大魔王(私)、黒歴史を清算します。

大魔王

第1話

これは大魔王が中二の時に書いた文章です。

生暖かい目で見守ってやってください……



カチャ

銃を構えて、彼は引き金に指をかけた。

「しずちゃん、僕は君を止めなくちゃいけないんだ」

彼の目つきが変わった。その目は鋭く光っている。

パンッ! 発砲音が鳴り響く。銃弾は一直線に彼女の方に向かっていく。

「うわあああ!」

彼は叫んだ。

ズシャッ!! 彼女は日本刀で銃弾を切り落としたのだ。

「うそだろ…………」

彼がそう言った瞬間だった。

「死ねえええええ!!」

彼女が叫びながら彼に斬りかかった_____________。

5年前.......

「おーい、しずちゃーーん!」

「のびくん、どうしちゃったの?」

「いやあ、今日も暑いなぁと思ってさ」

「もう夏だよ?当たり前じゃん!」

「そうだよね」

二人はいつも通り一緒に登校していた。しかし、突然の雨が降り始めた。

「急に降り出したよ!?」

「うん、早く行こうか」

二人は急いで学校に向かおうとする。すると、目の前からトラックが迫ってきた。

ドンッ!!! トラックが二人にぶつかった。のびのび田は気絶した。彼は薄れていく意識の中、しずが黒いスーツの男に連れ去れていくのを見た。

そして彼は思った。

「しずちゃん、僕を置いていかないでくれ……」

そこで目が覚めた。

「あれっ、ここはどこだろう」

周りを見渡すとそこは真っ白な部屋だった。正面に設置されているドアは鍵がかかっているようであった。窓もない。そして壁にはモニターがついている。

「目が覚めたかい?」

声の主の方を見るとそこには怪しい男が立っていた。男は黒いマントに身を包んでいる。

「あなたは誰ですか?」

「私は世界怪異破壊連合のリーダーだ。君には私の部下と戦ってもらう」

「戦うって何をするんですか?」

「今から君にはこの武器を使って戦ってもらう」

男はリモコンのようなものを取り出した。そのリモコンを操作すると画面に映っていた映像が変わった。そこに映し出されていたものは点滴を打たれ、鋼鉄の拘束具に体の自由を奪われたしずの姿であった。

「これはなんだ!?」

「これは私の部下たちの一人だ。この怪物を倒すことができれば君を解放しよう」

「もし負けたらどうなるんだ?」

「もちろん君の大切な人を殺す」

「ふざけるな!!」

彼は激怒した。怒りに任せて男に飛びかかる。しかし男はその攻撃をかわし、のびのび田に注射を打った。

ドクンッ!!! 心臓が高鳴った。

「ぐあっ!!!」

激しい痛みとともに体の中を何かが駆け巡るような感覚に襲われた。体が熱い。苦しい。彼はその場に倒れ込んだ。

「ハァハァ、なんでこんなことを……」

「君は私の仲間になる資格があるかどうか試させてもらったんだよ」

「仲間だと?」

「ああ、私の組織に入るなら君に特別な力を与えよう」

「そんなものに興味はない!俺はお前を許さないぞ」

「まあいい、そのうちわかるさ。ではまた会おう」

そう言うと男は消えてしまった。

「待て!」

彼は叫ぶが誰もいない。

「くそっ!一体どうすればいいんだ」

彼は頭を抱えた。すると、彼の頭に不思議な言葉が浮かんできた。

「覚醒せよ」

彼はその言葉をつぶやいた。その瞬間、彼の体に異変が起きた。全身が燃えているように熱くなり、目が赤く染まる。瞳孔が開いている。彼は自分の体をコントロールできなくなっていた。

「グオオオォォォ!!!」

彼は自らの殺戮欲求がコントロールできなくなっていくのを自覚した。そんな中、頭の中に浮かび上がってきたのは、「源しず」の顔だった。

「しずちゃん....そうだ!しずちゃんはどこに!!?」

彼はそう思い、あたりを見渡した。すると、部屋の隅っこにしずがいた。彼女は気を失っている。

「しずちゃん!大丈夫か!」

彼がそう言って近づこうとすると、しずは目を覚ました。彼女は血に飢えた表情をその可愛らしい顔面に浮かび上がらせた。「あはっ♡やっと目覚めたぁ」

そう言いながらゆっくりとのびのび田の方へ近づいてくる。

「うわああ!」

彼は恐怖を感じた。逃げようとするも体が動かない。

「逃さないよぉ」

しずはそう言った。

「やめろおお!!」

彼は叫んだ。

「やめないよお?だってぇ」

彼女は刀を抜いて彼の方を向いた。

「これから死ぬんだもんねぇ」

「うわああ!!」

「死ね!!」

彼女はそう叫びながら彼に向かって飛びかかった。しかし、彼女は途中で動きを止めて意識を失ってしまった。「えっ、なんで!?」

彼は戸惑ったが、すぐにその理由がわかった。それは、彼女が何者かによって気絶させられたからだ。

「誰だ!」

彼が叫ぶと、どこからか声が聞こえてきた。

「助けに来たよ」

そこには見覚えのある顔があった。

「ジャ、ジャイアソー!?どうしてここに!」

「話はあとだ。今はここから出ることを考えよう」

「でもどうやって?」

「こうやってだよ」

ジャイアソーは指を鳴らした。すると、壁の一部が開き、出口が現れた。

「行こう」

二人は部屋を出て、走り出した。しばらく走っていると大きな扉の前にたどり着いた。

「開かない、か。」

ジャイアソーはそういうと腕まくりをして、その肥大化した筋肉を露にした。そして、拳を握りしめるとそれを巨大な鉄の塊にぶつけた。

バキッ!! 鈍い音を立ててその扉は開いた。

「よし、行くぞ」

二人は長い廊下を走った。しばらく走ると階段を見つけた。二人とも疲れていたので、その階段を下りることにした。

「ここは……」

そこは地下牢のような場所だった。たくさんの人が収容されている。

「ひどいなこれは」

「うん」

すると、奥の方から話し声が聞こえてくる。

「おい!こっちに来客だぜ」

二人の男がニヤリと笑みを浮かべながらこちらに歩いてきた。

「お前ら、ここで何をしている?」

一人の男が低い声でそう言った。

「ジャ、ジャイアソー!こいつらは一体何なんだ!僕は今、何に巻き込まれているのさ!」

「すまないが、答えている暇はないようだな。」

そう言うと、彼らは襲いかかってきた。

「チッ!」

のびのび田は歯をギシギシを鳴らし、応戦した。しかし、相手の方が圧倒的に強かった。

「クソ!なんて強さだ!勝てないぞ!」

「落ち着け!俺に任せてくれ」

ジャイアソーは、懐から見たことないほどの太さを誇る注射器を取り出して、自らの腕に刺した。「ドーピング剤A-1010を注入しておいた。これで俺はもっと強くなることができる」

「じゃあ頼むよ!」

「任せろ!」

彼は、一瞬のうちに相手の男の目の前まで移動し、蹴り飛ばした。

「ぐあっ!」

男は壁に激突して動かなくなった。

「す、すごい……」

「次は君だ」

ジャイアソーがそう言って指を鳴らすと、もう一人の男が床から現れた鋼線で拘束された。

「うわっ」

「君の出番はこれからだ」

「え?」

のびのび田は、突然のことに驚愕していた。彼は今、無意識のうちに自らの腕で鋼線を敵の体に巻き付けていたのだ。

「なんだこれ!」

「落ち着いて、深呼吸をするんだ」

ジャイアソーにそう言われ、のびのび田は深く息を吸って吐いた。すると、自分の体から力が溢れ出てくるような感覚に陥った。

「よし、いい感じだな」

ジャイアソーがそう言うと、のびは拳に力を入れ始めた。

「しずちゃんをどこへやった!答えろ!さもないとこの鋼線を絞めて、お前を肉塊にしてやる!」

彼はそう言い放つと、鋼線を締め付けた。

「うっ……やめろ……」

敵は苦しそうな表情をした。

「やめろ、しずちゃんは、俺たちの知っているしずちゃんじゃないんだ!」

ジャイアソーはそう、のびに向かって叫んだ。

「うるさい!」

彼はさらに力を込めた。

「キミが眠っていた二年間で、しずちゃん、いや世界は変わってしまったんだ!」

「二年....だと.......」

彼はジャイアソーの方を見た。ジャイアソーにはかつての幼さの面影はあるものの、どこか、どこか彼の知っているジャイアソーとは違った雰囲気を感じた。

「ジャイアソー、本当なんだな。2年という月日が流れているというのは」

「ああ、そうだ。俺も最初は信じられなかった。だけど、彼女はもう昔の彼女ではない。世界怪異破壊連合の手先になっている」

彼は手を眺めてみた。それはひどくやせ細り、以前のものとは別物であった。

「ジャイアソー、僕たちはどうすれば良い?このままでは殺されてしまう」

「俺に考えがある」

「教えてくれ」

ジャイアソーはニヤリと笑うと言った。

「まずは、彼女の父親である源さんに会おう」

「わかった」

二人は再び走り出した。長い廊下を走り抜け、ついにその扉の前にたどり着いた。

「この扉は外につながってる。そして、我々反乱軍のヘリが迎えに来ているはずだ。」

「なるほど、ここから脱出できるわけだな」

「そういうこった。」

そのヘリコプターには、2人の男が乗っていた。一人はヘリの操縦をしており、もう一人は源しずの父親である源さんのようだった。

「あなたが、反乱軍のリーダーですか?」

ジャイアソーが聞いた。

「いかにも、私が源だ。乗れ、のびくん。」

彼はそう言うと、手招きをした。

「はい」

「よし、出発するぞ」

ヘリコプターは、勢いよく離陸した。

「ジャイアソー、一体しずちゃんは、この世界はどうなってしまったんだ!」のびのび田は、ジャイアソーに問いかけた。

「そうだな、簡単に説明するとこうだ」

そう言うと彼は話し始めた。

「今から2年前、お前が世界怪異破壊連合の手により拉致された日のことだ。中国のとある研究所から、人類を強制的に突然変異させる

ナノマシン薬が流出した。それは空気に乗り、自己増殖を繰り返して世界中に蔓延してしまった。

その結果、人々は超能力を得た。しかし、副作用として性格が大きく歪んでしまうというのだ。

例えば、怒りっぽくなったり、常に空腹感を感じてしまったり、人を食べたいという衝動に駆られたりするものもいる。

やがて能力者の暴走による犯罪の増加を危惧し、超能力者を抹消する組織が生まれた。

彼らは、世界怪異破壊連合と名乗り、世界中を混乱に陥れた。

実は、俺もその組織の一員だったんだ。しかし、ある程度の役職を手に入れて知ったんだ。俺たちの幼馴染、源しずが世界怪異破壊連合の手によって改造されてしまっていることに。俺は彼女を救いたいと思った。だが、その時はもう遅かったんだ」

「そして俺は、彼女の親父さんと反乱軍を結成した。彼女は今や殺人兵器として、世界を恐怖させている。だから、俺が必ず止めなければならないんだ。」

ジャイアソーの話を聞きながら、のびのび田は考えた。

「待ってくれ!どうしてしずちゃんが奴らに拉致されたんだ!しずちゃんじゃなくてもよかったんじゃないか!」

「確かに、そうだ。なぜしずちゃんが選ばれたのかはわからない。だが、おそらく彼女が源の血を引くものだったからだ。」

「源?源ってまさか!?」

「ああ、その源だ。平氏を破り、鎌倉に幕府を開いた源氏の末裔、それが彼女だ。」

「でも、どうして源氏の末裔だからって彼女が選ばれたんだ!」

「俺にも正確なことはわからねえ。ただ、とある説によると源氏はもともと、超能力。昔からの呼び方で言えば妖術や神通力を持っていたと言われている。

だから、その血が濃いものほど強力な能力者になることができる。

しかし、しずちゃんはその中でもさらに特別だ。

なぜなら彼女は源氏の最後の末裔であり、最強の力を持っているからだ。」

ジャイアソーがそう言うと、のびのび田は言った。

「そんな話、信じられない。だってしずちゃんは僕たちの知ってるしずちゃんなんだぜ!ジャイアソー、お前も見ただろう!あのしずちゃんを!」

「あぁ、確かに彼女は彼女のままだ。少なくとも見た目姿はな。だが、中身は違う。彼女はもう、我々の知っている源しずちゃんではないんだ。見たんだろ?彼女のあの殺意に満ちた顔を。」

