死の螺旋
「お願いします! お願いします! どうか殺してください! お願いします! もう生きたくないんです!」
夜空に悲鳴が迸る。
それを眺める四人の男には満足感があった。
「大いなる神よ。異端に与える罰にご満足していただけたでしょうか」
幾何学的な模様が施された全身鎧から、しわがれた声が発せられる。
その周囲には目を抉られた女、手足を刻まれた男、焼かれた幼子などが十数人。惨たらしい死と悲鳴が溢れていた。
今もまた、少しずつ。少しずつ。少しずつ解体されている男が命乞いではなく、苦痛から解放される死を願っている。
「お前達は屑だ。ゴミだ。犬の糞にも劣る存在だ」
呻いている人間、壊れている人間、死んだ人間の区別なく鎧は侮蔑の言葉を投げ捨てる。
「なぜなら聖典にそう記載されているからだ」
自らを“悪への鞭”と名乗る教団。彼らが誇る実働部隊は、聖典に記載されている異端民族へ罰を与えることこそが使命と定め、その異端達に生まれてきたことが罪であるという自覚も与えているのだ。
そこに老若男女の区別はなく、素晴らしき聖典を根拠に善行を積み重ねていた。
「産まれたことが罪だ。生きていることが罪だ」
「ぎゃああああああああああああああ!」
生きたまま燃やされる男の悲鳴も、彼ら騎士。名をゲオルグ、ワイアット、アンドリュー、ネイサンにとってはその積み重ねる善行の一部だった。
「次へ行くぞ」
「ああ」
「そうだな」
「了解した」
リーダー格であるゲオルグは、燃え尽きた人の屍を踏み躙ると、付き合いのワイアットとアンドリュー、ネイサンを引き連れて次の善行を重ねようとする。
いずれも三十代中頃な彼らは、聖典に記された厳しい適性検査に合格している実働部隊の聖騎士で、神への揺るぎない忠誠を有している少数精鋭だ。
そして今日もまた、入手した情報を頼りに異端を追い詰める。
傍から見ればもう少し生産的な行いができないのかと思われるだろうが、そこにあったのは彼らの理屈であり、大義であり、使命だった。
彼らが一つの集団に罰を与えて数か月後。
悪への鞭の聖典で異端と定められた民族が、山奥で暮らしている情報を掴んだ聖騎士は、今日もまた善行を積み重ねようとした。
良き父、良き母、そして幼子だろうと関係ない。聖典で異端と定められているのならば、罪のある存在なのだ。
「すいませーん! どうされましたー?」
その山奥へ向かう途中、ばったりと人間にあっても聖務は変わらない。この周辺は全て汚れた土地である以上は、異端の汚物に関わった者として処理する必要があった。
ただ、異端そのものではないので略式である。
先頭にいたネイサンが常人では認識できない速度で剣を振るい、非常に珍しい黒髪黒目で中肉中背の男を切り捨てた。
【死は終わりではない】
「産まれたことが罪だ。生きていることが罪だ」
「ぎゃああああああああああああああ!」
生きたまま燃やされる男の悲鳴も、彼ら騎士。名をゲオルグ、ワイアット、アンドリューにとってはその積み重ねる善行の一部だった。
「次へ行くぞ」
「ああ」
「了解した」
リーダー格であるゲオルグは、燃え尽きた人の屍を踏み躙ると、付き合いのワイアットとアンドリュー、を引き連れて次の善行を重ねようとする。
いずれも三十代中頃な彼らは、聖典に記された厳しい適性検査に合格している実働部隊の聖騎士で、神への揺るぎない忠誠を有している少数精鋭だ。そのため数は非常に少ないが、適性検査を疑うことは聖典を否定することであるため、人員が乏しい彼らは西へ東へと大忙しだった。
「もう一人いれば楽になるんだが」
「適性試験に合格する者が少ないのは嘆かわしいことだ」
「ああ」
ゲオルグの言葉に残り二人が同意する。
極論すれば四人で四方を囲み、異端を包囲できる技量を持つ聖騎士だが、三人であるため少々忙しい。だがそれでも彼らが聖務に失敗したことがないのは、選び抜かれた精鋭だからだろう。
そして今日もまた、入手した情報を頼りに異端を追い詰める。
傍から見ればもう少し生産的な行いができないのかと思われるだろうが、そこにあったのは彼らの理屈であり、大義であり、使命だった。
彼らが一つの集団に罰を与えて数か月後。
悪への鞭の聖典で異端と定められた民族が、山奥で暮らしている情報を掴んだ聖騎士は、今日もまた善行を積み重ねようとした。
良き父、良き母、そして幼子だろうと関係ない。聖典で異端と定められているのならば、罪のある存在なのだ。
「あれ? 今回はネイサンさんにまだ会ってないぞ。多分五十回目くらいで平均二十年前後……千年ちょいか。折れて聖騎士にならなかったのかな?」
その山奥へ向かう途中、ばったりと人間にあっても聖務は変わらない。この周辺は全て汚れた土地である以上は、異端の汚物に関わった人間として処理する必要があった。
ただ、異端そのものではないので略式である。
先頭にいたアンドリューが常人では認識できない速度で剣を振るい、非常に珍しい黒髪黒目で中肉中背の男を切り捨てた。
【死は終わりではない】
「産まれたことが罪だ。生きていることが罪だ」
「ぎゃああああああああああああああ!」
生きたまま燃やされる男の悲鳴も、彼ら騎士。名をゲオルグ、ワイアットにとってはその積み重ねる善行の一部だった。
「……次へ行くぞ」
「……ああ」
