第5話 朝が来て
――未来の俺は、幸せ者だな。
翌朝。リンはぼんやりとしたまま目覚めた。何故か一日分の記憶はなく、自分が何処にいるかも判然としない。
(何処だ……? 俺は、部屋で寝て……ん?)
ぼーっとしていた思考が徐々に鮮明になるにつれ、リンの耳に聞き覚えのある音が忍び込む。それが寝息や寝言だと気付き、リンはそっと上半身を起こす。体の横が熱を持っていることも、起きればその理由がわかるだろう。
「……何で雑魚寝?」
第一声はそれだった。
リンを中心に、克臣やユーギたちが布団を敷いて雑魚寝している。何やら寝言を行っている者もいるが、自分以外は全員夢の中らしかった。
(何かあったのか? ……そうだ。横が熱く……て!?)
はっきりしていたと思っていた感覚は、まだ目覚めていなかったらしい。リンは自分の真横で眠る恋人の姿を目にして、今度こそ覚醒した。
(なっ……何で、ここに!?)
一気に体温が上昇したのを感じ、リンは大きな音をたてなかった自分を褒めたくなったがそんな余裕はない。自分にくっついて眠っている晶穂を起こさないよう、少しだけ距離を空けようとした。
その時、部屋の戸が音もなく開く。明るさに目を細めたリンは、顔を覗かせたジェイスと目が合う。
「おや。……もとに戻ったんだね、リン」
「ジェイスさん……? もとにってどういう?」
きょとんとしているリンに、ジェイスは「後で話すよ」と小声で言った。
「今ここでは、ちょっとね。時間も時間だし、みんなを起こそうか」
そう言うと、ジェイスは無慈悲に部屋のカーテンを開けた。ざっという音がして、明るい日差しが燦々と射し込んで来る。
「ふぁ? もう朝ぁ?」
「眩しい……」
「ほら起きて、みんな。朝だよ」
「ジェイス……? もう少し寝させ……」
「起きろ」
ジェイスが、タオルケットを頭の上まで被ろうとする克臣からそれをはぎ取る。それを見ていたリンは、思わず無慈悲だと思ってしまった。
そんなこんなで各々起き出す中、晶穂が起き上がって目の前にいるリンを目にする。
「……」
「……」
「……り、ん?」
「そう、だけど?」
リンが応じると、晶穂のぼんやりとしていた瞳に光が宿る。目覚めた晶穂は「リンッ」と彼の名を呼ぶと、そのまま嬉しそうに抱き着いた。
「うわっ!?」
「きゃっ」
勢いを受け止めきれず、リンは晶穂ごと布団に仰向けにダイブした。ぼすんっという音と共に倒れ込んだリンは、晶穂の「お帰りなさい」という言葉に目を丸くする。
「『おかえり』って……マジでなにがどうなってるんだ? 昨日の記憶はすっぱり抜けてるし……酒でも飲んだのか?」
「やっぱ覚えてないのか、リン」
「……? 克臣さん、あの……?」
晶穂に「驚かせてごめんなさい」と言われながら起き上がったリンは、その場にいた全員に見詰められて困惑する。どうやら、起きた『何か』を知らないのは自分だけらしい。
「びっくりしたよ、団長」
「本当に覚えていないんですね……昨日のこと」
「昨日、色々あったんですよ」
「聞いたら驚くよ、兄さん」
「……怖いんだけど」
口々に言う年少組の様子を見て、リンは顔をしかめる。ニヤニヤしている兄貴分たちを含め、知りたいような知りたくないような気持ちだ。
複雑そうな顔をするリンに、晶穂は小さく笑ってから口を開いた。
「リン。朝ごはん食べながら、教えてあげる。昨日何があったのか」
だから、行こう。そう言って晶穂が手を差し伸べると、リンは「仕方ないな」と苦笑してその手を取った。
みんなで協力して布団を片付け、朝食にする。その席で、リンは自分の幼児化について知る。幼い姿で記憶も当時のものになった自分が、何をしたのか事細かに知らされるのは、変な気分である。
(……だから、幼い自分と向き合ったような夢を見たのか)
照れも驚きもあったが、リンは一人妙に納得するのだった。
――了
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