ジャイアソーは悲しげな表情を浮かべた。

「くっ…………」

のびのび田はその言葉を聞いて、何も言えなくなってしまった。

ヘリコプターは、東京に向かって飛行していた。

「なぁ、ジャイアソー。君はなんで反乱なんて起こしたんだ?」

「そうだな、のびくん。俺には、どうしても許せないことがあるんだ。」

「それはなんだ?」

「それはな、俺の家族を奪った世界怪異破壊連合だ。俺の家族は、世界怪異破壊連合に殺された。」

「な、なんだよそれ!どういうことだよ!」

「そのままの意味さ。俺の家は、世界怪異破壊連合のテロ行為によって破壊された。俺はそのときちょうど学校にいた。そして、家に帰るとそこには瓦礫だけが残っていた。」

「そ、そんなことがあったのか」

「あぁ、俺の両親はその時に死んだ。」

「じゃ、じゃあ今は誰と一緒に暮らしているんだ?」

「一人暮らしだ。俺と一緒に拉致された妹も今はどこにいるのかもわからねえ。」

「そうだったのか」

「待てよ?その話はいろいろ矛盾している。どうして家族を殺した世界怪異破壊連合に所属したんだ?それに世界怪異破壊連合ができたのは超能力が生まれてから、つまり僕たちが拉致られた時には存在しないはずじゃないか!」

「後者の方は俺たちにもわからないんだ。すまない。そしてなぜ俺が世界怪異破壊連合に所属したか......それは家族を、ジャイコブを守るためだった。」

「というと?」

「奴らは俺の家を襲った後、強力な超能力を持った俺の妹を拉致し、しずと同じように性格を改造し、殺人兵器へ変えようとしたんだ。」

「ジャイコブちゃんを?ジャイコブちゃんはどうなったんだ!?」

「お前も見ただろう?俺の能力を、奴らは俺を即戦力にするためジャイコブを人質にし、無理やり従わせたんだ。

俺は、ジャイコブを救うために世界怪異破壊連合を所属する負えなかった。」

「そうだったのか、でもなぜ今になって世界怪異破壊連合を壊そうと思ったんだ?2年前はできなかったんだろう?」

「ああ、2年前の時点では、まだ奴らに対抗する手段がなかった。だが、今の俺は違う。俺は反乱軍の設立メンバーとして、仲間を集め、世界怪異破壊連合を壊滅させる準備をしていた。彼女の父親をリーダーとして、

反乱軍を結成したんだ。だが、時は遅かった。すでに、しずちゃんは奴らに洗脳されていた。俺が反乱軍の創設メンバーになった時はすでに手遅れだったんだ。」

ジャイアソーは悔しそうな顔をした。

「それで今日、ジャイアソーはしずちゃんを止めに来たってわけなのか。」

「察しがいいな。そういうことだ。」

「お二人とも、自己紹介は終わったかね?2年でまるで初対面のように変わってしまった。」

「反乱軍のリーダーの彼女のおやじさんだ。」

「はじめまして、のびのび田です。よろしくお願いします。」

「こちらこそ、娘が迷惑をかけたね。私は反乱軍の親玉をしている。昔から娘と仲良くしてもらっていたな。のびくん。」「いえ、とんでもないです。」

「ジャイアソーくんも久しぶりだね。」

「はい!おやっさん!」

「ジャイアソー、おやっさんって呼んでるのか。」

「まぁ、俺はこの人の弟子みたいなもんだからな。」

「弟子だと?ジャイアソー、お前は私より強いだろう。」

「いや、まだまだですよ。俺はもっと強くなりたいんです。」

「東京が見えてきました。」

操縦手はそういうと、ヘリコプターを着陸態勢へと移行させた。「よし、行くぞ。ジャイアソー。」

「はいっ!!」

ヘリコプターは無事着陸し、僕たちを空からその町へと引き戻させた。

東京は変わり果てていた。スカイツリーは半分に折られ、ビルが倒壊していた。東京タワーとレインボーブリッジも折れているようだった。

そんな更地となった切り株のビル群の真ん中に、1000mはあるだろうか、巨大なピラミッド状の建物が一つ、ぽつんと建っている。

「あれが反乱軍の本部だ。」

「我々はアジア州のほとんどを制圧した。だが、アメリカやオセアニア、アフリカ、ヨーロッパはいまだに世界怪異破壊連合が支配している。」

「ユーラシア大陸での優勢は保っているがそれもいつ崩壊するかわからん。」

「問題だらけだな。」

「とりあえず、本部へ急ぐぞ。」

ジャイアソーはそう言うと、ジェット機のような速さで走り出していた。「速い!!ジャイアソーの能力はこんなこともできるのか。」

のびは驚きながら言った。

「俺の能力は身体能力の爆発的な向上だからな。一時的ではあるが本気を出せばもっと速く走れる。」

「すごいな。」

「ああ、だがこの能力には制限がある。3分間しか持たないんだ。」

「3分か……短いけど十分だろ。」

「そう言ってもらえるとありがたいぜ。」

「のび、お前にも能力があるだろう?」

「僕の、能力?」

「そうだ。のびの能力が反乱軍の力になるんだ。」

「僕の……能力……」

彼は世界怪異破壊連合の施設でのことを思い出していた。手から鋼線を出し、敵に巻き付けたあの瞬間を。

そして、ジャイアソーが命懸けで守ってくれたことを。

彼は背中から鋼線を出していた。それは重なり合い布のように、鋼鉄の翼を生み出していた。

「行くよ、ジャイアソー!」

「おうよ!」

彼らは反乱軍の本部へと、その視線を向けた。

本部周辺は見るに堪えないありさまだった。建物は半壊し、地面はえぐれて大きな穴がいくつもあいていた。

「ひどいな……。」

「ああ、反乱が始まる前は綺麗だったんだ。」

「ジャイアソー、反乱軍に入る前は何をしていたんだ?」

「俺は、元々スラム街にいる能力者を抹殺する仕事をしていた。世界怪異破壊連合の命令でな。」

「あそこでの仕事は、忘れられない。毎日夢を見るんだ。女子供を殺戮して、スラム街の家々に火をつける俺の姿を。」

「ジャイアソーは悪くない。悪いのはそいつらなんだ。」

「ああ、わかってるさ。だけど、許せないんだ。妹のためと自分に言い聞かせて殺してきた俺自身が」

ピッ

「生体認証確認。ランクA以上の職員。おかえりなさいませ、ジャイアソー様。」

無機質な機械音声がそう唄った。

轟音とともに地面が沈み始める。

「なんだ!?」

「安心しろ、地下にある反乱軍の本部へ向かっているんだ」

「反乱軍の本部はあのでかい建物じゃないのか?」

「あんなのはったりだ。あんな敵に見つかりやすい建物をわざわざ本部にする必要はない。」

「それに、反乱軍の本部へはここから少し時間がかかるんだ。」

「じゃあ、この地面に沈んでいるのは一体なんなんだ。」

「エレベーターだよ。」

「なるほど、便利だな。」

「ああ。能力者の力によってここは建設されたんだ」

ピーンポーン

「はい。」

「ただいま到着いたしました。ジャイアソーです。」

「よろしい、で?のびのび田の回収は」

「はい。完了しております。」

「そこにいるのが、のびくんか?」「はい。彼がのびのび田です。」

「ふむ、では反乱軍に入ってもらうか。」

「ちょっと待ってくれ。」

「どうしたのびのび田?」

「反乱軍に入って、僕は本当に君たちの力になれるのか?正直不安しかない。」

「大丈夫だ。お前はもう俺たちの仲間なんだ。」

「そうか……ありがとう」

「話はまとまったようだな。それでは、早速任務についてもらうぞ。」

その時だった。

ジリジリジリジリ、と警報が耳を刺した。

「な、なんだこれは!?」

「安心しろ、いつものことだ。」

「ランクB以上の能力者が旧神戸市で目撃されたり!至急、戦闘員は旧神戸市へ向かい、能力者を破壊しろ!!」

「ジャイアソー、行こう!」

「ああ、行くぜのび!」

「まて、のびくんはここで待っておけ。」「なぜですか?」

「まだ君は反乱軍に入ったばかり、ここの戦力ではないんだ。」

「でも……」

「いいから待っていろ。」

「...」

「ジャイアソー、君は至急、基地にある宇宙巡洋艦彼浜に乗り込み、最短軌道で旧神戸市へ向かえ。」

「ああ、すぐ戻る」

「のびのび田はこちらで待機してもらう。」

「はい……」

ピシューンッ ジャイアソーは消えてしまった。

「ジャイアソー……必ず生きて帰ってこいよ……」

「のびくん、これから反乱軍の説明をする。」

「はい。」

「まず、反乱軍の目的は世界怪異破壊連合を破壊することにある。そのためには奴らの支部を潰す必要がある。」

「どうやってやるんですか?」

「私たち反乱軍のメンバーは皆、超能力者だ。そしてその能力は戦闘に特化している。だから私たちは戦いで、戦うんだ。」

「具体的にはどんな感じの戦いになるんですか?」

「敵が攻めてきた時、我々反乱軍は拠点を守る。その間に、敵が攻めてくる。我々は敵の攻撃を避けながら応戦する。」

「なるほど。」

「反乱軍の拠点は、世界中にある。つまり、世界各地に敵がいるというわけだ。」

「なにか質問はあるかね?」

「いえ、特にありません。」

「そうか、では説明はこれくらいにして、次は君の話を聞かせてくれ」

「僕の、ですか?」

「ああ、君のことをもっと知りたい。君の能力を教えてくれないか」

「わかりました。僕の能力は、鋼線を出し、自在に操ることです。」

「なるほど、じゃあ、実際に見せてもらえるか?」

「はい、分かりました。」

ジャラッ

「うわっすごい数だな。」

「これが今の僕が出せる限界です。」

「よし、わかった。とりあえず、のびくんの能力については大体把握できた。」

「さて、のびくん、君に聞きたいことがあるのだが」

「なんでしょう?」

「君は反乱軍に入る前は何をしていたんだね?」

「僕は……普通の人間でした。ごく普通の生活を送っていました。」

「そうか……。君も、幸せを奪われた一人なのかね……。」

「え?どういうことですか?」

「のびくん、今から話すことは真実だ。落ち着いて聞いてくれ。」

「はい。」

「のびくんの家族のことだ。」

「家族がどうかしたんですか?」

「実は、君の家族は世界怪異破壊連合によって消されたんだ。」

「そんなバカな!ありえない!」

「事実だ。」

「嘘だ!!僕は信じないぞ!!」

「落ち着けのびくん。消された、と言っても殺されたわけじゃない。」

「そうなんですか?」

「ああ、そうだ。君の家族は世界怪異破壊連合の実験台となったのだ。」

「実験台?」

「ああ、人工的に能力を合成する研究....君もみなかったか?君が閉じ込められていた施設に牢獄のような場所があっただろう。」

「たしかにありましたけど……」

「あれは世界怪異破壊連合が実験のために拉致した人々を

閉じ込めていたところなのだ。」

「どうして、そんなことを……」

「理由はわからないさ。だが、人体実験の被験者の中には子供もいたらしい。」

「奴ら、人の心を持っていないのか!!」

「ああ、その通りだ。」

「のびくん、私は君の家族を殺した世界怪異破壊連合を許さない。だから、私と一緒に戦ってくれないか?」

「もちろんですよ。」

「ありがとう。のびくん。」

「そういえば、ジャイアソーはどうなったんだろうか」

「彼は強い。幼馴染の君なら、わかるだろう?心配なのか?」

「はい……あいつは昔から、正義感が強いやつでして」

「ジャイアソーは大丈夫だよ。きっと帰ってくる。それに、もし彼が死んでしまったとしても彼の死は決して無駄にはならない。」

「そうですね。ジャイアソーは大切な仲間ですからね。」

「ああ」

電話が鳴った。プルルルルッ ガチャッ

「本部長、緊急事態です。旧神戸市に現れた能力者ですが、どうやら「源しず」

だったようです。」

「なに!?それは本当か?」

「はい、目撃者が多数います。」

「ジャイアソーでは彼女に敵わない。やはり、反乱軍の出番だ。今すぐこの基地のすべての兵力を上げ、源しずを抹殺しろ!」

「そ、それが....世界怪異破壊連合の電磁パルス攻撃を受けているようで、主力の宇宙巡洋艦及びその他宇宙船が使用不能になっています。」

「なんだと?通信はまだつながっているのか?至急、周辺基地の反乱軍に連絡を入れろ。援軍を送るように頼んでくれ。」

「連絡できません!旧神戸市付近の基地、全滅した模様です!ん?待ってください。一つ、電波を発しているポイントがあります。こ、これは!ジャイアソーS級職員です!

