悪役令息だけど攻略対象者が迫ってくる。

deruta6

第1話 悪役令息転生です

救急車の音が聞こえている。直哉、と呼ぶ声。血がたくさん出ている。

ああ、死ぬのかな俺。

従兄弟の結婚式で死ぬとか、迷惑極まりないよな。でもいいか、あいつクズだし。

俺には、篤郎という名前の従兄弟がいた。5歳年上で、俺からしたら兄のようなものだった。お下がりの服やおもちゃをくれたり、遊んでくれたりしたから、直哉もあっちゃん、あっちゃんと呼んで懐いていた。中学生に上がったころ、篤郎が家に泊まりにきた。篤郎は俺のベッドに潜り込んできて、いたずらをしてきた。混乱して、誰にも言えなかった。何度かそういうことがあったあと、篤郎が突然家に来なくなった。

彼の結婚が決まったと聞いたのは、その数ヶ月後だった。

新婦と腕を組んだ篤郎が、バージンロードを歩いている。背後では、姉と母がヒソヒソと囁いていた。

「おめでただって〜」

「お相手、新入社員の子なんでしょう。篤郎くんってば手が早いのね」

ふと、篤郎と視線が合った。俺はふい、と視線を逸らす。拍手して、おめでとうって笑うのか? 馬鹿げてる。帰る、と言ったら、母たちがポカンとした顔でこちらを見た。結婚式場までは車で来たけど、駅まで歩けばなんとかなるはず。俺は式場を出て、駅に向かって歩き出した。そのあとのことは、よく覚えていない。突っ込んできた車に轢かれて──俺は、死んだんだと思う。

ぐるぐる回る走馬灯を見ながら俺は祈っていた。どうか生まれ変わったら、可愛い女の子と恋愛ができますように……。


「──アルヴィン!」

 ある?

知らない名前で呼ばれて、俺は目を覚ました。可愛らしい金髪の女の子が、こちらを見下ろしている。この子、天使みたいだな。ここは天国かもしれない。ぼんやりしていたら、いきなり髪を掴まれた。顔を上げると、やけに美しい顔をした男がこちらを見下ろしていた。なんか見たことある顔だな。どこで見たか思い出そうとしたら、蹴り飛ばされた。女の子は、泣きながら美形に縋り付いている。

「レオ、やめて!」

「約束だ、アルヴィン。勝負に負けたんだからさっさと学園を去れ」

 なんか勝手に話を進められちゃってるんだけど。俺は商業高校に通っていたが、学園って呼ばれるような大層な代物ではなかった。

 レオと呼ばれた男は、俺の身体を放り投げた。植え込みがクッションになり、わずかにバウンドする。レオと女の子は、俺を置いて歩いて行ってしまった。学生服を着た連中は、俺を遠巻きにしている。普通大丈夫? とか救急車呼ぼうか、とか言ってくれるもんじゃないのか。俺もしかして、すごい嫌われ者? 見渡してみても知らない顔しかいないのだが。

俺はなんとか起き上がり、フラフラと歩き出す。中庭を歩いていくと、西洋風の回廊が見えてきた。回廊の壁には、大きな鏡がかけられている。そこには、細身の美少年が映っていた。肌は白く、頰についたばかりのアザが痛々しい。サラサラした金髪と、青空のような瞳。グリーンのネクタイと、魔法使い風のローブ。思い出したぞ。この美形だけどどこか皮肉っぽい顔立ちは──。俺は顔を覆い、真っ青になって叫んだ。

「俺、悪役令息に転生したっ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る