第109話

「…….まぁ、今飲む気にはならないしな。

二本抜いて如月に渡しておく」


「え?二本ですか?」




二本抜いて如月に渡し、残った二本は開理に渡した。

後で解析してもらい、安全を確認した上で飲ませればいい。




「開理。後で解析しておいてくれ。

…….まぁ、あいつが作ったならなんの問題もないだろうがな」


「わかった。…でも、なんで二本なんだ?」


「俺はいらない」


「なんでだよ!」




ここで掴みかかってきたのは、なんと大地だった。

他の面々も納得いかないような顔をしている。



「飲まなきゃ、あと数年しか生きられねぇんだぞ!」


「さぁな」


「はぐらかされないからな!如月さん!

一本湊さんに渡してください!」


「あ、あぁ…」


「いらない。余ってるやつは蜘蛛で増産するのに使え。

ゼロもそのつもりで渡してきてるはずだ」


「増産?なんで…」


「俺ら以外にもいるだろ。

……蜘蛛は表社会とも繋がってる。

俺らみたいなやつは戸籍もないからな。

お前らが保護してくれなきゃ、生きていけねぇだろ」


「でも!…それでお前が死んだら、意味ないだろう」


「俺は死なねぇよ」


「なんでそう言いきれんだよ!

湊さんだって人間なんだ!」


「…………ハッ。人間?俺が?」






開理がハッとした顔をする。


もう、開理は思い出している。

あの日、倒れた日々に、全部。




だから、俺が"何か"を知っている。






「残念ながら、俺は人間じゃない。

だから、死なねぇよ」


「え………?」









困惑した空気が広がる。


秋信の顔が険しくなった。






秋信は、気づいている。








わざと気づかせたのは俺だ。









そうすれば、こいつは俺を"警戒"する。









「……湊さん。それはどういう事だ?」



鋭い瞳で如月が俺を射抜いた。


毒入りのカップを指で弾く。

カーン、と軽い音が部屋に響いた。





「…いくら慣らしてると言っても、ここまで効かないなんてあると思うか?」


「………………?」




もう一度カップを指で弾く。

軽い音がまた部屋で響いた。



如月がそれをじっと見つめる。






その瞳が、ゆっくりと見開かれた。


こちらに顔を上げて凝視している。

その顔に向かって、にぃっと笑った。









「お、…お前、生まれた時死んでたって、言ってたよな」


「……あぁ」






ガタガタと震える如月を見返す。


まだ状況についていけていないらしい、開理と如月、秋信以外の全員は戸惑ったように俺らを見ている。





「一体、…………なんだ?」





頬杖をつき、カップの縁を指でなぞった。

ほんの少し欠けていたらしい場所で指を切った。





赤い血液が、机の上にシミを作る。







「さぁ?……俺にもわかんねぇよ」


「……………俺のせいだな」


「それは違うな」




立ち上がり、俯く開理の背を叩いた。

苦しそうな顔をする開理を見ているのは、苦しい。






「……死ねない身体」


「…死ねない体、だと?不死ってことか?」





案の定如月が食いついてきた。





「死ぬ方法がないわけじゃない」


「じゃあ、どういうことだ?」


「ある程度で成長は止まるし、傷の治りもヒトより何倍も早い。

……3年前、俺は湊として死んだ。

その時の傷が深手だったのは知ってるだろ」


「あぁ。……部屋に大量の血痕もあったって」


「そう。それなのに、数ヶ月で回復して動き回った」


「……………」


「少し記憶障害はあったけど、それだけだ。

普通なら死んでる」


「……不老不死に、近いってことか?」


「不完全なものだけどな。

さすがに、焼却炉に突っ込まれれば死ぬし」


「うっわ…。さすがにそれはしたくないな」


「目を潰されたり足を切断される程度なら治る。

少し時間はかかるけどな」


「マジか…」





とても信じてもらえなそうな反応だが、とりあえず嘘はついていない。



そして、ちゃんと必要な情報は流している。

ゼロの計画通り、か。





嘲笑が漏れた。

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