最強を目指して迷宮に挑んだら、最下層の主に!美少女を救ったらハーレムが待っていた!?

@とむ

第1話 気づけばダンジョンの主



 俺はダンジョンの最下層で最強になった。しかし、その強さを試す相手も、戻る場所もなくなった。



 俺は最初から弱かった。転生して最強になったと思っていたが、それはどこかのライトノベルの話だろう。そうだなぁ、どれくらい弱かったかと言えば、軽くパンチをされただけで倒れるほどだった。顔を汚い泥水に押し付けられ、土が口の中に入り、その味が敗北の味だと感じた。悔しかった。俺は強くなりたかった。


 絡んできた連中が去った後、俺は何度でも立ち上がり、何度でも殴りかかる。また負けるけど、その度に俺の中で何かが強くなっていくのがわかった。元不良だった。俺は負けん気が強かったってのもあるかもしれない。


 ひたすらに強さを求めて、俺は「ダンジョン」と呼ばれる異世界の迷宮に挑んだ。冒険者たちが宝や魔物の素材を求め、パーティーを組んで最下層を目指す場所だ。だが、俺は誰ともパーティーを組まず、一人でダンジョンに潜り続けた。


 魔物を1匹倒すごとに、俺は少しずつ力がついていくのを感じた。そして、ついに俺は「スキル」を手に入れた。ダンジョンの全貌が頭にインプットされる「ダンジョンマップ」というスキルだ。これによって、最下層までの最短ルートが見え、視界には矢印が浮かび上がり、モンスターを避けて進むことができるようになった。宝箱やミミックの位置さえもマップに表示される。


 これで誰よりも早く最下層にたどり着ける。俺はそう確信した。


 そして、ついに最下層に到達した。そこにあったのは玉座とミイラ化した王のような存在だった。彼がこのダンジョンの創造者なのだろうか。その体に飾られた指輪や剣、マントを俺はお宝だと思い、ありがたく頂戴した。だが、指輪をはめた瞬間、事態は一変した。指輪は二度と外れず、「最下層の主」というスキルが追加された。


 俺は地上に戻りたかった。しかし、指輪の力によって、地上に戻ろうとする度に自動的に最下層へワープさせられてしまう。俺は地上に戻ることができなくなってしまったのだ。


 俺は食事を取るという欲求を封じられている。喉の渇きも、空腹も感じない。ただ、唯一許されているのは「寝ること」それだけが、俺にとっての救いだ。


 その対価として、俺は圧倒的な力を手に入れた…はずだ。しかし、誰もいないこのダンジョンで、俺が本当に強いのかどうかを確かめる術はない。魔物たちはほとんど狩り尽くし、今やダンジョンは静寂に包まれている。ただ俺一人が、この石の塊の部屋、玉座の間に閉じ込められている。


 魔物を狩ることだけが、俺の生きがいだ。腹は減らないし、食事を取る必要もない。それでも、俺は魔物の肉を焼いて食べることにしている。何も得られるものはない。ただ、食事という行為そのものが、時間を埋めてくれる唯一の儀式なのだ。もし、それすらなくなったら、俺はこの永遠の時間に呑み込まれてしまうだろう。


 まるで不老不死のような状態だが、その代償として、時折とてつもない睡魔に襲われることがある。力を使いすぎると、突然の眠気が全身を覆う。それに抗うことはできない。


 その時は、この安全な玉座の間に戻り、ただひたすらに眠ることで体力を回復する。孤独の中、力を持ちながらも何も変わらないこの繰り返しが、俺の日常となっている。


 ダンジョン内を散歩することが、もう一つの俺の日課になっている。特に目的はない。ただ歩くだけだが、それでも時折他の冒険者たちが迷ったり、困っていたりするのを見かけることがある。そんな時は、陰ながら手を差し伸べることにしている。


 例えば、毒に侵され倒れている冒険者を見かけた時は、こっそり毒消しを置いていく。彼らは突然の回復に驚き、仲間同士で「何が起こったんだ?」と困惑している様子を遠目で見るのも、少しした楽しみだ。


 ある時は、トラップにはまって身動きが取れなくなった冒険者を助けたこともある。罠を解除してやり、そのまま立ち去ろうとしたが、彼らは俺を見つけて礼を言い、一緒に地上に戻って飲まないかと誘ってくれた。しかし、俺はもうこのダンジョンの一部になりつつある。地上へ戻る理由もない。


「まだダンジョンに残るから」と告げ、誘いを断った。それ以上彼らが何かを言う前に、俺はまた玉座の間へ戻った。


「暇すぎる!!」


 子供のように喚いても、誰にも聞こえない。剣を振っても、その技を見てくれる者はいない。中二的な行動を取ったところで、痛い人だと笑われることもない。ただ、誰もいない空間に自分の声が虚しく響くだけだ。


 孤独に満ちた玉座に腰を下ろし、周囲を見渡しても何も変わらない。ダンジョンという名の迷宮に閉じ込められた俺は、ここで最強の存在になってしまった。だが、その強さを試す相手も、喜びを分かち合う仲間もいない。

 再びダンジョンを散歩し始めると、いつものように冒険者がトラップにかかって倒れていた。冒険者たちの表情は蒼白で、息も絶え絶えだ。このままでは、彼らがゾンビになってしまう。そんな姿を何度も目にしてきたからこそ、俺はそれを見過ごすわけにはいかない。


 蘇生の魔法を使えるわけではないが、彼らを助ける手段はある。俺はそっとその冒険者を抱え上げ、慎重に歩き始める。ダンジョンの出入口付近まで運び、少しでも早く助けが来るようにするのが、今の俺にできる唯一のことだ。


「大丈夫だ、ここまで来ればあとは誰かが助けてくれるだろう」


 俺は冒険者の体を慎重に下ろし、再びダンジョンの奥へと戻っていく。こうして誰にも気づかれず、冒険者を助ける日々が続いていく。誰も感謝してくれないが、それでいい。俺がここで孤独に生きる意味が少しでもあるのなら、それは彼らを救うことにあるのかもしれない。

 俺はダンジョンの主として、そして影の実力者になりつつある。

 お金自体は必要ないと思っているが、男としての本能なのだろうか、何かをコレクションしたいという欲求に駆られてしまう。ダンジョン内に転がる宝石や希少な鉱石を集め、それを冒険者たちと交換して金銭を得ることもある。特に意味はないが、集めること自体が目的になっているようなものだ。


「いつか役立つかもしれないし、持っておいて損はないだろう」


 そんな風に考えながら、財産を蓄えている。俺がこのダンジョンで倒れた時には、次の冒険者がこの宝石や剣を手に入れるのだろう。彼が新たなダンジョンの主となり、また同じ運命を辿ることになるのかもしれない。

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