第38楽章 本番あとの舞台裏

本番が終わった直後の舞台裏ぶたいうら悲喜ひきこもごもになる。

上手くできたと満足気な顔になるもの、失敗してしまったと涙ぐむもの。


コンクールあとのよくある光景。正直なところ、泣かなくても、と神楽坂は思うのだが、一方でそれも青春だなぁと思う。自分たちが学生の頃もそうだったから。

一生のうちで高校生活はたった3年。そのうち、1年1年、1曲1曲がそれぞれの宝物になるのだから、自分自身が納得のいく演奏をしたいだろうし、今までこんなに頑張ってきたのに音を間違えたとか、思ったようにできなかったとか、そういう悔しさもあるのだろう。


神楽坂は常々、音楽は一期一会いちごいちえだと生徒たちに伝えていた。その時その時で出てくる音が変わる。場所やメンバーによっても変わってくる。それが合わさって1つの曲になる。だから、全く同じ演奏は二度とできない。同じにはなりようがないのだ。たとえ思ったような演奏にならなくても、それも味わいだと思っている。


コンクール本番だからといってもそのスタンスは変わらない。

今までたくさん練習してきたことを、そのままやればいい。いつも以上に上手くやろうとか、思わなくていい。間違えたらどうしようなどという余計よけいな心配も捨てよう。心配をしていると余計間違いやすくなる。いつもやっているように。いつも通りで、十分いい演奏ができるから、とにかく今日作る音楽を、今日できる音楽を楽しもう。何か起こったとしても、その1音だけで賞が変わるとは思わない。


泣いている生徒にも、楽しそうにしている生徒たちにも、神楽坂はえて声はかけない。こういう感情は自分自身で解決するしかないから。もしくは、生徒たち同士どうしで。

生徒たちが楽器を片付け、一通り落ち着いたところで、神楽坂は生徒たちをロビーに集める。

堂々と胸をろう。これが今の自分たちの演奏なんだ。下を向く必要はない。それぞれが最善さいぜんの演奏をした。結果は、他校との比較でしかない。どんな結果でも、そのまま受け止めよう。大事なことは、自分たちができることをやり切ったかどうか。もし、今日うまくいかなかったとしたら、それはそうみちびけなかった僕の責任だよ。

皆は最高の演奏だったから。最後は笑顔で終わろうな。


♪今日のワーク――――――――――――――♪

結果と経過けいか、どっちが大事だろう? 僕はいつも考えている。

経過けいか(そこまでの練習など)がなければ、結果はない。

スポーツで置きえてみよう。

どんな強豪きょうごうのチームでも、負けることはある。全ての試合に勝てるチームは、例えば高校野球なら1チームだけ。

僕は音楽は勝ち負けではないと思っているけれど、コンクールという場に立つからには他よりいい演奏がしたい、と思うのは当然だよね。

だけど、結果だけにこだわっていると大切なことを見失みうしってしまう気がしている。最初から、負けてもいいや、下手でもいいやって真剣に取り組まないのとはもちろん違うよ。

だけど、結果よりもそこまでどう練習したか、どう音楽と向き合ってきたか、その時間がとても大事な経験だと思うんだ。そうやって頑張ってきた結果、金賞が取れたり、全国大会に行けたりすれば、それは最高の思い出になるけれど、金賞じゃなくても、地区大会で落ちたとしても、それも最高の思い出であることに変わりはないんじゃないかな。高校生の部活って、そういうものでもいいんじゃないかな。

自分にとってより良い演奏をしようと努力すること、音楽をすること。それが結果的になんらかの結果につながる。それが「金賞」だったらいいね。そう思っています。

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