ラズベリーなライバル

加藤さんはラズベリーなライバル


◇◇◇◇



カー君を殴ってしまって、数日経って……特に何かあったことはない。


クラスは違うし、加藤さん達の目がある中でカー君には近付けないし、元々中学生になってからは学校では関わろうとしなかったし。


だから私が『もう来ない』と言って、カー君が私の家に来なくなったら、本当に顔を合わすことも無くなった。



この数日はすごくリアルな未来体験をした気分だった。


だって、違う高校に進学して会わなくなれば……いくら幼なじみだろうと、家が近くても、こんな感じになっちゃうんだろうなって。



カー君とはケンカしてもすぐに仲直り……の私達、だから一度タイミングを逃せば、もうどうすればいいのかわからない。



受験も来週だから家庭教師を中止にしても、ほぼ後は自分の実力を信じるしかない状態だから……大丈夫と言えば大丈夫……だけど。



下校中のカー君の家の前を通るけど……



「……」



『もう来ない』って言っちゃったんだよね、私が。


もうカー君は家にいるのかな?



……来週受験なんだから、早く帰って勉強しないと。



私はマフラーを口元まで引っ張って顔の寒さを紛らわせた。



その時、通り過ぎたカー君の家の玄関の開く音が後ろでした。


ドキッとした。


カー君が出てきた?


それかおばさん……それとも……



「じゃあ、おじゃましましたー」



女の子の声。


振り返ると……カー君の家から出てきたのは加藤さんだった。


出てきたのは加藤さんだけで、他の誰もいなくて……つまり、加藤さんだけがカー君の家に遊びに来てたんだ。


姿は見えなかったけど……多分、カー君と一緒にいた……んだ。



こっちに向かって歩いてきた加藤さんは当然、私を見つけて、



「……」


「……」



嫌そうな顔で眉間にシワを寄せたけど、それは一瞬でニコッと私に笑った。



「菊池さん、偶然だね〜」


「……ですね」


「あ、そういえば夏月と家近いんだっけ?へ〜」


「……は……はい、まぁ」


「じゃね」



加藤さんはコートを着て上半身はカンペキな防寒だけど、アンバランスに短いスカートはセクシーに太ももを覗かせて、大きな歩幅で歩くから余計に目についた。



「あ……あの!!」



私の横を過ぎようとした加藤さんを思わず呼び止めた。



「か……カー君の家で何してたんですか?」


「は?」



スケベなカー君と大人っぽくてミニスカートでセクシーな加藤さん。


それに加藤さんは、前にカー君にキスしようって言ってたってカー君から聞いたし……。


もしかして……


私って幼なじみがいなくなって“せーせーした”から、加藤さんを彼女に……



「カー君?あ〜、カー君ね。はいはい、カー君」



加藤さんは私が呼んでるアダ名をバカにしたように繰り返してはやっぱり笑った。



「家が近いってだけで、別に彼女じゃないんだよね?」


「……あ、えっと」


「だったら、夏月の家で何してたかって聞かれる意味がわからないんだけど?」


「……はい」


「だから仮にさ、」



私のマフラーを軽く引っ張られて加藤さんの顔近くまで引き寄せられた。



「セックスしてても、別に菊池さんは何も文句もないよね?」


「……せっ!?」


「…………あんたは結局、夏月のこと好き?」


「……え」


「私は好きだよ、夏月のこと」


「……っ」


「だからアンタのことムカつく」



私のマフラーを離して加藤さんは「じゃ」とポケットに手を入れて白い息を横に流して、私から離れた。


私は振り返って、自分のマフラーを取った。


声の出すのに、少し邪魔だったから。



「加藤さん、あのっ」


「は?」



大きな声に少し先を歩いてた加藤さんも振り返って私を見つめて目を細めた。



「私は……」




私は……


私は……




『トーコ、見つけた』




カー君のぬくもりが……私は……



「付き合ってはいないんですが、私も……カー君のこと、好き!!………………です」


「……」



マフラー取ったことも意味ないぐらい顔真っ赤になった。


さっきまで叫んでいたのに急に勢いなくなって俯いてしまった。



「好きなんです……カー君が」


「……ふーん」



ひ……人に言ったのは、初めて。


ずっと一緒にいたカー君のことが、


遠回りな優しさを持つカー君のことが、私は大好きなんだ。


負けず嫌いだけど、だから勉強もバスケもちゃんと結果を残せていて尊敬もできる。


そんなカー君の傍で応援したい。


高校が一緒が無理でも、少しでも一緒にいたいって。


本当は私が受ける学校はカー君が受ける銀杏高校に近い……なんて理由も入っているんだ。


カー君のことが好き、ホントは。



「だから……関係ないけど……つい気になって加藤さんに聞いて……しまいました。……ごめん」



加藤さんはしばらく無言のあと、ちょっと笑って「あっそ」と答えた。


そして再び背を向けて歩いていく。



「あ……あの!!加藤さん!!」


「もうっ……今度は何?」


「あの、ここらへん暗くなると最近、チカンが出るらしくて、その……危ないから」


「だから?」


「だから……えっと……」


「は?何?」


「……カー君に家まで送ってもらったら?」


「……」


「……お願いしたら、多分カー君送ってくれるよ」



加藤さんは大きな溜め息を吐いたから白い息が生まれた。


そして少し笑った。



「菊池さん、やっぱりムカつく」


「え!?……ご……ごめんなさい」


「ま、でもさっきよりは嫌いじゃないわよ」


「ごめんなさ……え?あれ?」


「そんな気弱なお人好しだと、将来損するよ」


「え……えっと?……はい」



加藤さんはキレイな顔で微笑んで私に手を振った。



「まだ明るいから一人でも大丈夫。気遣ってくれてアリガト、じゃあね」



私も加藤さんのこと、キライじゃないなって思った。

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