早起きに疲れたニワトリ、ナマケモノを志す
@sasa930
第1話
燃えるような朝日であった。
それは雲を舐め、天を焦がし、凍りつける夜空を溶かしていった。
わずかな時間で空を焼き尽くすさまは、まるで若鶏の鶏冠のように荒々しく、気高く、美しかった。
伝承に曰く、朝焼けの炎は、鶏の命を燃料にする、と。
ならば燎原の火のごとき今日の空は、いったい何羽を贄に求めるのだろうか。
不吉な予感を頭から振り払い、Kはようようと一番鶏の雄たけびを上げた。
今日は卵を産まなくてよい日なのである。つかの間の休息にハツが高鳴った。
17世紀の英国よりも過酷な労働環境が、ここにはあった。
「俺はいつか、議員になって、ニワトリ版労働基準法を立法してやる!」
「いや、労働組合を作って、労働環境改善とベアを求めよう!認められないようならば、サボタージュも辞さぬ」
ひよこたちの熱い議論の中、その熱を醒ますのは、決まっていつも長老の鶴の一声である。
「おいおい、我らに被選挙権があるとでも?団結権や団体交渉権があるとでも?下らんことをのたまう暇があるならば、まずその鳥頭に常識を詰め込め。腹に米と野菜を詰め込まれて食卓に並びたくなければな」
「長老!人間界のから揚げとやらについて教えてください!」
「長老!鶏と卵はどちらが先なのですか?」
厳しい叱咤にもめげず、ひよこたちが彼のもとへ駆け寄ってゆく。
ニワトリ界は今日も平和である、と、思われた。
ぱたむ、、
なんの前触れもなく、長老がゆっくりと倒れていった。
Kは群がる黄色いもふもふたちを押しのける、と同時に脈をとり、脇に手羽先を差し込んで熱をみる。
おもむろに首を横に振り、ひよこたちを振り返った。
離れろ。うつるぞ。鳥インフルエンザだ。
彼はくちばしだけでそう言った。
インフルだろう…?わかっている。私はもう助からない。
長老は手羽先を差し出し、そっとKの羽を握った。
私はね…ずっと外の世界に憧れていた。外の世界にはナマケモノとやらがいるらしい。なんでもそいつは、フクロウよりも遅起きで、とにかくずっと寝ているという。優雅だろう…?私は君たちに、そんな自由な毎日を過ごしてほしかった。早起きを強要されず、人間たちに搾取されることもない、平穏で満ち足りた毎日を…
長老死すとも、自由は死せず。
私の願いを現実にできるのは、君たちだけだ。
まずは周辺を探索したまえ。外の地図、太陽から方角を読む方法、見張りが薄くなるタイミングは、暗号にしてこの鶏小屋のどこかに隠してある。
制限時間は明日の夜明け、飼い主が卵を取りに来るタイミングだ。鳥インフル発生を知られてはならぬ、人間に伝われば最後、一匹残らず殺処分となるだろう。暗号を解き明かし、数々の困難を乗り越え、今すぐにここから脱出せよ!
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