チョコレート中毒には理由がある

幼なじみはビターでイジワル

幼なじみはビターでイジワル


中学三年生。


塾帰り。


暗がりの中、点々と丸く照らされている路地を歩き、深い深いため息。



受験……


それだけでユーウツな単語。


テンションが下がってる時は甘いものに限る。



それで気分を切り替えよう。


自分で自分を励ましてみる。


自分の家について、外の空気はガラリと暖かく変わりジンジンと刺さるように冷えたほっぺが溶けそうだった。


手袋とマフラーを着けたまま冷蔵庫を開けた。


するとお母さんに怒られた。



「こら藤子とうこ。先に制服着替えなさい!!」


「はーい、わかってます……って、あれ?冷蔵庫に入れてた私のおやつがない…」


「あー冷蔵庫にあったチョコレートならさっき夏月かづきくんが持っていったわよ?」


「……え?」



私は急いで自分の部屋に行ってトビラを開けた。



「カー君!!」


「トーコ、おせぇ。寄り道とか随分と偉くなったもんだな受験生?」


「寄り道してないもん!!それにカー君だって同じ受験生じゃない!!そして……」



私のベッドに寝転がって、くつろいでいるのは幼稚園の頃からの幼なじみ。



「なんで私のチョコ食べてるの!?そしてベッドの上ダメ!!お行儀悪いよ!!」



私は半泣きで訴えたのに、カー君は「あ?」と睨んできた。



「勉強しなきゃいけねぇのにおやつとか、贅沢すんなボケ」


「勉強の息抜きで食べたかったんだもん……私の楽しみが……」



私はその場でしゃがんで落ち込んだ。



カー君とは親同士が仲良くて、小さいときから一緒だけど……カー君は昔からずっとイジワルだ。



「なんだよ。お前の勉強見てやってんだから、これぐらいの授業料いいだろ。ケーチ!!」


「だからって私の確認も取らずに勝手に食べるなんて……ひどい」


「人をイジメっ子みたく言うなっつの」



ベッドから降りたカー君は自分のカバンから教科書やらノートを出した。



「ほら、始めんぞ?テスト対策」


「……はい、“先生”」



冬休みなんてあっという間だった。


『今日ぐらいはゆっくりしたら?』が許されていたお正月の三が日も一瞬で終わって、休み明けにすぐテスト。


貧乏ヒマなし……ならぬ、受験生ヒマなし。


部屋の真ん中のローテーブルに私達は頭を寄せ合った。



「ん……で?この前の塾の課題でわかんなかったってのドレ?」


「……このボルトと電流で……何でこの計算になるのかわからない」


「ん~、一回俺が解くからちょっと待って」



学校で勉強して、塾で勉強して、それでもよくわからないところをカー君が説明してくれる。


私の志望校は私立女子高で、本試験はいよいよ来月に迫っている。


一応、模試とかでは合格範囲内に収まってるっていうけど、やっぱりどことなく不安。


カー君の志望校は私にはとてもムリな、もう少し偏差値の高い進学校。


カー君の本命の志望校の受験は3月で私よりも少し遅めだけど……同じ受験生には変わりないし、カー君だって滑り止めの受験も来月なのに私の勉強も一緒に見てくれる。


……ますます敵わないなぁ。



いつものイジワルな顔つきと違って真面目な顔で問題を解いているカー君を黙って見つめた。



「カー君はスゴいなぁ」


「は?いきなり何?キモ」


「……う……何でもありません」



カー君は学校でもクラスの中心だし、ムードメーカーで……勉強だけじゃなくて、夏に引退した部活のバスケも上手かった。


でもそんなカー君がこうして私の部屋に来るのは……幼なじみだから。


ただそれだけ。


お母さん達同士が仲が良くてお母さんから頼まれたから勉強見てくれてるだけ。


カー君は小学校の時は名前の字面が可愛いとかいう理由でからかわれたりして、でもそれもカー君は暴力で黙らせる乱暴者で、ついでに私も八つ当たりでイジワルされたりして……。


でもその分、ずっと一緒にいて、いっぱい遊んだ気がする。


小テストもかけっこもテレビゲームも一番のライバルで一番の遊び相手だった。



……カー君と一緒に遊ばなくなったのはいつからだろう?



「よし、解けた!!トーコ、説明すんぞ」


「うん」



一番近くて、一番遠い。


そんな気がする。



イジワルな幼なじみ。


だけど小さい頃から一緒に居た大事な家族の一人。



でも最近『あれ?』ってなることが多い。


なんでかな?


一番最初に思ったのは、中学三年生の夏休みが始まる前の時。



志望校どうする~って話をしながらも友達と廊下を歩いた時、教室からたまたまクラスメイトの話が聞こえた。



『やっぱり夏月くんは銀杏高校でしょ?』


『バスケの推薦とかは?』


『いや、銀杏じゃね?こないだそれっぽいこと夏月言ってたような気がするし』



カー君の志望校が一体どこなのか。


ただのクラスメイトの雑談。


だけどその時、ハッとした。


銀杏高校を受けるかもしれない……カー君が。


隣にいた友達も私に言ったんだ。



『和田くんって確か藤子の近所で仲良しなんだよね』


『え…………いや、仲良しっていうか…小さい時から一緒だっただけっていうか』


『じゃあ和田くんに勉強教えてもらったらいいじゃん』


『……』



そうだよね。


だってカー君は頭が良い。


私とは成績が違う。


銀杏高校に行くかはわからないけど……少なくとも私が受験しても受からないような所を受けるんだよね。


志望校なんてカー君と話したことないからどこかはわからないけど。


でも高校は……多分一緒の所には行けない。



普通に考えたらわかるのに、そのことにビックリしたんだ。


カー君とは、この先ずっとは一緒にいれないっていうことに。


部活引退したあと、お母さんが「藤子と一緒に勉強してあげて?」って言ったから、こうしてまだカー君と一緒にいるけど……変な感じの「あれ?」って感じが消えることは無かった。

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