第2楽章 吹奏楽部

神楽坂かぐらざかが準備室で資料の整理をしていると、

「失礼します」

と声がして、二人の生徒が入ってきた。

「初めまして、神楽坂コーチ。吹奏楽部部長の来栖くるす莉音りおんです。こっちが副部長の久保山たつみ

ひかえめに部長の後ろに立っていたブレザー姿の男子生徒が、ペコリと頭を下げる。


「今日、吹奏楽部の部員と先生の顔合わせをしたいのですが、お時間よろしいでしょうか」

ああ、是非、と神楽坂が答えると、では1時半に音楽室で、と言って二人は出て行った。


3年生28名、2年生30名、男子生徒が32名で女子生徒が26名。

神楽坂が把握はあくできているのはその情報だけで、実際に生徒たちと話すのは今日が初だ。


少し緊張気味に教室に入ると、ザッと音がして全員立ち上がり、

「よろしくお願いします!」

と声をそろえた。


「楽にして」

と神楽坂は生徒たちを座らせ、僕は、と話し始める。


生徒たちのまっすぐな視線を感じながら、一通りの自己紹介をすると、少し間をおいて、


「僕はね、みんなに自分がなぜ音楽をするのか、その答えをこの1年で見つけてほしいと思っているんだよ」


と言った。


「勉強や受験との両立が大変だと感じることもあるだろう。友人関係、先輩後輩とうまくやれなくて、悩むこともあるかもしれない。それでも、なぜ音楽をやっているのか。内申ないしんのためか? コンクールで金賞をとるためか?

僕はね、音楽は生涯しょうがいをかけて続けられるものだと思っている。にもかかわらず、高校卒業したらやめてしまう人がなんと多いことか。それは、自分がなぜ音楽をやっているのかが分かっていないからじゃないかと思ってる。音楽は人生をいろどり、豊かにしてくれるものだ。だから君たちにも生涯続けられる音楽を見つけてほしい。そのための手助けは、僕はしまないつもりだよ」


その日は顔合わせということで、生徒たちの自己紹介や今後のスケジュールなどの確認をした。じゃあこれで、と神楽坂が席を立とうとするとまた全員が一斉いっせいに立ち上がる。

顔をくもらせた神楽坂が軽く手でせいしながら

「その挨拶あいさつ、僕にはやらなくていいから」

「でも神楽坂コーチ」

ざわついた部員たちの動揺を見て、部長の莉音りおんがさっと手を挙げる。

「この挨拶は静流せいりゅうの吹奏楽部の伝統で・・・」

「知っているよ。僕もここのOBだから」

「じゃあ尚更なおさら、なぜなんですか」

「逆に聞くが、この挨拶じゃなきゃいけない理由を考えてごらん。結論だけ教えてもらおうとするな。常に自分たちの行動に『なぜ』と問いかけるんだ。ひとまず今日はここまでだ。結論はいずれ聞こう」


―――――――――――――――


<今日のワーク>

伝統的に行われている行動の意味を考えてみよう!!

なぜそれをやっているのか?

メリットは? デメリットは?

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