DEATH BRINGER

なんか書く人

一日目「衝動」

「なんでも望みを叶えてやろう。」

ある日、俺の目の前に現れた悪魔はそう言った。

「ただし代償はただ一つ...」

願いは叶った。大したことない願いだった。


DEATH BRINGER  一日目「衝動」


 晴れやかな冬の昼下がり、少し古びた学舎で今日も授業が終わり下校時刻になった。巧は幾度思い通りの成績も取れず苦痛でしかない授業をサボろうと思ったか、幾度自殺してこのつまらなく面白みもない人生をなげだしてしまおうと思ったか。しかし巧にはサボったらまずいと考えない蛮勇も痛みに耐える精神力もない。

 すぐ帰宅するにも喉の乾きを感じ、巧は各々が友達とさっさと帰宅しようとしている最中立ち上がらずにペットボトルに入ってるコーラを一口飲む。炭酸はもうほとんど抜けていて甘ったるい液体が彼の喉を抜けていく。

「巧って進路決まってたっけ?」唯一の友達である正人が机を叩きながら話しかけてきた。

「まだだよ。そういうお前は決まっているのか?」巧は自分の自慢をしにきたであろうこの友人を不愉快に思いながらいった。

「それがよー!俺推薦であの松中大学に行くことにしたんだ!」松中大学といえばこの県でトップを争う私立大学だ。

「良かったじゃん。君の成績なら行けるでしょ。」

「良かったよーお前も早く進路決めろよぉ!」

「余計なお世話だよ。」巧は笑いながら正人の肩を軽く叩く。だが心の中ではこの無神経な友へ対する憎悪でいっぱいだった。

「んじゃ一緒に帰ろうぜ!」

「すまない。今日はちょっと寄るところがあって一緒には帰れないよ。」もちろん用事など何一つない。巧はこの喋るだけで不愉快な友人と一刻も早く別れたかった。

「待って当てるわ、バイトだろ?」

「まぁそんなところだ。」そう言い捨て巧は教室をそそくさと出ていった。

  巧の家は学校から歩いて五分の場所にある二階建ての築十年の一軒家だ。なんでも巧が生まれたことを機にマンションから引っ越した思い入れがある家だと両親は誇らしげに言っていた。

「おかえりー」そうリビングから言ってきた母親を無視し二階の自分の部屋へと急ぐ、巧はいつも晩飯の時間まで寝ている。巧にとって寝ている時だけは自分の悩みを忘れられる時間だった。

 巧がドアを開けようとした時、背中に原因不明の悪寒が走った。開けてはいけないと本能が巧に叫んでいる。

しかし、巧は開けてしまった。

そこには巧が見知った自分の部屋ではなく、何も無い暗黒の空間が広がっていた。

巧は興味本位でその暗闇の中に入り奥へ進んでみる。奥へ奥へ進んでも何もなく、いつもの自分の部屋の大きさを有に超える空間がそこには広がっていた。

「石井巧だな?」急に背後から低い落ち着いた声で問いかけられる。巧はばっと振り返ったが誰もいない

「誰だ!」巧は柄にもなく叫んでいた。ここへ巧を誘った好奇心はどこへいったのやら巧の心は恐怖心で満たされていた。

「心配するなお前に危害は加えん。」またこの声がどこからか聞こえてきた。

「ただ、お前と取引をしにきた」

「取引?」

「そうだ。」「何でも願いを叶えてやろう。」

「...なんでも?」巧は訝しげに聞き返した。

「そうだな。他者へ直接影響を与える願い以外なら何でも叶えられる。」

「なら...」「ただし!」巧の声を遮って謎の声は言う。

「ただし、代償はただ一つ。お前の今までの人生はなくなるに等しい」

「なんだ?その代償は?」

「今後一日に一回人を殺さなければお前は消滅する。」

巧は葛藤していた。殺人とはあまりにも重すぎる代償、普段から運動もしていない自分が人なんて殺せそうにもないし、なにより今後毎日人を殺すなんてメンタルが持たない。しかしこの条件さえ飲めば願いを一つ叶えてもらえるのだ。巧は決心した。

「わかった。その条件を飲む。」

「願いを言え。」謎の声は冷たく言い放つ。

「俺は将来なんて考えずに遊んで暮らしたい。現金を5億ください。」

「その願い叶えたり。」その声とともに暗闇が巧の足元からすぅぅ...と消え元の使い慣れた巧の部屋に戻っていった。暗闇が消える直前、暗闇の中に人のようなものが見えた気がした。

巧は足に違和感を感じ、下を見ると札束がごろごろと床に乱雑に置かれていた。それを見た途端、莫大な疲労感に襲われ自分のベットへ倒れ込みそのまま眠りについてしまった。


どのくらい時間が経ったのだろうか。ドアをノックする音で巧は起きた。

眠い目をこすろうとしたところで違和感に気付いた。「指の感覚がない。」思わずつぶやき少し混乱する思考の中で巧は気付いた。時刻が11時45分を回ろうとしていたのだ。

現金を受け取っていながらまだあの謎の声が言っていたことに半信半疑であった巧は軽いパニックに陥った。その時、二度目のノックで思考を遮られる。

「お兄ちゃん、晩ごはん食べないの?」妹の声だ。

「お母さん食器洗っちゃいたいんだって早く食べにきてねだってさ。」そう言ってリビングに戻ろうとする妹に巧は言った。

「ちょっとそこで待っていてくれないか?」

巧は動転していた。もう時刻は11時50分、今ここで誰かしらを殺さないと自分が消滅する。しかし妹は殺したくない。巧はまたもパニック状態になっていた。

しかし妹はこちらの状況など一ミリも知らない「どうしたのお兄ちゃん。待ってるのはいいんだけど廊下寒いから部屋の中入るよ?」そう言いながらドアノブを捻る。

こんな現金が乱雑に置かれている状況、見られて言い訳もできない。巧の思考は停止した。

「え⁉️おにいちゃんどうしたのこんな大きn...」言い終わる前に巧は妹の体を押し倒し首を絞めていた。妹は「たすけt...」とか細い声で言いうめき声を発しながら、首を締めている手を掴んで推し戻そうとしたが、中学生の妹に高校生のしかも男の力に抵抗できるわけもなくうめき声が止まり少しした後、締めている首から「ボキッ」という軽い音がして巧は我に返った。

最初の殺人だった。

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