ジャイアソーが電波を発信しています!」

「ジャイアソーだと?」

「ジャイアソー、応答せよ。ジャイアソー、聞こえるか?」

「ああ、聞こえてるぜ。」

「ジャイアソー、無事なのか?」

「ああ、なんとかな。」

「今、どこにいるんだ?」

「エリア4569だ。」

「そ、そこは!日本奪還作戦時に激しい核攻撃にさらされ、今も立ち入り禁止のエリアじゃないか!大丈夫なのか!」

「俺の能力は身体能力を全体的に上げる....。それは放射能耐性も同じです!」

「我々の兵士はそこへ足を踏み入れることはできない!逃げろ!ジャイアソー!」

「すみません本部長。すこし、無茶させてください。あいつは、幼馴染の俺が止めなきゃいけないんです!」

「ダメだ、ジャイアソー死ぬ気か?」

「ジャイアソーの通信、途絶えました!自ら電源を切ったのだと推測されます!」

「くっ、我々は、何もできないというのかね……」

「ジャイアソー、お前まさか……しずを殺すつもりじゃないだろうな……?」

「ジャイアソー、応答してくれ!頼む!!」


ジリジリジリジリ_______

ジャイアソーの戦闘スーツに付属された放射線測定器がうなり声を上げる。

「しずちゃん、俺は君を殺さなくてはいけない」

ジャイアソーは今にも飛び出しそうになっていた。

「ジャイアソーさん。変わったわね。昔はあんなに傲慢だったのに、今はただ、まっすぐで純粋な目、純粋な殺意に満ちた目をしている。」

ジャイアソーと源しずはお互いに見つめ合っていた。

「二年も経ったんだ。君は、少しは大人になったかい?」

「ええ、あなたたちのおかげで私は強くなった。」

「そうか、なら、もう手加減はできないね。」

「ジャイアソー、あなたの方こそ覚悟はいいかしら?」

「ああ」

「行くぞ」

ジャイアソーは、ポケットからおもむろに注射器を取り出した。

「まだ開発途中のステロイド剤、C-986JAI-UNだ。3分間身体能力を爆発的に向上させる。その副作用として、効果が切れると死んでしまうんだがな。」

ジャイアソーは、薬を注入した。

血管が浮かび上がり、筋肉は肥大化する。血流の流れが速くなっていくのを感じた。

「いくぜぇ!!!」

ジャイアソーは一瞬にして源しずに近づき、パンチを繰り出した。

その瞬間、辺りの空気が爆風のように吹き飛び、真空のようにありとあらゆる音がその場所から消えた。しかし、ジャイアソーの攻撃は源しずの拳によっていとも簡単に止められていた。

(腕の細さからは出力できないはずのパワーだ。しずちゃんの能力はパワー系なのか?それとも.....)

先ほどの衝撃によって生み出されたクレーターの外側へ移動する途中、彼は世界怪異破壊連合によって殺された、家族のことを考えていた。

たったコンマ秒に器用に敷き詰められた憎しみや怒りを必死に抑え込みながら、ジャイアソーは叫んだ。

「3分間しか持たない!早く始末しなくては!」

ジャイアソーは、再び源しずへ攻撃を仕掛ける。

ジャイアソーの攻撃を源しずは余裕を持って避け、カウンターを繰り出す。ジャイアソーは、それをまともに食らい、吹き飛ぶ。

ジャイアソーは瓦礫に叩きつけられ、意識を失ったが、 すぐに起き上がった。

「なぜよ!?どうして、効かない!」

ジャイアソーは再び立ち上がる。

「このステロイド剤はなぁ、時間がたつにつれ効果が強くなるんだ!、まだまだ30秒だぞ!ここからが本番だ!俺は死ぬかもしれないが、お前を倒すまで倒れるわけにはいかないんだよ!」

ジャイアソーはドーピングの影響で顔色が真っ青になり、体中から汗が流れ出していた。

「ジャイアソーさん、あなたは間違っている。私の命を狙う理由がわからない。私を恨む理由はあるけど、あなたが私を倒せるわけがないじゃない。」

「俺がお前に勝てないだと?ふざけるな!俺は、お前を止めるために、ここに来たんだ。」

ジャイアソーは、再び攻撃を始めた。

ジャイアソーは、源しずの顔面を殴りつけようとするが、源しずはひらりとかわす。そして、ジャイアソーの脇腹に強烈な蹴りを入れた。

「ぐはっ、」

ジャイアソーは、膝をついた。

「もう諦めなさい。あなたじゃ無理よ。」

ジャイアソーは、立ち上がり、またもや源しずに殴りかかる。

「1分30秒!まだまだ半分の力だぞ!しずちゃん!!」

「速い...!」

その一撃は、しずの腕を吹き飛ばすのに十分のパワーを秘めていた。

「なかなかやるのね。」

源しずは、ジャイアソーに向き直る。

「だけど、それじゃあ私には敵わないわね。」

彼女は腕に力を入れ始めた。すると、それまで洪水のようにあふれていた血液は吹き出すのをやめ、彼女の腕はみるみるうちに再生してしまった。「これが、世界怪異破壊連合が開発した人工超回復能力。」

ジャイアソーは、その光景を見て絶望的な表情を浮かべた。

「そんな、バカな……」

ジャイアソーは、その場に倒れてしまった。

「ジャイアソーさん?」

幻覚だろうか、目の前に小学生くらいの女の子が立っていた。

「ジャイコブ、久しぶりだな。お前も、もうそっちに行ってたのか。」

「うん、お兄ちゃん頑張ってくれてたのに、ごめんね。全部見てたよ。だから、もう、肩の力を抜いて...。」

「ああ、これでまたお前とセミシチューが食えるな」

「ジャイアソー!生きろ!」

「のび!どうしてここに!」

「ジャイアソー、君がどうして世界怪異破壊連合を憎むようになったか、もう一度思い出すんだ!」

「俺が、世界怪異破壊連合を憎んでいる理由?」

ジャイアソーは、昔のことを思い出しながら言った。

「俺たちの両親は世界怪異破壊連合によって殺された。両親だけじゃない、妹だってそうだった。

あいつらは、俺たちから大切なものを奪ったんだ。

俺は、復讐してやる。

彼はポケットから注射器を一本取りだした。

「すまないジャイコブ。まだすこし、やることが残ってるみたいだ。」

彼はそういうと、注射器の針を刺した。

「C-986JAI-UN-Zだ!C-986JAI-UNの効果を伸ばすことができるが、あまりにも激しい苦痛を伴うため、使用を禁止されている。だが、これを使えば、一時的にだが、しずちゃんを倒せるほどの力を手に入れることが出来る。」

「無駄な足掻きね」

源しずは、ジャイアソーに向かって走り出した。

「これで、終わりよ。」

彼女の拳が、ジャイアソーの顔面に当たる。瞬く間に辺りの景色が変わっていく。そこには約300mものクレーターが出来上がった。

「やったかしら……?」

源しずはジャイアソーが立っていた場所を見た。

空気の断熱圧縮によって発生した炎が煙を立て燻る。彼女はその煙を払おうとした。が。

「俺はまだ終わっちゃいないぜ」

「何ですって!?」

「この薬を使ったとしても、あと2分間しか戦うことは出来ない。

だが、それでもお前を倒すことは出来る!」

ジャイアソーの姿が消える。と同時に、しずは背後から殴られる強い衝撃を感じた。「うっ……」

「はぁはぁ、どうだい?これが、俺の本気さ。」

ジャイアソーは、自分の体に異変を感じていた。

「ははは、なんだこれは?体が熱い!まるで、炎に焼かれているようだ!でも、不思議と痛みはない。むしろ心地よい。」

ジャイアソーは、自身の体の熱がどんどん上がっていくのを感じながらも、それを心地よく感じていた。

「お兄ちゃん、頑張って。これが私たちができる、せめてもの応援だから」

「ありがとうジャイコブ。

そうだ、ここで、俺が世界怪異破壊連合を、しずちゃんを倒せば、お前たちは自由になれるんだよな。」

ジャイアソーは拳を強く握りしめた。

「俺はは、負けない。絶対にしずちゃんを倒してみせる!」

「これがまだまだ強く成り続けるなんて、さすがの私でも厄介ね。"奥の手"を使わせてもらうわ。」

彼女は地面に拳を上げた。そして肩甲骨を巧みに使い、その状態から地面を思いっきり殴った。

「何をしたんだ!」

轟音とともに地面が沈み始めた。

「地盤沈下よ。名前くらい聞いたことがあるでしょう?ここの地盤は脆いって知ってたからね。いくらあなたでも、足場がなければ即死でしょ?」

「どうだかな。」

「何ィ!?」

ジャイアソーは空気を蹴り上げ、その反動で宙に浮かんだ。「俺が、ただ闇雲に戦っていたと思うのか?」

「まさか!」

ジャイアソーの足元には、巨大なコンクリート塊があった。彼はそれを踏み台にして、更に高く飛び上がった。

「俺は、何も考えずに戦っていたわけじゃない。

俺は、ずっと考えていたんだ。なぜ世界怪異破壊連合がここまでの力を手に入れたのかを。

その結果、分かったことがあった。

それは、奴らが俺たちのような能力者を狩ることで、大量の能力者を殺してきたということだ! そんな奴らを、このまま放っておく訳にはいかない! だから、今ここで、しずちゃんを倒して見せる!」

ジャイアソーはしずちゃんに抱き着いた。

「何をするの!」

「俺の超能力にはもう一つ使い道が合ってだな。俺はこの能力を使う上で膨大な肉体エネルギーを調整する訓練をしたんだ。2年もかかっちまった。だけど、その訓練のおかげで、自らのエネルギーの使い方を覚えたんだ!今から俺は、エネルギーを心臓に集め、一気に拡散させて自爆する。お前を道連れにしてやる。」

「待たせたな、ジャイコブ....。」

「これで、終わりだ。」

ジャイアソーは爆発した。旧神戸市は完全なクレーターとなった。日本地図どころか世界地図を書き直す必要のあるそのクレーターは後の世代に"空地"と呼ばれ、それを崇拝されるようにまでなる。

この大規模な爆発では、"いつもの"しずならひとたまりもなかっただろう。だが...。

ガタッ 

彼女は瓦礫を払い、クレーターの底から空を見上げた。

「深い、わね」

「ジャイアソーが残した注射器に残っていた薬品を注射しておいてよかったわ。注射器をそのまま捨てて戦うなんて馬鹿な男。」

「でも完全な回復には数日かかるわね。」

「...帰るしかないみたい...ね_________。」


ジリジリジリジリ

基地の中では、未だ警報が鳴りやんでいなかった。

「ジャイアソーS4職員の生体信号、途絶!」

「おい、ジャイアソー、嘘、だろ!?嘘だと言ってくれ!!」

「のび田君!落ち着きたまえ!」

「これが落ち着いてられるかよ!」

「ジャイアソーの爆発によって、旧神戸市の地盤が崩落しました!」

「ジャイアソーの捜索隊をすぐに向かわせるんだ!」

「もう、手遅れですよ……」

「えっ……」

「ジャイアソーの爆発による地盤の崩落は、旧神戸市全域に及んでいます。生存者はゼロ。衛星写真にジャイアソーの死体は見つかってませんが、おそらく死んだものと思われます。」

