俺は生首

ふさふさしっぽ

生首登場

 俺は生首。その名の通り、頭だけの存在だ。普通の人間だったら生きているわけがない。

 そんなわけで、俺は幽霊とか、怪異って存在なわけだ。

 成仏できずに、あの世へ行けずに、この世をさ迷っている、怪異。


 俺だってそろそろ成仏してもいいかな、と思っていなくもないんだ。けど一人でお行儀よく、誰にも知られず成仏っていうのもしゃくなんだよな。

 怪異っていうのは恐ろしくて、危険な存在じゃないといけない気がする。

 そんな気がする。

 だから誰かを道連れに、俺は成仏するんだ。



 そこで俺はとあるアパートの二階通路に待機している。無論、生首の状態で。これから階段を上がってくる奴の前にころころ転がって行けば、そいつは驚き、階段から転げ落ちてお陀仏、っていうシナリオだ。

 そいつにこれといった恨みはないが、階段を上がってきたのが運の尽きだ。

 俺が気分よく成仏するための道連れになってもらおう。悪く思うなよ。


 カンカンカン。


 お、さっそく来たな。若い女だ。仕事帰りか、遊びの帰りか。


「今日はありがとう、楽しかったね。うん、うん、え、来週? 空いてるよ、ちょうど行きたかったんだ、そこ」


 スマホで通話中か。相手は彼氏か、友達か。どっちでもいい。あんたに来週はやって来ない。ここで死ぬんだからな。

 俺は勢いよく階段から転がった。

 生首様のお通りだ!


「予約とれるかな? え、とってくれるの、嬉しい」


 しまった、女は通話に夢中で全然俺に気がつかない。なんたる誤算。

 しかも俺が止まらない! 階段を転がり落ちていく。

 車道に出てしまった……


 ブロロロロ……


 グシャ。


「今なにか轢いたか?」


「ゴミか何かだろ。早く帰ろう」


「そうだな」



 終。


 

 

 


 

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