雨がふればいいのに

律王

『雨がふればいいのに』

『雨がふればいいのに』


 てるてる坊主を握り潰す彼女の手は震えていた。

 父が言った。

「お母さんが天国にちゃんと行けるように、明日は晴れたらいいな。」

 雨が止めば母は煙に乗って昇ってしまう。高く高く、私では決して届かぬ場所に。何故大人はみんな何も思わないのか。昇ってしまえば、もう会うことは出来ないのに。冷たくなっても、笑わなくなっても、頭を撫でてくれなくても、母は母としてそこにいるのに。

 雨がふればいいのに。そうすれば、煙は上には昇れないのに。そうすれば、母とずっと、いられるのに。

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雨がふればいいのに 律王 @MD_aniki

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