善良な悪意
小学生の時分であったか、授業中の回答を間違い、教室中に笑いが起こったことがある。私は少しの恥ずかしさはあったものの、いつもの事であったから特段気にしていなかった。しかし、その時の授業担当がおもむろに教壇を降りたかと思えば、私の席まで来て、私の腕を引いて教室の外まで引っ張って出、次のような言葉を発した。
「あなたはもっと賢い子。それをちゃんと分かってくれる人がいるからね。」
返事に困ったが、取り敢えず「はい。」とだけ答えると満足そうに教室に戻った。
子供達は純粋に間違いを笑っただけであり、恐らくは私を笑った訳では無い。人を嘲る声はあんな和気藹々とした空気にはならないことは経験で知っているから、それは何となく分かっていた。しかし、その教師の目にはただ一人を笑う異様な光景に見えたのだろう。しかし、未だに私はあの言葉には釈然とせぬ。私が皆に理解されていないような物言い。確かに笑われはしたが、普段からそんな空気ではないし、他の者が間違っても幾らかの笑いは起こるクラスだ。
少し穿った見方をすれば、あの教師の真意は私を辱めることだったのではなかろうか。心配するフリをして、「あなたは今皆から嘲笑の的となっている。」と遠回しに伝える言葉。善意に満ち溢れるように見える言葉。されど、そこには悪意があるように感じられる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます