宣誓! 息子の俺、父親を寝取ろうとしている相手と戦い抜くことを誓います!
秋乃晃
アグロ ビートダウン 違い 【検索】
年に四回、季節ごとにメッセで行われる公式大会。
俺は運だけのアグロ野郎にやられた。
ストレート負けである。
もうカードゲーマー辞めようかな。やってられんわ。前々から「向いてないかもです」と思っていたが、今日はマジマジの大マジで引退を考えるレベル。
ああいう、
こんな日はバーガーキングに行くしかないよネ。
デカいハンバーガーにオニオンリングのセット、飲み物はドクターペッパーにした。あまりにもむかつくから普段は買わないアップルパイとソフトクリームを付けちゃう。
ストレスには上からフタをしないといけない。食事が最適解だと思う。
「結構いい値段するじゃん」
スマホで相場をチェックしてみる。昨今のカードゲームブームにあやかって、俺のデッキの主力やコンボパーツが高騰していた。いうて、大会前にリリースされた新弾のせいでアグロ一強の環境になっちゃった(特に今日! 今日の大会! アグロ握っているヤツしかおりゃん)から、下落するのかもなあ。手放すなら今なのか?
メタは回る。今回の結果を見て、運営には反省してほしい。ミッドレンジでつよつよの盤面を作ってこそだろうが。この一戦をコントロールする。コンボが決まったときの脳汁がたまらないわけですよ。アグロキッズは対話を拒否している。勝って気持ちよくなりたいだけの自慰デッキですわ。マジで。
「でもなあ……」
これほど流行ってしまう前からこの
一戦目の女の子は地雷系ファッションで、わりと可愛かった。二戦目の男は後ろのほうで彼女っぽいスレンダーな女の子が応援していた。
これまで、公式大会に出てくるようなヤツって俺みたいな『中肉中背』タイプが多かったよな。前回ぐらいから女の子の参加者が増えてきて、今回は女性限定大会があった。
そんな子も彼女持ちも、揃いも揃ってアグロを握っている。世は大アグロ時代。
きぇえええ。悪霊退散! 悪霊退散!
「ねー、おじさぁん。アタシぃ、この期間限定の、食べたいなぁー」
「さきほどスターバックスのフラペチーノを飲んだばかりではないか。ワッパー、食べきれるのかい?」
む。
聞き覚えのある声だ。特に家の中で。
「そっかぁ……なら、残ったぶんはおじさんが食べていーよ?」
ギャルだ。見るからにギャル。もう絵に描いたかのようなテンプレで固め打ちのギャルが、スーツ姿の『おじさん』の右腕に絡まっている。その『おじさん』の肩にあごをのせて、瞳にハートを浮かばせながらだ。
聞き覚えのある声はこのギャルが発しているものではない。残念ながら『おじさん』のほう。一つ屋根の下にギャルはいないんだよな。
「何やってんだよ、オヤジ!」
あれだ。あれだと思う。パパ活。そう、パパ活。と見せかけてというやつだ。俺にはわかる。ギャルよりそのおじさんと付き合いが長いからさ。
俺は席を立ち、オヤジとギャルの前に立ちはだかる。いらっしゃいませ! 現行犯! ご注文は何にいたしましょうか!
「お、おお、
なんとか明るい表情で受け答えしていたオヤジが、この俺という救いを見つけてほっとした表情を浮かべる。
オヤジのことだから、オヤジがギャルを買ったのではない。今日のオヤジは休日出勤だった。午前中の仕事を終えた帰り道にギャルに捕まったのだ。オヤジはそういう星の下に生まれている。
「うわ。なんだよ」
ラブラブカップルモード全開だったギャルがオヤジから離れていく。なんだよってなんだよ。俺はそのオヤジの息子であるぞ。高校時代は『とにかくモテたい
安心してください!
振られますよ!
「またデートしてほしいなぁ……?」
ギャルはスクールバッグからノートを取り出すと、さらさらと文字を書く。そのノートの切れ端を、オヤジの手に握らせた。インスタのアカウントだと思う。DMでやりとりしようっていう魂胆だ。オヤジがインスタやってるわけないだろ常識的に考えて。いや、やってる人はいるかもだけど、俺のオヤジは突然出会ったギャルと恋仲にはならないから!
「な・い・で・す!」
俺はオヤジの手から紙切れを奪い取って、ダッシュしてダストボックスに投げ込む。奪取してダッシュ。こーゆーのは即行動に移さないといけない。相手の目の前で動いたほうが効果的。
「何すんのさ!」
ノーチャンです! ノーチャンス! 若さでごり押せばいけると思うなよ!
「奏音、捨てるのはやりすぎではないか?」
「オヤジぃ!?」
俺のオヤジは光村
「うちの息子が申し訳ない……」
ギャルに謝るオヤジ。謝らんでいい。
「い、いえ! アタシこそ、すみませんでした!」
お辞儀して去っていくギャル。そうだよ、それでいいんだ。
ちなみにオヤジは学生時代からモテにモテまくり『モテキング』として名を馳せていた、と俺の母親から聞いている。ちなみに、俺の母親とは、俺が中学を卒業して高校に入ったタイミングで離婚した。
ふたりは息子の俺の目から見ても、文句の付けようがなく仲睦まじい“おしどり夫婦”だったが、……だからこそなのかな、母親が母親という役割から解放されるために、ふたりは離れている。
で、俺はオヤジについていった。母親についていくのは、俺が“お荷物”になりかねなかった――というのもあるといえばあるが、本音としては、オヤジがどうしてこれほどまでにモテるのかを知りたかったから、というのが大きな理由だ。俺は『オヤジを支える』を選択して、本当によかったと思っている。
なぜなら、憧れのセンパイが同じ家に住むことになったから!
どうあがいても『モテキング』なオヤジは、フリーになった瞬間にありとあらゆる方角からアプローチを受ける。アプローチ勢の一人が、センパイのママだった。
センパイのママと再婚したら、センパイのママの連れ子であるセンパイが俺の家に住むようになるのは自然な流れだよな! ちかたないね!
俺のラブコメは、まだ始まったばかり。
まだ終わらせるわけにはいかない。
バーガーキングの脂質で今日の敗戦は忘れよう。そして、大好きなセンパイとセンパイのママがいる俺たちの家へ帰る。
そうだろ、オヤジ。
「なあ、奏音。今日は大会ではなかったのか?」
思い出させんなオヤジ!
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