第53話

蓮は家を出たあとも指輪と美月にもらった腕時計を外さなかった。


毎日をその指輪と時計と共に過ごした。


一年が過ぎても二年が過ぎても外さなかった。

他の女性と幸せになるどころか他の女性を見る気にもならなかった。心の中にはいつも美月がいた。彼女の素直さを、優しさを、寝顔を、笑顔を、泣き顔を毎日思い出しながら過ごしていた。


彼女の連絡先は全てのSNSから消した。

もしも彼女が彼に追いつけなかったとしたら帰ってくる場所がなくなってしまう、一人きりになってしまう。もしかしたら殻に閉じこもってしまうかもしれない。それでも蓮には彼女を振り切る方法をそれしか知らなかった。


そして何より彼女が彼に追いつくことを確信していた。僕の知る彼女なら必ず彼に追いつく。必ず彼を捕まえて二人で幸せになる。それを心から信じていた。



ごめんね、美月。まだ君以外を見る気にはなれなさそうだ、いつまでもいつまでも君を縛り付けてごめんね。

僕もいつか、いつかきっとどこかで幸せになる。きっとまた幸せにしたいと思う人に出会う時が来る。その時までにこれを外せる自分になるからもう少しだけ待っていて欲しい。


だから、君がどこかで彼と幸せになっていることを願うよ。


ーー君が幸せならそれが僕の幸せだから。


蓮の部屋には毎週新しい水仙が飾られていた。こんなに未練たらしい男だって知られたら彼女に遅くなったとしてもいつかは愛想をつかされていただろう、なんて考えていた。


蓮の恋は、五度目の失恋を迎えた。


彼女が幸せである事を祈って。


さようなら、ありがとう。僕の愛した人。


これが僕の愛し方だ。

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