クズ転生 ~男は異世界で、最低なクズを目指す~

蒲焼龍魚(かばやき・りゅな)

序章

序の一

いい人の死

「おい、まだ動いてっか?」

「いいや、死んでるな」

「はっざまぁみやがれってんだ」


 そか、死んだかオレ。


 たまたまさ、レイプされてる女を見たんだ。


 予備校の帰り道。


 いつもだったら絶対通らない公園の中の道をさ、なんの気まぐれかついつい通り抜けようなんて思っちゃってさ。


 悲鳴がね、聞こえたんだ。


 助けて!!ってさ。


 だから無我夢中で駆けつけて、無我夢中で助け出して。


 ボコられて、死んだ。


「金ぬいたか?」

「おお、しょっぼかったけどね」


 ああ、心でもなお、所持金程度のことでディスられる人生ってなんだろう。ふざけんじゃねぇってんだよ、オレは完全にキャッシュレス派なんだよ。


 なんて、ね。


 もうどうでもいいや。


 ずっとずっといい人をして生きてきた。


 イヤなことを率先してやって、人助けに躊躇なく、悪態をつかず、悪口を言わず、SNSで暴れたりもせず。ただただ、大人しく、目立たず、社会の求めるホワイトな人間を目指して生きてきた。


 なんにも楽しくなかった。


 タバコ吸いたかったな。


 倒れるほどお酒飲みたかったな。


 喧嘩してみたかった。



 それと。


 レイプ犯に殺されるくらいなら、オレがむしろ……。


「死ねクズ!」


――ガスッ。ゴクッ。


 死人に鞭打つような、極悪非道な人間に。


 なりたかったなぁ。

 



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