最終話 二人は恋人

 そして、正午……。


 エロコンパ島に迎えの漁船がやって来る。船に乗ってやって来たのは、あの時の漁師のおっさんだ。


 殺人事件があったと俺がおっさんに告げると、おっさんは顔を真っ青にして、腰を抜かす。しばらく、おっさんはビビっていたようだが、何とか気持ちを落ち着かせ、船はエロコンパ島を出航する。


 水しぶきを立て海を走り抜ける漁船の船尾に、俺は立つ。そして、強い風を受けながら、俺は振り返る。


 どんどん遠く、小さくなっていくエロコンパ島を見つめる。そして柄にもなく、島での出来事を俺はしみじみと思い出す。


 俺はまた振り返り、座ってうつむいているアイシアを見つめる。彼女の目は、失望の色に染まっている。


 一体、彼女はどうなるのだろう? 三人もの人の命を奪ったのだ。相当の罰を受ける事になると予想される。


 アイシアを助けてあげたかった。彼女の力になりたかった。


 俺は素直にそう思い、彼女の気持ちを早く察してあげられなかった事を後悔する。


 そして、船は俺達の住む大陸へと到着する。


 漁船が港に着くと、大勢の人間がこちらへとやって来る。全員、鎧で武装した騎士のような格好をしている。


 よく見ると、一人だけ俺の知っている人物がその中に紛れ込んでいた。その男は、合コン組織委員会のリーダー、ゴードンであった。


「サークさん、大変でしたね。殺人事件ですか? 後の事は我々、合コン組織委員会が処理します」


 ゴードンは俺の元に近付いて来て、軽く頭を下げてくる。


「もう、嗅ぎつけたのか? 早いな」


「我々は合コン内の治安を維持するのが役目。殺人事件など起きれば、すぐに駆け付けるのが道理。我々に全てをお任せ下さい」


 ゴードンの部下たちが、アイシアを拘束し、連行している。俺は目の前にいるゴードンの肩を掴み、呼び止める。


「ゴードン、アイシアさんは、これからどうなるんだ?」


「これから、裁判となります。そこで彼女の刑が確定します。アイシアさんには同情する余地はあるものの、さすがに三人も殺したとなると、無期懲役になるかと……」


「そんな、彼女は悪い人じゃないんだぞ。どうにかしてくれ」


「分かってます。でも、人殺しは許される行為ではありません」


 俺はゴードンの言葉で、がっくりと力を落とす。そして、騎士たちに連れて行かれるアイシアの後ろ姿をじっと見る。


 ダメだ、こんな終わり方。納得がいかない。俺は今、何をすべきなんだ?


 俺は胸が熱くなり、アイシアのすぐ後ろに駆け寄る。そして、俺の想いを彼女にぶつける。


「アイシアさん、俺は君の事が好きだ。だから、君の事をずっと待ってる。君が罪を償って帰って来るのを俺はずっと待ってるから。俺の彼女になって欲しい。君を愛してる」


 アイシアの足がピタリと止まる。アイシアは目を閉じ、うつむいている。しばらくの間、そうしたままの状態で動かない。そして、彼女は意を決したような顔になり、俺の方に振り返る。


 さぁ、俺の胸に飛び込んでおいで。君を必ず、守るから。


 俺は両手を広げ、アイシアを迎え入れる準備をする。


「ゴメンなさい、サークさん。私にも男の人を選ぶ権利があるので、お断りします。お気持ちは嬉しいんですが、あなたは無理です」


 アイシアは深く頭を下げる。俺は呆然とし、その場に崩れるようにひざからしゃがみ込む。


 え、何で? 何で、フラレたの? 俺?


 俺の頬に涙が伝う。アイシアはまた振り返ると、鎧の騎士たちと共に向こうへと歩いて行く。


 絶望の淵の俺は、脱力した状態でチラリと横を見てしまう。


 申し訳なさそうな顔で、愛弟子のクルスが俺の方を見ている。その横には、レミカがクルスに寄り添うように立っている。クルスとレミカは手を繋いで、互いに顔を赤らめている。


 あ、君たち、エミノールさん殺害の時に、俺に内緒で部屋に居たよね? あ、そういう事なの? 君たち、もう付き合っているの? 俺に気を使って、内緒にしてたのかな? 


 俺は声を上げて、泣き狂う。


 探偵役、カッコよかったもんね。そりゃ、女の子、惚れるよ。うがあっ、弟子に先を越された。師匠の俺より先に女の子と付き合うなんて、ズルいぞ。俺は、悔しい。


 しかし、友として俺は、クルスを祝福せねばなるまい。それが男だ。バカヤロー。


 俺は涙を拭いて、立ち上がる。すると、クルスがゆっくりと俺に近寄って来る。


「スイマセン、サークさん。僕とレミカさん、お付き合いする事になりました。サークさんにはホントに申し訳ないと思っていて……」


「言うな、弟子よ。弟子の幸せを祝福せぬ師匠などいてはならない。良かったな、クルスよ。もう、お前に教える事はない」


 俺はクルスに背を向け、走り出す。涙が滝のように流れる。クルスの俺の名を呼ぶ声が聞こえる。それでも、俺は足を止めない。止めたくないのだ。


 こうして、俺は泣きながらギルドへと辿り着く。そして、涙を拭き、ギルドの受付へと足を運ぶ。


 そこで俺は爽やかに次の合コンの予約をする。そして、俺は家へとそのまま帰った……。

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