「ジャイアソー……」

のびのび田は膝から崩れ落ちた。

「ジャイアソー、ジャイアソー、ジャイアソォーッ!」

彼の悲痛な叫びは誰にも届かなかった。

「ジャイアソーの件は残念だったが、我々の任務は変わらない。世界怪異破壊連合反乱軍を潰すのだ。」

「しかし、あの大爆発で旧神戸市は壊滅状態です。もともと放射線量は30秒浴びれば即死レベルでした。これ以上の調査は不可能でしょう。」

「そうか、ならば仕方ない。ジャイアソーの死を無駄にしてはいけない。我々は我々で行動しようではないか。」

「どうしてそんなに落ち着いていられるんすか! ジャイアソーは俺たちの仲間だったんですよ!仲間が死んだっていうのに!」

「落ち着け、のびのび田。

私だって辛い。しかし、私たちが動かねば、世界怪異破壊連合反乱軍は倒せない。

ジャイアソーの犠牲を、決して無駄にしてはならない。」

「のびのび田、君はジャイアソーとは長い付き合いだったそうだな。ジャイアソーのことを教えてくれないか?」

「分かりました……。

俺とあいつは小学校からの幼馴染で、よく遊んだものです。

中学生になってジャイアソーは陸上部に入り、俺は帰宅部になりましたけど、その後も一緒に遊ぶことはありました。

高校も同じところに入学し、同じ部活に入って、また同じように遊びました。

ジャイアソーは短距離走の選手でした。

ジャイアソーの脚力は常人のそれではなく、100m走では10秒を切るほどで、オリンピック選手にも引けを取らないとまで言われていました。

100mを10秒で走ると聞けば誰もが驚くと思いますが、実はジャイアソーはそれ以上のスピードを出すことができます。」

「あいつは、いいやつだったか?」

「はい、もちろんです。友達思いで、人一倍正義感の強いやつでしたから。」

「ありがとう。世界怪異破壊連合は、またしても我らから大切な、かけがえのないものを奪っていった。必ず、復讐してやる。」

「...本部長?」

「私も、涙もろくなったな」

彼の瞳から、たった一滴の雫がこぼれた。


大西洋独特の、乾燥した空気が肌を撫でる。「寒いなぁ……」

船のエンジン音が鳴り響く。ガスタービンエンジン独特の高音を聞きすぎたせいか、彼の耳の奥底にこべりついて離れなくなってしまったようだ。

空調が効いたOIC室の中心で、のびは長距離通信機を眺めていた。『本部より各員へ。』

『本日2200時に、西ヨーロッパ世界怪異破壊連合基地上陸作戦を遂行する。それまで各自準備をして待機するように。』

「ついに、始まるのか。」

「ジャイアソーを殺した世界怪異破壊連合反乱軍を、絶対に許さない」

通信機から音声が流れ始めた。

「本部長、準備は整っております。」

『うむ、ご苦労。ではこれより作戦名オペレーション・ザ・ライトワールドを発動する。』

「海岸線まであと11キロ、あと数分で到着する予定です。」

『よし、上陸部隊はいつでも攻撃できる態勢を整えろ。』

「了解しました。」

ピピピピピピピピ

あの時とは違う、警報音が船を駆け巡った。

「短距離レーダーが高速で接近する正体不明の物体を検知!おそらく対艦短距離小型戦術核ミサイルと思われます!」

「撃ち落とせ!対空系能力者は船のデッキへ向かい、即時迎撃態勢をとれ!その他のものは上陸体制を保持せよ!」

「のび、お前はどうする?」

「俺はここで戦います。ジャイアソーとの約束を果たすためにも。」

「分かった。」

「船の指令は加藤A級職員へ移行!僕はミサイルの迎撃へ向かう!銃と剣、それと護衛を2名用意しろ!」

「はい、かしこまりました。」

「行くぞ、世界を守りに行くんだ。」

デッキは風が直接肌に当たり、今にも凍えてしまいそうな寒さだった。

「のびS級職員へ伝達、来ます!」

彼は腕から何百もの鋼線を出し、器用に網目状へと変形させた。と、同時にそれまでこちらへ高速で移動していたミサイルが、粉々に砕け散ってしまった。

「すごい……これがS級職員の能力か……」

「ああ、なんて美しいんだ……!」

「のびS級職員、もう一つ、レーダーが飛翔物を検知した模様です。」

「またミサイルか?」

「いえ、それが......」

「人間、のようです。」

「なんだって!?」

「船へ向かってきています。」

「くそっ、一体何者だ?まさか、世界怪異破壊連合の能力者なのか……?」

「だが早すぎる...まさか、この上陸作戦の情報が漏洩していたのか!?」

「とにかく、急いで迎え撃つしかない。」

「のびS級職員、レーダーに映っていた飛翔物、突如レーダーの範囲から消えました!」

「レーダーの故障だったのか?」

「わかりません、もしかしたら...うわああぁぁ!」

「おい、どうした!応答してくれ!」

「ズバルところ、君たちは無能でございましょう!」

「誰だ、お前は。」

「私は、魔瑠麻(まるお)と申します。ズバルところ、あなたたちの憎き敵、世界怪異破壊連合の四天王の一人でございましょう!」

「四天王だと……?魔瑠麻と言ったな、貴様は俺たちの連合反乱軍を潰すつもりか!」

「ズバルところ、その通りでございます。」

「ふざけるな、俺の仲間に手を出すなら容赦はしない!」

彼はとっさに鋼線を出した。そして、その鋼線を振り下ろそうとした。

「右、左、初めに足を狙って、それから体ですか...。」

彼は手を止めた。

「おや、どうなさったのでしょうか。」

「ズバルところ、自分の動きが正確に読まれ、驚いている。というところでしょうか。」

「なぜ、わかった。」

「簡単なことでございましょう。あなたの思考が手に取るようにわかるのです。」

「そんなことありえないだろう。」

「私の能力の力...だと言ってもですか?」

「なんの能力だって言うんだ。」

「ズバルところ、私には未来予知ができる能力があるのです。」

「未来予知だと……?」

「そうでございます。」

「未来が見える能力なんて聞いたことがない。」

「誰にも能力は予測できない。当然の道理です。」

「それにしてもおかしいだろ、どうして自分の能力をわざわざ教える。」

「それはですね、ズバルところ、あなたに勝ち目はないからでございます。」

「何言ってんだよ、俺は負けない。絶対にな。」

「何言ってんだよ、俺は負けない。絶対に.....」

「えっ」

「私はあなたが次の瞬間何を言うか、どういう動作で私を攻撃するか、すべてが分かる。」

「だから、もう終わりでございますよ。」

「じゃあ、試してみるか?」

「いいでしょう。」

「まずは、こうだ!」

のびのび田は彼の首元に剣を突きつけた。

「どこを狙っているのですか」

魔瑠麻は攻撃が始まる前からすでにのびの剣撃をよけ、さらにのびの剣をクナイで叩き折った。

「それでは、次は私の番でございますね。」

「ズバルところ、君の未来は見えた。君は僕を倒せない!」

魔瑠麻は懐から暗器を取り出した。

「さて、この暗器でどのように殺して欲しいのでございましょう。」

「そうだな、お前が持っている暗器で一番厄介なのは鎖鎌だ。」

「ほう、そこまでお見通しでございましたか。」

「ああ、お前が今使っている暗器はおそらく、鎖鎌の暗器バージョンの武器だろう。」

「そのとおりでございます。よく分かりましたね。」

「ですが....」

のびは胸に吹き矢のようなものが刺さっていることに気が付いた。「なんだこれは……。」

「吹き矢でございます。」

「くそっ、いつの間に。」

「私が意味もなくわざわざこの暗器を見せびらかした、とでも?」

「ズバルところ、あなた方はバカなのでございましょう。私の能力を使わずとも、単純な計算で予測がつきます。」

「なるほど。鎖鎌で僕の注意を反らしたのか」

「そして、私からの忠告でございますが、私の能力が分かったところで何も変わりません。なぜなら、あなたの攻撃はすべて予測済みでございます。」

「ズバルところ、死ね!」

彼は鋼線を操り、魔瑠麻を攻撃した。しかし……「はい、これでゲームオーバーでございますね。」

魔瑠麻は暗器を使って攻撃を跳ね返し、のびのび田の首筋に暗器を当てた。

「ズバルところ、あなたの命はここで終了でございますね。」

「ふ、ふはははは」

「なにがおかしいのでございますか? 恐怖で頭がおかしくなりましたかな?」

「見えていないのだな、お前の死ぬ瞬間が」「何を言っているのでございますか。あなたはもう死にました。」

「どうかな...」

「っ!まさか!?そんなはずは!」

「どうやら"見えた"ようだな。」

「この私がまけるなど、ありえない!」

「諦めな、これ以上動いたら、このデッキの周りに張り巡らせた鋼線を引いて、お前をサイコロステーキにしてやる」

「なに、考えれば単純な話だ。未来が見えると言っても、ある程度の制限があるんだろ?」

「それがどうした!」

「未来予知できる範囲はせいぜい、5秒程度ってことだ。」

「なぜそれを。」

「簡単だよ。もしお前の能力に制限がないのなら、わざわざ俺の攻撃をすれすれでよけたりしない。それに……」

「そういえば、お前はさっき自分で言っていたな。『計算で予測がつく』と。つまり、お前は自分の未来が見えない。」

「だから、自分の攻撃が当たるギリギリまで避けなかった。違うか?」

「ありえない!ありえない!ありえるわけない!」

「アリーデヴェルチだ」

グシャァァァ

バタッ、ボト、ボトッ...

魔瑠麻の肉片が、デッキに飛び散った。

「残念だったな。未来が分かっていても避けられなければ無意味なんだよ。」

魔瑠麻は死んだ。

船が沈み始める...。

「生き残りは...いない、か」

「ザザッ...ザザザッ、ノビ、聞こえるか、ザザッ、聞こえるかのびくん。」

彼は先の戦闘によってボロボロになった通信機を手に取った。

「聞こえています。本部長。」

「そちらとの通信が途絶えていた。何があった?」

「世界怪異破壊連合の四天王の一人が、船に攻撃。我が艦は大破しました。もう少しで沈没します。」

「なんということだ……。この計画が破綻してしまう...。」

「いえ、計画は続行します。」

「どういうことかね?」

「私一人で世界怪異破壊連合軍本部へ奇襲を仕掛けます。」

「それは無謀だ。勝算はあるのか。」

「わかりません。でも、ジャイアソーの死を無駄にしないためにも、俺は行かなければならない。」

「ダメだ、と言っても聞かないんだろう?行け、全責任は私がとる。」

「ありがとうございます。」

「ただし、君にはもう一つ任務を与えよう。その任務を成功させて戻ってこい。いいな。」

「了解です、本部長。必ず生きて帰ってきます。」

彼は鋼鉄の翼を背中に芽生えさせると、沈みゆく船の先端から、飛び立った。

その隣に、もうジャイアソーはいない。

「のび、しずちゃんを救ってやってくれ!」

「わかってるよ、ジャイアソー。」

彼はそう言うと、稲妻の如くノルマンディーの砂浜へと向かった。

「彼は稲妻だ。世界を救う光を天にともして消えゆく、稲妻の出撃なのだ...。」


パキッ

氷が鳴る。

パリの一角に位置するカフェで、彼女はメロンソーダアイス大盛りを飲んでいた。

「ん、美味しいわね……」

ジャイアソーとの戦いから10日が経った。

「もう傷は全快したようね。」

ドアの開閉音とともに、不快なまでに甲高い声が、しずの耳をついた。

「世界怪異破壊連合四天王がなんの用よ?」

「あらら~、つれないわね。あたしゃ御邪魔蟲かい?まぁ、それでも構わないけど。」

「それで、要件は何よ。」

「そんなに怖い顔しないでよ。あんまり余興は好きじゃないのね。」

「早く言いなさい。」

「うふっ、まぁいいわ。うちの千里眼系の能力者が見つけたんだけどね、今日この時間に、どうやら反乱軍がうちの西ヨーロッパ支部をつぶしに上陸しようとしてるみたい。魔瑠麻たちが向かったけど、おそらく全滅するでしょうね。」

「つまり、私は反乱軍を潰せば良いわけね。」

「まだボスからの指令がないから何とも言えないけど、まあそういうこと♪勝手に行動してもダメだけどね♪その時は...」

ガタッ

彼女は椅子を背中へ追いやると、一瞬にして姿を消してしまった。

「まったく、可愛げのない子ね............。」

「えっーと、これはあたしのおごりなのかね?まったく、四天王で最弱だとか言われてるし、小学生でも苦労するよね。」

電話が鳴った。

ピロリロリン!

