む。私のように不登校から入学して大学進学まで果たした人もいるらしい。
今の私には最適な学校だった。
調べたら、通信制課程を持つ私立の女子校がいくつかあって魅力的だったけど、他県で遠すぎて諦めた。
通信教育といっても完全に自宅だけで学習をするわけではなく、面接指導(スクーリング)や特別活動で必ず登校する日があるから家から通える範囲じゃないとダメだからだ。
結局、自宅から三十分程度で通えるところに通信制課程を持つ公立高校があり、そこを受験して合格した。
こうして進路の決まった私はそのまま中学は不登校を続け、結局卒業式にも出ないまま卒業した。
学校から卒業証書や記念品などが送られてきたけど、開けないでクローゼットの奥へ放り込んだ。
必死に受験勉強を頑張って、難しい入試に合格して入学した憧れの学校だったのに、なんの感慨も未練もなかった。
ただ、ひとりくらい仲の良い、親友と呼べる子がいたほうが良かったのかなと思うことはあった。
そして迎えた四月。
入学式に先だって新入生向けオリエンテーションが行われ、高校生として初めての登校となった。
他の人たちと関わりたくない、それでもひとりくらいは気の合いそうな同級生と出会えないかな。
そんな矛盾した思いを抱きながら登校した私の前に、彼女は現れた。
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