レジェンド・オブ・セーフ
沙月Q
「伝説の安心感」カーの秘密
クルマの完全自動化が実現して半世紀。
人間がハンドルを握る必要もなくなり、ドライバーという言葉も死語になりつつあった。
そんな時代、長年に渡り人気、売れ行きともNo.1となっていたのが、とあるメーカーの完全自動乗用車「リジョンド」だった。
リジョンドの売りは発売以来、自動運転中の事故ゼロという安全性。
宣伝では「伝説の安心感」というキャッチフレーズが使われていた。
だが、その安全性には奇妙な噂もつきまとっていた。
確かに事故は皆無だったが、オーナーがクルマごと行方不明になっているという事実が多く発生していたのだ。
とある記者は、この「伝説の安心感」の裏を探るべく、リジョンドで故意に事故を起こしてみることにした。
自ら、リジョンドの前に飛び出してひかれてみようというのだ。
もちろん生身ではなく、最新技術で作られた防護服を用意し、身の安全を確保しての実験である。
実験本番、防護服に身を包んだ記者は、ガードレールをまたいで車道に入った。
助手を乗せたリジョンドが近づいて来ると、彼は避けようのないタイミングでその進路に身を投げ出した。
「!」
次の瞬間、リジョンドは消えた。
数秒後、彼の携帯が鳴った。
助手からだった。
「もしもし?どこにいるんですか?」
「いや、予定通りの場所で飛び出したんだが…」
「おかしいですね。僕も確かにそれを見たんですが、その直後、クルマが一分ほど前の位置に戻って、またそっちに向かってるんです…あ、あなたが見えました。もう一度行きます」
だが、通話を切って待っている記者の前にリジョンドは現れなかった。
どうしたことかと思っていると、再び携帯が鳴った。
「もしもし?どこにいるんですか?」
ちょうど、一分前と同じ声だった。
「もしもし?どこにいるんですか?」
一分経つたび何度もかかってくる電話に、記者は携帯の電源を切った。
リジョンドは確かに事故を起こさなかった。
そして、消えたリジョンドの行方も分かった。
リジョンドは事故に遭うと、タイムワープしてその一分前に舞い戻る。
本当は、その上で事故を避けるようになっていたのだろう。
だが何らかの不具合で、一分前と事故の瞬間の間を延々と走り続けるようになってしまったのだ。
どこか別の時空で…
「伝説の安心感」を支えながら…
完
レジェンド・オブ・セーフ 沙月Q @Satsuki_Q
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