「はい、もしもし、こちら血弥魔羅子(ちび・まるこ)、どうしたの?」

「至急、本部四天王の座へと向かってくれ。」

「ボス?どうしたの、急に。」

「至急向かえ。」

ガチャ ピーピーピー

「ボスも人がわるいねぇ。電話くらいちゃんと切れないのかね。」

「それじゃあちょっくら行きますかねぇ。」

ササッ

彼女の姿はカフェのどこにも見えなくなってしまった。

「あ、お会計...」

チャリン

「...あのお客さんどこいっちゃたのかしら?」

「お金と...お人形?」


「それでボス、なんであたしを呼び出したのよ。」

「じきに、ほかの四天王も来るだろう。それと、貴様に言わなくてはいけないことがある。」

その席には黒スーツで顔を隠した男が一人、玉座の間に腰かけていた。

「はぁ、なによ?」

「実は、魔瑠麻が死んだ。」

「は?だから何?私に何か関係あるの?」

「……魔瑠麻は、反乱軍との戦闘中に、何者かによって殺された。」

「そんなの知ってるわよ。あんたが四天王の席を空けるために、反乱軍のもとへ向かわせたんでしょ?」

「口を慎め、血弥魔羅子。ボスの御前であるぞ」

「あら、いつも間にきていたのかしら?堀川薫(ほりかわ・くん)。」

「あーあーあーあー。ギャーギャーぎゃーぎゃーうるせえな。俺はねみいっての。」

「........」

「そろったようだな。血弥魔羅子には既に話したが、魔瑠麻が死んだ。」

「だからって俺を呼び出したのか?また眠らせてもらうぞ。俺は。」

「おいカツオ、ボスの前で寝るなよ。殺すぞ________。」

その瞬間だった。堀川の首の寸前というところに、日本刀の刃が向けられていた。

「いつの間に?」

「次俺を起こして見な?今度は脅しじゃすまねえぜ。」

「...っ」

堀川の頬に一筋、汗が流れた。

「やれやれ、さすが四天王のNo.1様ね」

「話は終わったか?」

「すみませんでしたボス。お見苦しいところを」

「それでボス、あんたが魔瑠麻を殺すために反乱軍の船に向かわせたんでしょ?」

「四天王の席が一つ、あまりましたね。ボス。」

「ああ、そうだ。」

「それで、誰がその席につくことになるわけ?」

「"源しず"だ。」

「は!?どういうことだよ!」

「そのままの意味だが?」

「はぁ、まったくこの組織は、意味がわからん。眠い眠い...。こんなくだらねえ話に付き合ってる暇はねえんだ。先に帰らせてもらうぜ。」

カツオは一瞬にして姿を消した。「まあいいわ。あいつなんて放っておきましょう。」

「源しずは確か、研究所から脱走した兵器のはず...奴を四天王にするなんて...でも、ボスの命令だもんね!」

「それで?あたしたちになにをさせたいのよ」

「まず堀川にはノルマンディーの防衛を任せたい。反乱軍が上陸する予定のようだ。」

(でもあそこには僕が洗脳したつよーい幹部が2人もいるんだし!僕は行かなくてもいいかな?)

サッ

「血弥魔羅子にはしずを回収し、四天王へ向かえるのだ。」

「へいへい、まあ四天王最弱のあたしにゃその程度の仕事しかもらえませんわよね。」

サッ

こうして四天王会議は終了した。

「ホログラムシステム、終了しました。」

誰もいない部屋に、ボスが消えたことを知らせる機械音声が鳴り響いた。


「よし、行くか。」

のびのび田はそう言うと、ノルマンディーの砂浜へ降り立った。

のびのび田は海岸にたどり着き、あたりを見回していた。

すると、人影のようなものが見えた気がした。

「あれは、まさか。」

のびのび田は目を凝らすと、人影がものすごい速度で近づいてくるのに気がついた。

「さっそく歓迎が来たのか」

のびは銃を構えた。

(世界怪異破壊連合の技術部が開発した、極超高圧空気発射装置...。空気中の窒素を押し固め、弾丸のように放出する最新兵器だ。論理上では装弾数は無制限、バッテリーが切れるまで無限に動かすことができる。また、バッテリーは最新式太陽光発電により日中はほぼ無制限。夜間や屋内でも最大1000発は撃てる、人類史上最強の空気砲。)


数か月前________。

バンッ!ドドドドドドドドド。

本部の射撃訓練場で、のびは初めて銃を握っていた。

「銃の扱いは初めてか?」

本部長はバカにした笑顔を顔に浮かべた。

「はい、初めてです。」

「じゃあ、お前はここで見てろ。俺が手本を見せてやる。」

「お願いします。」

本部長は的に向かって拳銃を構え、引き金を引いた。

ダァン!!

「ふぅ、どうだ?簡単だろう?」

「……すごい音ですね」

「のび、お前もやってみろ」

「はい。」

のびは拳銃を手に取り、構えてみた。

バンッ!

「うわぁ!びっくりした!どうですか本部長?」

本部長は双眼鏡を除いて言った。

「……まあまあ、かな?おそらくまぐれだろうが、的の真ん中に的中している。次は連射してみろ。」

「はい。」

バンッ!バンバンッ!

「嘘だろ..........」

本部長は双眼鏡を除いたまま固まってしまった。

「えっと……どうかしましたか?」

「おいのび!お前ちょっと来てくれ!」

「はい。」

のびは本部長についていった。

「これを見てみろ」

のびは渡された双眼鏡で遠くを見た。

「なんだ、ただの的じゃないですか。」

「違うんだよ、こいつをご覧なさい。」

本部長は指差した。

「あ、穴が空いてますね。一つしかない...。全部外れちゃったんですかね」

「いや、よく見てみろ」

のびは的の中心に空いた穴をじっくりと見てみた。

「完全な円じゃなく、ぼこぼこしているだろ?」

「そうですね。」

「お前の放った銃弾が、すべてその的の中心を通ったんだ。」

「そうなんですね!偶然ですよ!」

「いや、偶然ではない。お前には才能がある。」

「そんな!買いかぶらないでくださいよ!」

「いや、これはこの本部、それどころか世界でも通用する腕だ!すごい才能だぞ!」

「僕の、才能?」

(僕には才能と言えるほどのものはなかった。テストではいつも0点。体力テストではいつも最下位で、いつも1位のジャイアソーとは比べ物にならなかった。いや、あやとりは得意だったような...。)

「次は早打ちを測定しよう。ついてこい、特別練習場に行くぞ。」

「はい。」


「ここが世界怪異破壊連合反乱軍本部にある、特殊練習場だ。」

「すごい設備ですね。」

「ああ、ここでならどんな能力者でも能力を存分に発揮できる。」

「へぇ、楽しみだなあ。」

のびはわくわくしながら練習着に着替えた。

「さっそく始めるか。」

のびはピストルを持ち、構えた。

「準備はいいか?」

「はい。」

「今から的を飛ばすから、なるべく早くそいつを撃ち落とすんだ。それをAIが測定し、タイムが分かる仕組みになっている。」

「分かりました。」

「じゃあ行くぞ。3、2、1、スタート!!」

ダァン!

「はっっっっっっっ!!!」

のびの手からは、信じられないスピードと正確性を持った弾が放たれた。

バシュゥウウッ!!

「す、すごすぎる……。」

本部長は驚きを隠せなかった。

「タイムは!?」

「0.1秒です。」

「正確性は?」

「100%です。」

「……のびくんなら、あの"試作機"も使いこなせるかもしれない」

「試作機ってなんですか?」

「ついてこい、のびくん。」

のびは本部長についていった。

「怒羅博士、彼は適任者かもしれません。」「ほう、それはよかった。」

そこには、身長140センチくらいで白衣を着た、いかにも科学者といった風貌のたぬきのような生物がいた。

「はじめまして、私は世界怪異破壊連合反乱軍技術部長、怒羅衛紋(どら・えもん)というものだ。よろしく頼むよ、のびのび君。」

「はい。」

「早速だが、新型空気砲のテストをやってもらいたい。だが、これがすこし厄介な品物でな、ブレと反動が恐ろしく激しいんじゃ。あのジャイアソー君でも、使いこなすことができなかったほど人を選ぶ。」

「ジャイアソー.....」

「さあ、のびくん。こっちに来てくれ」

巨大な白い立方体の部屋には巨大な木が一本、部屋の中心に生えている。

「これだ。」

怒羅はのびに拳銃のような真っ黒い物体を渡した。

「さっそく実験を開始してくれ。」

「はい。」

「さて、この銃はどんな武器なのか?まずはこのボタンを押す。すると、この銃口の穴から、圧縮された窒素が放出される。窒素は空気中から吸収されるため、理論上無限だ。バッテリーも太陽光発電。夜間でも1000発は撃てる。」「すごい。」

「では、やってくれ。」

「はい」

のびはボタンを押す。と同時にとてつもない振動が手に伝わってきた。

「うわぁ!」

ドォオオオンッ!!! 凄まじい音が鳴り響いた。

「やったか?」

しかし、的の木は傷ひとつついていなかった。

「くっそー!全然ダメだぁ~!」

「のびくんの筋力では無理か。」

「いえ、僕にはもう一つ案があります。」

「なんだ?」

「あやとりです。」

「なるほど。」

「僕の糸を拳銃に巻き付けて、撃ちます。そうすれば反動を抑えることができます。それに糸は自由自在なので、狙いを定めることもできます。」

「やってみるか。」

「はい。」

「よし、じゃあ始めよう。」

のびはあやとりを始めた。

「3、2、1、スタート!!」

ダァン!

「はあっ!」

バシュゥウウッ!!

轟音が鳴り響く。その後一瞬辺りが静まり返った。

「すごい!すごいぞのびくん!見てみろ!」

「え……?」

そこには、

先程までとは全く違う光景が広がっていた。的の木に亀裂が入っているのだ。

「すごい!こんな威力があるなんて……。」

「これは、"試作機"だ。」

「これが、試作機……」


(あれから博士が僕専用に作ってくれた空気砲...)

のびは引き金に指を置く。人影は未だこちらへ向かってくる。

「いくぜぇ~!!」

ドンッ! 空気砲から空気が放出され、敵に向かって一直線に進む。

ドゴオオオッ!!!

轟音が砂浜に鳴り響いた。男は前進をやめた。

「効いてるみたいだな。」

男の足は吹き飛ばされている。

「O Dieu, bénissez-moi」

「...!?」

男は再び走り出した。

「そんな……。」

「Ha ha ha ha ! N'avez-vous pas appris de la guerre de Shizu ? Le médicament artificiel de super-récupération que nous avons développé active les cellules et les récupère instantanément. En d'autres termes, si tu ne meurs pas, tu peux te battre pour toujours !」

「フランス語か?相手の言葉が分からなきゃ....あ、そういえば怒羅博士から日本でこれをもらったんだった。」

懐から取り出したこんにゃくのようなそれをのびは頬張った。

「無駄だ、私にはお前の攻撃は通用しない。我々の開発した超回復能力は一瞬で足程度なら再生可能だ」

(怒羅博士の蒟蒻型翻訳機...すごい精度だ......)