リーダー格であるゲオルグは、燃え尽きた人の屍を踏み躙ると、付き合いのワイアットを引き連れて次の善行を重ねようとする。
いずれも三十代中頃な彼らは、聖典に記された厳しい適性検査に合格している実働部隊の聖騎士で、神への揺るぎない忠誠を有している少数精鋭だ。そのため数は非常に少ないが、適性検査を疑うことは聖典を否定することであるため、人員が乏しい彼らは西へ東へと大忙しだった。
「増員は?」
「やはり難しいようだ。部隊の数を減らして四人組にすることも検討されているが、それだと大きく活動範囲が縮小すると言って反対する者もいるようだ」
ぽつりと呟いたゲオルグに、ワイアットは首を横に振ることで答えた。
彼らは破綻を迎えかけている。聖騎士は厳選されているせいで増員が難しく、ゲオルグとワイアットは二人のペアでしか行動できていない。勿論解決する手段もあるにはあるが、活動範囲の縮小だったり聖典に反したりと色々と問題もあった。
だが今現在も問題だらけであり、二人での活動は疲労を招き、時として異端を取り逃がす寸前の事態まで引き起こしていた。
そんな彼らだが流石は精鋭。今日もまた、入手した情報を頼りに異端を追い詰める。
傍から見ればもう少し生産的な行いができないのかと思われるだろうが、そこにあったのは彼らの理屈であり、大義であり、使命だった。
彼らが一つの集団に罰を与えて数か月後。
悪への鞭の聖典で異端と定められた民族が、山奥で暮らしている情報を掴んだ聖騎士は、今日もまた善行を積み重ねようとした。
良き父、良き母、そして幼子だろうと関係ない。聖典で異端と定められているのならば、罪のある存在なのだ。
「お願いします! お願いします! どうか殺してください! お願いします! もう生きたくないんです!」
その山奥へ向かう途中、ばったりと人間にあっても聖務は変わらない。この周辺は全て汚れた土地である以上は、異端の汚物に関わった人間として処理する必要があった。
しかし妙に様子がおかしい。痩せこけた男が哀願するように、珍しい黒髪黒目の男に縋りついていた。
「まあまあアンドリューさん落ち着いてください。十回目くらいに神の与えた試練だって言ってたじゃないですか」
「違う違う違う! 神なんていない! いない! ああ神よ! どうして私を救ってくだされないのですか! あああああ! いないからああああああああああああ! お願いします殺してください! もうやり直したくないんです! 何も残らない! 全部! 全部あんたが死ぬ度に初めからだなんて嫌だ! そもそもどうしてこんなことを⁉」
「こんな生き方をしてますからね。命を助けられたならできるだけ恩を返してるんですよ。お世話になった人に来月結婚するんだとか言われたら、それが実現するように自分も頑張ろうと思うのは当然でしょ?」
見るに堪えない姿の男が、聞くに堪えない叫びを上げると、ゲオルグとワイアットは侮蔑の感情を抱く。
経緯は知らないが間違った神を信じ、そして無知な信仰すらも投げ捨てるなど醜さが極まっている。
そもそも叫んでいる男は、逞しい聖騎士に比べるとあまりにも貧相極まりなく、涎を垂れ流して血走った眼から涙を流し、とても正気とは思えない有様だった。
勿論、聖騎士達は自分達に気が付かず盛り上がっている人間も粛清する。
ゲオルグが狂人を。ワイアットが黒髪黒目の男を切り捨てた。
【死は終わりではない】
「産まれたことが罪だ。生きていることが罪だ」
「ぎゃああああああああああああああ!」
生きたまま燃やされる男の悲鳴も、騎士。名をゲオルグにとってはその積み重ねる善行の一部だった。
「……次だ」
ゲオルグは燃え尽きた人の屍を踏み躙ると、次の善行を重ねようとする。
三十代中頃な彼は、聖典に記された厳しい適性検査に合格している実働部隊の聖騎士で、神への揺るぎない忠誠を有している少数精鋭だ。そのため数は非常に少ないが、適性検査を疑うことは聖典を否定することであるため、人員が乏しい彼らは西へ東へと大忙しだった。
全て過去の話だ。
彼らは破綻した。聖騎士は厳選されているせいで増員が難しく、ゲオルグは単独での行動を強いられた。勿論解決する手段もあるにはあるが、活動範囲の縮小だったり聖典に反したりと色々と問題もあった。
そしてついに、聖典の背いてでも人員の選定基準を甘くしようとした革新派の者達と、聖典は絶対であると叫ぶ派閥が対立すると、彼らは内乱状態に陥って途轍もないダメージを負う無様を晒して、遠くない未来に消滅するだろう。
だがそれでもゲオルグは聖典に従い彷徨う。
傍から見ればもう少し生産的な行いができないのかと思われるだろうが、そこにあったのは亡霊の理屈であり、大義であり、使命だった。
彼が一つの集団に罰を与えて数年後。
悪への鞭の聖典で異端と定められた民族が、山奥で暮らしている情報を掴んだ聖騎士は、今日もまた善行を積み重ねようとした。
良き父、良き母、そして幼子だろうと関係ない。聖典で異端と定められているのならば、罪のある存在なのだ。
「ああ、どうも。今回はお一人ですか?」
【死は終わりではない】
死に戻りで苦労するのは主人公だけだと誰が決めた。殺した側も巻き添えを食らうがいい。永遠に。全てをやり直し続けろ 福朗 @fukuiti
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