第5話

長くて綺麗だけど、わたしの手とはやっぱり違う、男の人の手。世間がイメージするような普通の男子高校生、普通って言い方は良くないのかもしれないけど、男の人が好きな感じには見えない。



「引いた?」


「え」


「男が好きって言ったこと」


「引くと言うよりか処理が追いついてないと言うか」



さっきまで微動だにしなかった筈の足が不思議と後ずさる。



これもまた防衛本能なのかな、逃げるべきだと身体は正直。



「ただ」


「ただ?」



ただ、予想外で、まさか加賀くんが男の人を好きなんて思わなかったし、この間だって瀬戸中さんと歩いてるのを見かけたし瀬戸中さんと付き合ってるって噂もそれをきっかけに広まってて、それが本当か嘘かで悩んでモヤモヤしてた時もあって、


その噂は嘘であったことが今、確認できて、なーんだ嘘なんだ、ハッピー。みたいな安堵感な気持ちを一切感じさせない程、発言が衝撃でした、なんて絶対言えない。



そのままの今感じているものをそのまま伝えられるほど、強くないし、そもそも加賀くんと仲が良いわけじゃない、むしろ加賀くんにとってわたしは初対面といってもいい程の浅い浅い関係性。



ただ。と口から出たは良いもののなんせ咄嗟に出たもの。見切り発車。ただと言ったからにはいい感じにまとめに入らないといけなくなってしまったがネガティブに近い言葉しか思い浮かばない、衝撃とか複雑とか、そんなのちゃんと返事してくれた加賀くんに失礼過ぎる。





「好き、なんですよねー」





静まり返るって表現が今、とても身に染みてる。ふざけ過ぎた。明るく語尾なんか伸ばして伝えてみたけど、間違えた。とても間違えた。絶対間違えた。黒歴史が確定した、どうしよう。とりあえず、



早く夏休みきて。

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