男は腰のホルスターへ手を伸ばした。

「銃か。でもそれはどうかな?俺の武器はこれだけじゃない。」

「死ぃねぇぇ!!!」

銃口から発射された弾をのびの鋼線は一刀両断した。

「その程度か?今度はこっちから行くぞ!」

のびは鋼線を敵の方へ瞬時に伸ばす

「捕まえた.....!」

のびの鋼線によって完全に捕らえられた敵は身動きが取れなくなった。

「終わりだ」

いつもの慣れたような手つきで、鋼線を締めようとする...しかし。

「鋼線だァ?こんなもんはこうするんだよォ!」

男が言い終わると同時に、のびは手に強い衝撃を感じた

「俺の鋼線が切れた!?」

「こんな細いもの俺の刀で切るのは造作もないぜ」

「なんだ?あの刀の模様は!?」

「ウーツ鋼...聞いたことないか?」

「ウーツ鋼って確か、世界で一番硬い金属……」

「そうだ。この刃に使われてるのも、もちろんウーツ鋼だ。」

男は剣を鞘に納めた。そして再び抜刀した時、刀は紅に染まっていた

「そして俺の能力は超加熱……つまり、皮膚表面の温度を自由に変えることができる!それの応用で炎だって出せるんだぜェ~!」

「なるほど、それで刀を加熱して僕の鋼線を切ったのか。」

「そういうことだぁあ!さっきは油断したが、次はもうねえ。」

男の放った銃弾がのびに直撃する。

「ぐっ……」

「オラアアッ!!」

男は続けて何発もの弾丸を放った。

「これでくたばりやがれえ!!」

その時、のびが呟いた。

「お前が間抜けで俺は命拾いしたみたいだな」

「なんだとォ!?」

「足元を見てみな」

「.......水か?」

「重油だ。」

「重油?いったいどこから...まさか!?」

男は振り向いた。視線の先には大量のドラム缶が転がっている。

「ここは我々反乱軍と怪異破壊連合の間で大規模な戦いがたびたび起こっている。そういうときに撤退するなら船の燃料位置いていくだろう?」

「待て!何をする気だ!よせ!!!」

「さよならだ!」

のびはドラム缶に向かって銃を放った。銃弾は敵を通り過ぎ目標へと的中する。

「普通の拳銃も持っててよかったぜ」

大爆発の衝撃は男を再生よりも早く殺すには強すぎるほどだった。

「クソッ!まさかこの距離まで爆風が来るとは!」

のびは吹き飛んだ。意識が薄れ、視界が暗くなる。

「こんな、ところで...」

のびは気を失った______。


彼は自分の意識が深いところから地上へ這いあがってくるのを感じた。

本能的に体を動かすことに抵抗を持ちつつ、彼はゆっくり瞼を上げる...。

「ここは、どこだ?」

鉄格子は、分厚いコンクリートの隙間を埋めるように設置されていた。

のびはすぐに腕が動かないことに気が付いた。

「あれっ?」

のびの腕は、鋼の拘束具に縛られており動かすことができない。

「なんじゃこりゃあああ!!?」

カッ カッ カッ カッ

暗闇の方から二人分の足音が聞こえる。

のびは振り向こうとするが、拘束具がそれを許さない。

「気が付いたようだな」

警備服のような服装の男たちがのびの視界に入った。二人はマシンガンを装備している。

「ここはどこだ!」

「知ってもちびるなよ、ここは世界怪異破壊連合の強制収容所だ」

もう一人の男が言った。

「世界怪異破壊連合の...」

「この収容所にゃ俺らに歯向かう難民共が捕まってる。奴らは連合のために労働してるんだぜ。さぞかし苦しい仕事をしてるんだろうよ。女や子供は"他の仕事"もしてるんだぜ。にゃはははは。」

「くれぐれも脱走しようなんて考えるんじゃねえぞ!まあ、考えたところで無駄だろうがな。この施設には監視カメラに脱走者を殺すためのマシンガン、最新鋭のレーザーまで備わっている。人々はここをこう呼ぶぜ。"ヘルヘイム"とな。まあ精々、クソみてぇな余生を楽しめよ。反乱軍のS級職員さん。がはははは。」

男たちは巡回しているのだろう。彼らはまた暗闇の中へと去っていった。

「どうしてこんなことに_____。」


窓のない窮屈な部屋では、倒壊したビルや折れたスカイツリーを眺めることもできないようだ。

「では、第13回円卓会議を始める。さっそくだが、問題が起こった。のびが世界破壊連合に捕まったようだ。」

「のびが?彼は反乱軍の中でもS級クラス...どうして」

「そこで考えた。のびの救出に一人、適任がいる。」

「適任...?」

「失礼します。」

「き、君は!?」

「お久しぶりです。本部長、それに円卓会議の皆さん。」

「なぜ彼がここに...」「ロシア戦線にいるはずでは...?」「まさか彼が...」

「まあ落ち着いてくださいよ。僕は何も命令無視をして日本に帰ってきたわけじゃない」

「その適任者とは、彼のことだ。よろしく頼むぞ、溺数魏英俊(できすぎ・ひでお)S級職員」

「はい。彼は僕の幼馴染です。必ず救出いたします」

「確かに彼なら...」「ミッション達成率100%か...」「私は賛成するよ」

「ありがとうございます。」

「では、さっそくフランスへ向かってくれ。」

「はい。わかりました」

溺数魏は巨大な扉を背に歩き出した。


のびは脱出を試みようとすでに二週間以上、敵の配置や拘束具の破壊方法を模索している。

(もうここにきて何日経ったか......外の様子が分からない。夜か昼なのかさえ........)

それは突然の出来事だった。なんの変化も起きないことに既に飽き飽きしていたのびにとってそれは、希望の光にも感じられた。

赤い警告灯が辺りを照らす。警報音は施設全体になっているようだった。

職員たちが慌ただしく戦闘の準備を整えている。

「なんだなんだ?」

コツッコツッ 足音が聞こえる。

足音の主は後ろからこちらに近づいているようだった。

「何者だ!」ガチャ

のびから姿は見えなかったが、音から察するに重火器を装備した職員がこちらに近づいてくる何者かと戦闘をしているようであった。

「答えぬか!ならば貴様を脅威と判断する!撃てーーーー!」

リーダー格の男がそう叫ぶと、職員たちは一斉に発砲し始めた。

一瞬、刃物のような何かが空を切るような感覚がした。と同時に、血の噴き出る音が聞こえた。

「うぎゃあああああ!」

おそらく職員のものと思われる声が放たれる。男が職員たちを瞬殺したのだろう。

「おい、大丈夫か!?」

男はのびに駆け寄り、拘束具を外してくれた。

「お前は____!」

「溺数魏英俊だ。覚えてるかい?のび」

「あぁ……。でもどうしてこんなところに」

「君を助けに来たんだ。早くここから出よう」

「ありがとう……助かるよ」

「よし。行こう」

溺数魏が手を差し伸べる。

「うん」

のびがそれを掴むと、二人は手を繋ぎながら出口へと向かった。

「待て!逃すな!」

背後からは先ほどの男の声が響いている。

「しつこい連中だね。」

溺数魏はそういうと懐に手を入れ、ナイフを取り出した。

そして迫り来る職員にそれを投げる。

「ぐあっ」「ぎぃやあ」

二人に迫っていた職員たちは次々に倒れていった。

「行くぞ」

溺数魏が言う。

「あぁ」

のびも答える。

「あとこれ、お前も武器を持っておいた方がいいんじゃないか?」

溺数魏はそう言い、のびに拳銃を渡した。

「ありがとう」

「職員さん、ちょっと制服お借りしますよ」

のび達は近くにいた職員の服を奪い取った。

「なんとか変装できたな」

溺数魏が言う。

「そうだね」

のびがそれに答える。

「じゃあ、さっさとここを出るか」

「おう」

「それにしても、やけに静かになってないか」

「警報音も止まっている。一体どうして?」


「ここからの景色はやはり絶景だな」

その施設の所長室に設置された、ガラス張りの壁を眺めてこうつぶやくのがヒットラー所長の日課だった。

大理石の床を叩く音が近づいてくる。おそらくは、施設の一般職員のものだろう。と所長は予測した。

コン コン 扉を叩く音がした

「失礼します。所長。」

「どうした」

「脱走者が2名現れたようです、どういたしますか」

「放っておけ、いつものことだろう」

「いえ、それが...」

「放っておけと言っているだろう。私の時間を奪うな。そういうことは鎌許にでも言うんだな」

「は、はい、申し訳ございません。失礼しました」

ガチャ

扉が閉められた。


「まあよく分からないが、警報が止まるなんて、願ってもないことだ。ラッキーだったぜ」

溺数魏が言う。

「ほんとだよ。しかしここはどこなんだろう?」

「わからない。ただ、この施設はかなり広いようだ」

「そうなのか……それは厄介だな」

「とにかく、脱出できるところを探すしかない。まずは外に出よう」

???「嫌だ!助けてくれ!誰か!」

悲鳴が聞こえてきた。

「なんだ今のは!」

「行ってみよう」

二人は声のする方へ向かった。

「こっちだ!」

のび達が駆けつけると、そこには一人の男が暴れていた。男は職員たちに拘束され、身動きができない状態であった。髪や髭は生やしっぱなしで皮膚の角質が剥がれ落ちていた。いかにも収容された一般人という風貌の男だ。

「おらっ!おとなしくしろ!」「嫌だ!俺はまだ死にたくない!」

男が抵抗する。

「何があった」

リーダー格の男が職員に話しかける。

「ふ、副所長!?お疲れ様です!」

職員が慌てた様子で言う

「...副所長!?」

「どうしたんだ溺数魏」

「やつはここの副所長だ。本名を鎌許熊耳(かまもとくまじ)という。収容所での虐待、暴行、人体実験など非人道的な行為を犯してきた本物の悪人だ」

「えっ……」

のびが驚く。

(鎌許熊耳...聞いたことがある。反乱軍ではバリスタの鬼と呼ばれていたあの...)

「どういうことだ?なぜそんなやつがここにいるんだ」

「さあな……分からん。とりあえず、話を聞いてみるか」


「何があったんだ。」

鎌許が口を開いた。

「実はっ、こいつがこんなものを...。」

そういって職員が渡したのはペンダントのように見えた。

「どうやらこいつの家族写真のようです。」

「それは世界が混乱に染まる前に撮影した唯一の家族写真だ!返せ!」

「お前に家族など必要ではない。そいつは規則を犯した。よって ティアフーダの刑に処す。」

「フフフ、了解いたしました。副所長。」

そういうと、鎌許はペンダントをポケットに入れ、廊下を進み始めた。

「ティアフーダだってよ。良かったなお前」

「嫌だ!俺には家族がいるんだ...!」

男の叫び声が遠ざかっていく。

「俺たちも行くぞ」

「溺数魏...俺、嫌だよ。あんな困ってる人を置き去りにして自分だけ逃げるなんて」

だ、だがのび...」

「いいから助けにいくんだよ。ここであいつを見捨てたら一生後悔することになる。それとも、自分の命の方が大切か?」

「くっ……分かった。行こう。」

「ああ」

男を追ってすでに数分が経過していた。

「ここだぜ。」

職員たちが扉の前で立ち止まり、何やら話をしている。

「ティアフーダなんて久しぶりだな。ケルベロスのエサにされちまうなんて、さすがに同情しちまうぜ。」

「そうだな……よし、開けろ」

職員が扉を開ける。

ギィィイイーー

グルルルッ

「グアアアッ」

部屋の中には檻があり、その中に一匹の大きな犬がいた。頭が3つある。明らかに尋常ではなかった。

「そ~れっ!」

「ウッッ」

男が投げ飛ばされる。

「じゃあな。」

扉が閉められた。

ガチャン

ガウウ グアアア

ケルベロスは男に近寄る

「もはやここまでなのか...」

ケルベロスが男にまさに噛みつこうとしたその瞬間、轟音とともにその巨大な3つの頭が弾き飛ばされた。

「おいっ!大丈夫か!」

そこには、拳銃を持った男が立っていた。

「君たちは……?」

「俺は世界怪異破壊連合反乱軍の溺数魏だ」

「同じく、職員ののびだ」

「反乱軍の...。私は深澤諭吉(ふかざわ・ゆきち)。助けてくれてありがとうございます。でもどうして反乱軍の方々がここに?」

「話はあとにしましょう。私たちはここから出るためにここに来た。あなたも一緒に来ませんか?ご家族のためにも...」

「分かりました。私にもできることがあればなんでもやります!」

こうして、のび達と深澤は共に行動することになった。

「よし、脱出しよう」

「ああ」

その時、急に扉が開いた。さっきの職員たちが戻って来たのだろう。

「...!?お前ら!ナニモンだ!」

拳銃を構えようとする職員を溺数魏はナイフで切りつけた。

「グフッェ!」

「グファ!」

職員二人が倒れる。

「さぁ、行きましょう」

「はい」

「しかし、出口がどこにもない……」

「どうするんですか?溺数魏さん」

「……この部屋の壁は壊せないのか?」

「やってみるか……」

ばちごぉおおおん 壁が壊れる。

「よし、

これで外に出られるな……」

すると、向こう側から足音が聞こえてきた。

ドタッドタッ バンッ!

