天使とのシニガケ契約
端谷 えむてー
第1話 変な夢
───今、我の声が聞こえているだろうか?
俺は確か、ベッドの上で寝ていたはずである。そして現在も俺は眠りの中にいるはずなのである。
しかし、睡眠中にしては妙に意識がはっきりしている。なぜだろう……。
───繰り返す。貴様には我の声が聞こえているだろうか。
……そして、さっきから何か声が聞こえる。感じる感覚はこの聴覚のみだ。
この透き通った、少女の声ただ一つである。
なんか、俺に回答を求めている内容に聞こえるが、どう反応すべきなのだろう。
───その思考はできるということは、聞こえているようだ。
どうやら、俺の反応は必要なかったようだ。
───なら、貴様に命ずる。我ら天界の者と契約を交わせ。
契約とな……?
───そうだ、我らと交わせ。でなければ、貴様は死んでしまうであろう。
死……?
───契れ、我らと「シニガケ契約」を。
シニガケ契約だと?
───翌日、貴様のもとに使いの者を送る。しかと契れ。
「勝手に話を進めるな!」
俺はそう叫びながら飛び起きた!
とっくに朝日は昇り、部屋のカーテンからその光が差し込んでいた。
そう、紛れもなく朝の合図である。
「一体何の夢だったんだ」
あの音声だけの夢はこの記憶の中に鮮明に残っていた。
そのため、朝の支度をしている間もその夢のことを考えることに思考が乗っ取られていた。そのおかげで、いつもより家を出るのが遅くなったのはまぁ、どうでもいい話であろう。
*****
俺の名前は浦川笹野。本当にただの男子高校生だ。(一年生)
友達もほどほど、学力もほどほど(平均点のちょっと下)という感じの面白みのない奴だ。
行った高校もただの公立高校。
そんな普通の俺は昨日、普通ではない夢を見たのだ。
それは、とある女の声に「シニガケ契約」とかいう怪しい契約を催促されるという音声のみの謎な夢である。
改めて聞くと、本当に謎な夢である。
その夢によれば、今日に使いの者を送ると言っていたが、正直、全く信じていない。逆に夢の内容を本気にするやつがいるのなら教えてほしい。
高校に着くと、何やら皆さんいつもよりもかなり賑わっていた。
「随分と賑わっているな。何があったのか?」
「察しがいいな。今日、転校生が来るんだってさ」
俺の問いにそんなキザに答えたのは、友人である蘇理川裕也である。
「転校生だって?」
「ああ、そうだ、しかも女の子らしいぜ」
「女の子だからって必ずしも可愛いとは限らないだろ」
しかし、裕也は俺のその声は聞き入れずに、目を輝かしながら、ワクワクとしていた。
俺はそんな彼に呆れながらも、そいつの後ろの席に座る。俺は一番後ろの窓際という誰もが羨む席の持ち主なのだ。
「それにしても、転校生の席となったら、やっぱりお前の隣になるんじゃないか?」
「確かに、そういえば空いているな」
俺は机に突っ伏せながら、その空席を眺めた。
───可愛ければいいのだが。
───使いの者を送る。
俺はふと夢で聞いたその言葉を思い出した。
もしや、その転校生は例の使者なのではないだろうか。
いや、そんなどこかのフィクション作品で見たことあるような展開があるわけがないだろう。
俺は自らの頬をパシパシと叩き、頭を冷やした。
「俺、ほんと、どうかしてるな」
どうも今日は朝から調子が悪い。
俺はより深く机に突っ伏す。
これは疲労を表す姿勢だ。
「どうも、疲れてそうだな」
「なんか、妙な夢を見たんだ」
「夢?」
裕也は首を傾げた。当然の反応である。
「まあ、夢なんかに一喜一憂するもんでもないと思うぜ」
「まぁ、そうだな」
俺は気を切り替えるために、ひとまず面を上げた。
こういう姿勢を取るだけでも、不思議とポジティブな気持ちになるものである。
「お、なんか気が楽になったな」
そう感じた。
*****
「はーい、じゃあみんな座って」
暫くの間が経ち、担任の横井先生が教室に入ってきた。
うん、この人ほんとにスタイルがシンプルだな、絵として描くとなると、湾曲が少なくて楽に描けそうだ。特に胸の辺りとか。
「というわけで、今日は多分、みんなの耳にもとっくに届いていると思うが転校生が来たようだ。なかなか急だと思うが臨機応変に捉えてくれ」
「先生!転校生ってどんな子?!」
前のほうの席に座る男子生徒が手を挙げながら意気揚々に訊ねた。
すると、教室内のクラスメート共はそれにつられ、どんどんと騒がしくしていく。このうるさい空気を作ったのは紛れもないあの男子生徒だ。これが空気を動かす陽キャとやらの力であると俺はなぜかこの時に実感した。
「ああ、お前らとりあえず黙れ!今から紹介するから!騒いどったら、紹介できるもんもできんやろうがい!」
「さーせん」
クラス一同がそう声をハモらせた。
「じゃあ、入ってこーい」
横井先生がそう廊下のほうに声をかけると、教室のドアが開いた。
───瞬間、その入ってきた女の子に教室の人間、皆が見惚れた。
輝かしく、黄金に光る金の長髪。
サファイアのように光り輝く瑠璃色の瞳。
そして、何とも湾曲が滑らかなその身体。
そのあまりの美貌にクラスメートは目を丸くして彼女を眺めていた。
横井先生は完全に負けたのを悟った顔をしながら、自らの胸を揉んでいる。
そう、その彼女を見た目は……まるで……。
───まるで、天使だ。
彼女は長い髪を後ろに払いながら、様になる顔つきで言った。
「白羽……天です。どうぞよろしく」
その言葉が終わった瞬間、教室に幾つかの秒が経った。
その間、続くのは、ひたすらの沈黙である。
そして、その沈黙はとある男の発言によって、華々しく打ち砕かれた。
「よっしゃー!キタキタキター!」
それは紛れもない俺の前方にいる友人、蘇理川裕也であった。
そして、他のクラスメートはそれにつられ、また騒ぎ散らかす。
さっきも見たぞ。この光景。
「じゃあ。白羽さんはそうだな……浦川の隣にでも行くか」
まぁ、だろうな。
そして、俺の隣の席に美少女のほぼ天使がやってきた。
男の視線が痛いぜ。
そして、なぜか、この転校生、白羽天の視線も不思議と感じる。
恋する視線ではない。何やら、チクチクと刺さる、痛い視線である。
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