「見つけたぞ!!脱走者どもめ!!」

のびが見積もったところ、少なくとも敵は30人はいるようだった。

「囲まれたか……。」

「どうする?」

「のび、お前はこの人を頼む。ここからは俺一人で十分だ」

「分かった」

「さあ、かかってこい!」

「舐めやがって!死ねぇえ!」

一人の職員が襲いかかる。

カチャリ 溺数魏は拳銃を発砲した。

パンッ!

「ぐあっ!」

職員が倒れた。だが、他の職員たちはそんなことを目にも止めずマシンガンを乱射してきた。

ズガガガガガッ!

「よっしゃ!命中!」

「勝ったな...(確信)」

「俺はまだ死んでないぞ……!」

「なんだと……?まだ生きてるだと……?」

「ああ。」

硝煙が晴れ、職員たちは何が起こったのかを理解したようだった。

「氷の壁……!?まさか……お前、氷の能力者か……!」

「ああ、そうだ。俺は氷を操る能力を持っている。」

「くそっ……だが俺たちにはRPGだってミサイルだってあるんだぜ!」

再び銃口が向けられた。今度は多種多様な形の影が見える。おそらくはロケットランチャーやグレネードランチャーの類だろう。

「無駄だ。」

パキィン 溺数魏は再び氷を張った。

「その凍り付いた弾丸など、何の意味も無いだろう」

溺数魏の左腕から、青く透き通った氷が敵の銃口まで連なっている。

まもなく引き金が引かれた。

ドオォン 爆炎が上がる。

「ロケットランチャーは俺の氷に耐えられず暴発して、爆発したようだな。」

「のび、先を急ぐぞ。」

「わかった。」

「すげぇ...。これが反乱軍の......」

「溺数魏、出口へ急ごう」

「あ、いや、のび...。悪いんだが、今俺たちがどこにいるのか分からねえんだ」

「は?」

「だから、俺たちがどこにいるのか分からないんだよ」

「あの~、私ここにもう数年はいますけど……」

「出口、わかるんですか!?」

「ええ、まぁ……。」

「じゃあ教えてください!お願いします!」

「はい、わかりました。」

「こっちです。ついて来てください」

「はい。」

三人は歩き出した。

「なあ溺数魏」

「どうした」

「キミはジャイアソーがどうなったのか、知っているのか?」

「ああ、知っているとも。」

「今でも覚えているさ。あの時の、ジャイアソーの死を伝えられたあの日を。」


「ジャイアソーが殺される一日前のことだ。俺が連合の情報を提供してもらおうと、スネヲのもとへ行った時のことだった。ひどく湿っていて視界は暗く顔もよく見えない、まさに路地裏って感じのとこで俺はスネヲが来るのを待っていた。『よう溺数魏!』『おう』スネヲが俺の肩を叩いて、『それで、今回の情報は?』『急かすなよ、ほらこれだ。』俺は渡された封筒を適当に覗いてみた。『これは?』『最近、お前の知り合いが組織に入ったらしいな。』『のび...か。』『ああ。子供のころよく遊んだだろ、俺とお前とジャイアソーとあいつで。あとしずちゃん...』『やめろ。それ以上言うんじゃない。』『悪い』『ほかに情報は?』『反乱軍が上陸する予定のフランスの主要都市及びノルマンディー沿岸の基地、それとそれの情報達だ』『具体的には?』『基地の位置、地図、警備の情報、主力の能力、etc...』『すげえな。さすがは世界一の情報屋だ。まさか、職員のパンツの色までチェック済みじゃないだろうな?』『もちろん、チェック済みだ。』『冗談だろ...』『冗談だよ。はい、あとこれ』『これは?』『肩パン惑星(わたぱん。わくせい)の資料だ』『肩パン惑星...あいつは小学生のころから軍の訓練を受けていた今じゃ特攻隊のリーダーをしてるなんて噂も聞く。』『ああ。それに、奴は超高温の能力者でもあるんだぜ』

『超高熱だと!?それは本当なのか?』『ああ間違いない。この資料を見てくれ』

そこには、肩パン惑星の顔写真付きデータが載っていた。『こいつが、ジャイアソーを殺したのか……』

『そうだろうな。』

『よし、殺してやる!!』

俺は、その資料を持ち帰ってしまった。

それから一か月後、反乱軍はついにフランスに上陸する準備を始めた。

そして、俺たちの作戦が始まった。

まず」

「待て待て待て、なんだか話が脱線してないか?」

「ああ、すまない話に熱がこもってしまった。それで、そのあとスネヲと別れて、家に帰ったんだった。疲れてたもんでね、ぐっすり眠ってたよ。その間にジャイアソーが殺されたなんて、夢にも思わなかった。」

「電話のコール音で目が覚めたんだ。俺はすかさず『はい、できすぎです。』と返事をした。でも驚いたよ、そのあとに帰ってきた声の主が反乱軍のボスだったんだから。源さんはジャイアソーのことを事細かに話してくれた。本当に辛かったと思う。だって、仲間が死んだって言われても信じられるわけがない。しかも、それを自分の娘がやったとなればなおさらだ。」

「俺はショックで頭が真っ白になった。何が何だかわからなくなったよ。そこから記憶が曖昧なんだ。気が付くと俺は、ジャイアソーの葬式に出かけていた。もう何もかもが手遅れなのにね……。」

「奴の肉体はバラバラに散ってしまった。葬式会場に置いてあったレプリカは、戦闘スーツが最後に記録したデータから再現されたものだ。つまり、死体が残ってないんだよ。だから、遺骨もない。ジャイアソーの体の一部すらも、見つかってなかったんだ。」

「穏やかな顔をしていた。のび、君も見ただろう?あの会場で」

「ああ」

「泣いてるつもりはなかったんだが、いつも間にか泣いてた。悔しくて、悲しくて、涙が止まらなかった。」

「ジャイアソー、奴は立派だったよ。会場の人たちはみんな泣いていた。みんな奴のことを慕ってたから。」

「そうだな……」

のび達はしばらく黙っていた。

「だから、ジャイアソーの犠牲を無駄にしてはいけない。俺がこの戦争を終わらせるんだ」

ややあって、出口らしき門の前にたどり着いた。しかし、門は固く閉ざされていてビクともしなかった。

「のび、どうしよう?」

「俺にまかせろ」

のびは空気砲を地面に固定した。

「ずっと気になっていたんだが、その銃のような物は一体なんなのだ?」

「ああこれかい?」

「これは空気砲といって、空気の圧力で物を破壊する武器さ。まあ見ててごらん。」

のびは両手を構えて、大きく息を吸った。

引き金を引く

どかーん! 大きな爆発音が鳴り響き、壁が崩れた。

「これで、出られるぞ!」

「すごいですね...」

のびたちは、門をくぐり抜け、外に出ることができた。

「先に進もう」

のびたちは歩き出した。


のびが収容所を破壊してからというもの、地下監視室の職員たちは慌ただしい様子で走り回っていた。

「大変だ!囚人たちが脱走した!!」

「そんな馬鹿な……どうして!?」

「おいおい嘘だろ...冗談きついぜ!」

「すでに50名以上の被害!送り込んだ戦闘員は全滅しました!」

「クソッ!どうすれば...」

慌ただしい足音に紛れ、重く、落ち着きのある声が聞こえてきた。

「待たせたな。」

「鎌許副所長!」

足音が止まり、一同は敬礼する。

「所長の命令だ。囚人FE4053を解放させろ。」

「そんな!ありえない!」

「無茶です!」

黄色い悲鳴、困惑、恐怖、様々な感情が渦巻いていた。空気が凍っている。絶対零度すら凍えてしまうだろう。

「所長命令だ。従えぬというなら、反逆罪とみなす。」

「うぅ……」

職員は震えている。

「わかったらやれ」

「は、はい……わかりました」

職員の一人が機械を操作し始めた。

それは1分ほどだったかもしれない、もしくは30秒、1秒もかからなかったかもしれない。しかし、この場の全員が1時間にも1週間にも感じていた。そして、扉が開かれた。

「囚人FE4053が解放されました。職員は速やかに避難してください。」

アナウンスが流れる。

「退避―!退避―!早くしろおおお!」

「急げええええ!」

職員たちは一斉に駆け出し、逃げていく。

「隔壁扉を閉じろ!」

「でも、まだ人が!」

「かまわん!閉めろ!」

「は、はいぃ!」

その瞬間、扉は閉ざされ、完全に隔離されてしまった。

ドン!ドンドンッ!扉の向こう側から激しいノックが聞こえる。

「私はC級研究員だぞ!開けろおぉ!」

「オレ、カイほウ。力、サィ強。求メる。」

扉の外から、男の声がする。

「嫌だ!死にたくない!や」

言いかけた途端、白衣を着た男の顔面を何者かが掴み上げる。男は必死に抵抗するが、振りほどけない。

「ぎゃああああぁぁぁ……」

断末魔が響く。

砕けた頭蓋から、バラが咲くように脳が散らばった。

何かが起こり、隔壁扉が吹き飛ぶ。「おマエ、俺。トじこメル。」

「おれおまえころす」

さっきまで片言だったはずの男の言葉が多少ではあったがマシになっている。

「ひいいいっ!」

白衣の男が腰を抜かす。

「あ、ああ……」

「今の一瞬で知能を回復したのか……」

「おれおまえきらい」

男の右腕が一瞬、RPG-7に変化した。

「しね」

ドオォン! 爆発音が轟く。

爆発によって生じた瓦礫をもう一度吹き飛ばし、男は先を進んだ。巨人が歩くような地響きが伝わってくる。


「_____コードネーム"神鳴餐"(かみなりさん)。肉体を既存の兵器に置き換えることができる能力者。だが、あまりにも強力すぎる能力であったため脳に障害が生じた。」所長がほくそ笑んだ。


門の先には採掘場のようなものが広がっていた。

「ここは強制労働者が働く採掘場です。」

深澤が説明する。

「深澤さんはここで働いていたんですか?」

「私が拉致されてからの十何年間、ずっとここにいます。」

「ひどすぎる……」

「ご家族とか心配してないですか?」

「息子と妻は私とは別の収容所にいるはずです……。」

「そうだったんですね……」

「私は妻が無事でいることを祈るばかりです……」

「……」

のびのび田はなんとか気の利いた言葉を探そうとしたが、何も思いつかなかった。

「大丈夫ですよ!きっと生きてます!」

「ありがとうございます。のび君」

「それで、ここからどうすれば?」

溺数魏は、地図を広げる。立体ホログラムで採掘場内の構造が表示される。

「まずは、採掘場の最上階へ向かいましょう。」

「わかりました」

「この採掘場はメタ二ウムという鉱物を採掘するために作られています。」

「メタ二ウム……聞いたことあるな」

「確か、新たなエネルギー源として注目されている金属だよな。」

「その通りです。1kgのメタ二ウムが持っているエネルギー量は、太陽が1日に作るエネルギーとほぼ同じだと言われています。」

「しかし、希少でなかなか手に入らないんです。」

「それで、そのメタ二ウムを運搬するためのエレベーターがあるんです」「なるほど……」

「では、行きましょうか。」

のびたちは歩き出した。

「もうそろそろです」

「あれですね……」

巨大な鉄の扉があった。

「デカいな。」

「あれ、おかしいですね...」

「どうしたんですか?深澤さん」

「いえ、いつもはこのエレベーターは稼働しているんですが...稼働音がしません」

「俺たちの脱走でこの採掘場も稼働していないんじゃないか?」

「そうだといいのですが……ここの採掘場のほとんどは自動化されています。そう簡単に稼働が止まるとは思えません」

「じゃあ、なんで動いていないんでしょうか」

「わかりかねます」

「とりあえず入ってみようぜ!」

のびのび田が扉に手をかける。

のびはドアをこじ開ける音と同時に振動を感知する。

ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!という音と共に扉が開きかけた。

「この振動、ドアを開けるのにしては大きすぎるぞ!」

「のび!深澤さん!離れろ!」

「うわあああぁあぁああ!」

深澤は尻もちをつく。

「痛た……って冷た!?」

足元には氷結した先ほどのエレベーターの瓦礫が落ちていた。

「敵がいるようだ。俺の氷で壁を作ったが、おそらく破られるだろう。」

『おれ にんげん ころす_____!!』

三人は声の方向に目を向ける。そこには、2mほどの巨体を持つ人型の怪物がいた。手からは、水滴のような液体が垂れている。

「なんだあの化け物は……」

「き、聞いたことがあります……」

「知っているのか!深澤さん!」

「はい、あいつの名は"神鳴餐"。この収容所の中でも最強の力を持つ囚人です……」

「神鳴餐...聞いたことがあるな。」

溺数魏は、神妙な顔つきで言う。

「あいつは記憶を失っているため言葉を失っている。だが、その代わりに得たものがある。それが、強力な身体能力と自らの肉体を既存の兵器に変形させる能力だ。」

「つまり、今目の前にいるのは人間兵器ということですか?」

「ああ。その通りだ。」

「奴の素体はアメリカ陸軍の大佐として相当な戦果を上げていたらしい。ベトナム戦争で1000人の敵兵を虐殺し、その功績が認められて大佐にまで昇進していた。」

「そんなにすごい人だったんですね……」

「だが、能力の代償として記憶や人間性の消失といった副作用が発生し、最終的には自我が崩壊してしまったんだ。」

「それでもしばらくは怪異破壊連合の兵器として運用されていたらしい。だが、暴走によって破壊連合の基地が一個丸ごと消滅してしまったことから危険因子と見なされ、地下深くにあるこの収容施設に幽閉されることになったのだ。」

神鳴餐はゆっくりとのびたちに近づく。

「深澤さんは下がっててください。ここは俺が食い止めます!」

「はい!どうかご無事で!」

「溺数魏、任せたぞ」

「わかった。お前たちも死ぬなよ」

深澤とのびはエレベーターの中へ逃げ込んだ。のびは鋼線を操り、エレベーターの扉を閉める。

「行ったようだな。」

「さあ来い!化け物!」

『おまえ きらい』

神鳴餐は右手をGAU-8アヴェンジャーガトリング砲へと変形させた。砲身が回転し始め、無数の弾丸が発射される。

「くっ!」

溺数魏の身体は銃弾をかすめ、血が流れる。

「こんなところで死んでたまるか!」

溺数魏の指先から冷気が発生する。地面を這うように氷が広がり、巨大な氷の壁を形成する。

「どうだ!」

「こおり とかす」

神鳴餐は左手を火炎放射戦車の砲塔へと変形させ、炎を放つ。

氷の壁が溶け始める。

「まずいな……」

溺数魏の足が水に濡れた。

「つぎ おれの ばん」

神鳴餐は左腕をチェーンソーへと変形させた。

「こいつはヤバそうだな……」

「いく」

神鳴餐は猛スピードで接近する。

「ぐあっ!!」

危機一髪と言ったところだろうか。数センチの所で神鳴餐の攻撃を回避した。

「あぶねえ……」

「やる」

神鳴餐の右足が巨大な剣へと変わる。

「これで おわり」

溺数魏は咄嗟に氷の柱を作り、自らの腹に突撃された。

溺数魏は吹き飛び、神鳴餐の大振りをもう一度回避して体勢を立て直す。

「危なかった……まさかここまで強いとは」

「まだまだ あそぶ」

神鳴餐は両肩をミサイルランチャーへと変形させる。

「これならどうだ!」

約10のミサイルが放たれ、溺数魏へ放射状の軌道を描きながら迫る。

「甘い!」

溺数魏は両手を地面につけ、天井に張り巡らせてあった氷を伝って冷気を放出する。

ミサイルは凍り付いた。

「今度は俺のターンだ」

天井の巨大なつらら目掛けて彼はナイフを放った。

「終わりだ!」

つららは一直線に飛んでいき、神鳴餐の脳天に突き刺さったように見えた。

「やったか...?」

「あまい」

神鳴餐は無傷だった。

「なに!?あの攻撃を避けた!?」

溺数魏は神鳴餐の身体能力を甘く見ていたことを後悔した。

「まだ あそべる」

神鳴餐は両腕を巨大ハンマーへと変形させた。

「行くぞ。」

肩甲骨のあたりを小型ミサイルへと変形させ、その推進力で加速しながら溺数魏に向かって突進していく。

「速い……!」

溺数魏は氷柱を出現させて迎撃しようとする。

しかし、神鳴餐はその全てを高速移動で避けていく。

「このままではやられる……!」

溺数魏は神鳴餐の背後から大量の氷の槍を生成し、射出する。

「もう おわり」

神鳴餐は右腕をレーザーガンへと変形させる。

銃口から高密度のエネルギー波が放出され、氷の槍を全て溶かしてしまう。

「そんな……」

「つぎ は ころす」

イオンエンジン推進式小型ミサイルでもう一度加速し、溺数魏に急接近した。

「これで_____」

大太刀ほどの大きさはあるらしい巨大な刀が、神鳴餐の拳には針山のようにびっしりと生えていた。

一振りで溺数魏は死んでしまうだろう。彼の生と死の境界線は、今や糸よりも細い。

「し ね」

拳が振り下ろされた。空気は切り裂かれ、真空が辺りを埋め尽くした。一瞬、何も聞こえなくなる。世界から音が消えたようだった。

そんな沈静を打ち破ったのは、氷が割れたような音だった。

「にん ぎょう?」神鳴餐が音のする方に呟いた。

「おれはここだ」

神鳴餐の背後には、溺数魏が立っていた。

「な ぜ おまえ いる」

「にんぎょう こおり ... そうか だましたな・あああ・あああ」

「そうさ、俺の氷人形はいい遊び相手になっただろう?これはお返しだよ!」

溺数魏の背後には巨大な影が見えた。細かくなった氷が宙を舞い、溺数魏は後光に光り輝く仏のようだった。

「死いぃぃぃぃねえええええぇええぇえええ!!!」

大理石のような滑らかさを持った氷塊が、神鳴餐を押しつぶさんと迫る。

「しぬ いやだ」

神鳴餐はGAU-8アヴェンジャーガトリング砲で氷の粉砕を試みるが、硬く巨大なそれの前にはまったくの無意味へと変わった。「だめだ きえない」

「死ねぇ!神鳴ィ!」

氷の津波は止まらない。

どっかーーーーーん!!!! 凄まじい轟音と共に、神鳴餐の姿は見えなくなった。

「やった……のか?」

神鳴餐の姿は無くなっていた。

「勝った……んだよな?」

溺数魏はその場に倒れ込んだ。

「おれは しんで ない」

神鳴餐は無傷でそこに居た。

「うそだろ……」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ、オラァ!!!!!」

拳の雨が降り注ぐ。溺数魏の目に生気は感じられなかった。境界の糸は繊維の1本までバラバラになり、死んだも同然に思えた。

「つまらない」

打撃により、溺数魏は吹き飛ばされていた。先ほどの景色が遠くに見える。背後には巨大な穴が開いていた。(これはなんなのだろうか)

「グハァッ!」

(やばい、しぬっ)

思考に霧がかかったようにぼんやりとしている。

意識が遠のく。溺数魏はここまで死を間近に感じたのは初めてだった。

(これが死ぬということなのか……?)

溺れるように、息苦しさを感じる。

視界がぼやけている。

身体中が痛い。どこから出血しているかも分からない。

「死ぬのか、俺は」

霧がかった思考のなかで、溺数魏はふいにジャイアソーのことを思い出した。

(走馬灯か?)

「溺数魏、お前は死に直面したときどうする」

(これは、まだ反乱軍ができて間もない頃だったな。確かジャイアソーに聞かれたんだ。あの時は確か____)

「急にどうした?そんなこと。」

「お前が死にそうになったとき、どうするか聞いてるんだ」

(考えたこともなかったんだ。いずれ死ぬってことも分かっていたけど、実感はなかった。)

「抵抗はしないさ。運命は受け入れるべきだ。」

「"運命"、ね~。俺はそんなもの信じちゃいないがね」

「運命ってのはあくまで結果だろ?必ず過去形になるんだ。不確定な未来を表す言葉ではないはずだぜ」

「だからよぉ、もしその結末が気に食わなければ抗うことだってできるんじゃあないか?」

「俺は最後まで抗ってやるつもりだぜ?」

「ジャイアソー……お前……熱い奴なんだな……」

「俺の筋肉に不可能はないのさ。どんな運命にも、必ず抗って見せる」


『________抗え、運命に』

溺数魏は立ち上がった。運命に抗うため折れた足で一度地面を踏みしめる。生気を失いつつあった目には炎が宿っている。傷口から流れ出る赤い液体には、確かな熱があった。

「そうだ。俺は死んでない!」

「おどろいた いまのこうげき ぜんりょくだった」

「だが そのけが しぬ」

「もういちど だ」

神鳴餐は疲労しているように見えた。息は乱れ、肩が大きく上下している。

何も言わずに背中を重火器へと変化させる。黒い銃身で背中が埋め尽くされるその様は、節足動物の脚が密集して出来ているようであった。

溺数魏は両手を前に突き出す。

「こおりの ぼうぎょ たえれるとでも?」

「ああ、耐えれるぜ?」

溺数魏の手からは冷気が漂っていた。指と指の間から見えるそれは、氷の膜だった。

「氷の盾……?」

「いや違う、これは氷の壁さ。」

溺数魏の背後から巨大な氷壁が現れる。氷の壁は厚く、視界のすべてが青で埋まった。

「この氷の壁は俺の命そのものさ。」

「しね」

ズドドドッ! ドカーン! タタタタッ! ガガガガッ!

銃声が響き渡る。妙にリズミカルで軽快な音だ。

氷壁に銃弾が当たるたび、氷が飛び散り、氷片が宙を舞う。

(まずい...)

氷にヒビが入ってからは、一瞬だった。氷は音を立てて崩れ去り、氷の破片が宙を舞った。

「みつけた」

神鳴餐の姿はすぐ目の前にあった。足を大きく上げ、今まさにその踵を振り下ろそうとしていた。

「うそだろ……」

溺数魏は咄嵯の判断で、腕を凍らせた。激痛が走る。その痛みを感じる間もなく、また衝撃がやってきた。「うぐぁっ……」

溺数魏の体は吹き飛ばされていた。地面と平行に、凄まじい速度で移動している。(これはやばいな……)

「これはさっきの穴か?」

どっかーーんっ!

溺数魏は穴に落ちるのを防ぐため、咄嗟に薄く広い氷で穴をふさいだ。「やれやれだぜ」

(さっき吹き飛ばされてるときにプレートのような物が見えたが、もしかするとこの穴...)

「くらえ」

神鳴餐は体の一部を銃器に変え、発砲してきた。

「くぅッ!」

「そろそろ しぬ?」

神鳴餐は勝利を確信しているようだ。

「これで しね」

ロケットランチャーに肉体を変化させ、放った。(これは避けられないぞ……。)

溺数魏は死を覚悟した。

一瞬の判断で氷の壁を張ったことで直撃は免れた。だが、おそらくは最新式の弾頭であろうそれの破壊力は絶大だった。氷の壁はあっという間に砕かれ、またしても溺数魏は吹き飛び、地面に叩きつけられた。

「がはっ……」

パキ パキパキバキッ

辺りに不気味な破裂音が響いた。

溺数魏は先ほどのガードで作り上げた氷が割れる音だと認識したが、その音は神鳴餐から聞こえていた。

バキィッ!!

導火線の火が火薬に到達し、唐突な爆発が起きたかのように、何かが崩れ始めた。

「な、なんだ!?」

溺数魏が目をやると、先ほどの穴に張った氷が割れていた。

「そうかっ!ロケットランチャー!!」



……ここで終わってました。最後までお読みいただきありがとうございました。

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大魔王(私)、黒歴史を清算します。 大魔王 @zyoka

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